表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十八章 鷺山
145/228

18-2話 黄色の数珠を取り出した

馬脚(ばきゃく)を現したな。こん詐欺師が!」


「はて、詐欺師とは私のことでしょうか?」


 開斗に一喝されるも涼しい顔で受け流す鷺山(さぎやま)


 その態度が(かん)(さわ)ったのか開斗はさらにヒートアップする。


「当ったり前や。お前以外に誰がおるんや。何や知らんが、どーせガラクタみたいなモンを売りつけようとしとるんやろうが」


「ガラクタではございません。ファイヤークリスタルブレスレットです」


「名前なんてどーでもえーわ。インチキなガラクタ売りつけんなって言うてんねん」


「おやおや? 霧崎殿はこのファイヤークリスタルブレスレットを買われたことがあるのですか?」


「あるわけないやろ!」


「でしたら、買いもぜず使われてもいないのに文句を言うのはおかしいのではないですか?」


「アホか! 買わんでも分かるわ!」


 言い争う開斗と鷺山(さぎやま)に挟まれた鉄太であったが、淀川の河川敷でも似たようなことがあったなと思ったとき、ふと脳裏にある光景が浮かんだ。


「あ、そうや! 〈第七艦隊〉さんや!」


「何や、どうしたいきなり?」


「実はな……」


 鉄太は、開斗に思い出したことを告げる。


 2週間ほど前、淀川河川敷で〈第七艦隊〉に怒られ頭を下げた時に、彼らの腕に鷺山(さぎやま)が腕にしているのと同じ、透明な数珠がはめられていたことを。


 その話を聞いた開斗は数瞬考え込んだ後、「そーゆーことか」と吐き捨てるように言った。


「カイちゃん。もしかして……」


「そやろな。ストラトが言うてた〈第七艦隊〉を(たぶら)かした霊媒師っちゅうのがコイツや」


 鉄太はゾッとした。


 開斗に止められていなかったら、危うく500円をドブに捨てるところであった。


 また、鷺山(さぎやま)を自分のことを理解してくれるいい人と思い始めていただけにショックも大きい。


 鉄太は、鷺山(さぎやま)から距離を取るべく、2歩後ろにさがった。


 しかし、明確な拒絶の意思を示されてもローブの男は笑顔のままであった。


「一体何の話でしょうか? 私は霊媒師などではございませんよ」


「しらばっくれんなや! 茶髪の天ねんパーマ(てんぱ)デブと、金髪のロン毛デブに、そのガラクタ売りつけたやろ」


 先輩芸人に対してヒドイ言いようではあるが、鷺山(さぎやま)には誰について話しているのかは伝わったみたいで、彼は数珠を持つ手の人差し指を立てて前後に振った。


「あーあーあー。思い出しました。私がお救いした方々ですよね。確かにおっしゃるようにあの方々には数珠をお譲りしました」


「何が、〝お救いした〟や。人の不幸に付け込んでアコギな商売しくさりよってからに。それだけやないで。ワイらがアイツらの運を奪ったとかトンデモないこと吹き込んだやろ。おかげでエラい目に()うたで。どないしてくれるんや」


 開斗が(まく)し立てる中、鷺山(さぎやま)は、片手を広げ〝待て〟というようなジェスチャーをした。


 しかし、目の見えない開斗には伝わるワケもなく、言葉が途切れるのを待ってから反論を始めた。


「まず、誤解を正させていただきます。アコギな商売とおっしゃいましたが、この数珠を500円で売っていかほどの儲けがあるとお思いですか?」


 確かに。例えオモチャの数珠であっても10円や20円で買えるものではない。


 二束三文の壺を10万円で売っているわけではないのだ。


 アコギは言い過ぎかもしれない。


 鷺山(さぎやま)は演劇でもしているかのように、身振り手振りをしながら話を続けた。


「私があのお二人に出会った時、自殺でもしまうのではないかと思うほどヒドイ精神状態でした。

もし、500円が高いとおっしゃるのであれば、彼らの命は500円より安いということになりますが如何(いか)に?」


「何、自殺するって決めつけとんねん。そんなガラクタ買わんでも自殺せんかったかもしれへんやろ。人が弱っとる時、狙って売りつけとるだけや。このハイエナが」


「手キビシイことをおっしゃいますな。でしたら、ご迷惑をおかけしてしまったようでもありますし、お()びの印として、こちらを差し上げましょう」


 そう言うと鷺山(さぎやま)はローブの内側から、黄色の数珠を取り出して天に掲げた。


「サンシャインクリスタルブレスレットです。これを持つ者には太陽の意思が宿り、勝負に勝つ確率がなんと50%も上がります」


「いるかアホ! 何や50%て」


「おやおや、本当によいのですか? 確か霧崎殿は、次の日曜日に大事な勝負があるとお(うかが)いしておりましたが……」


 鷺山(さぎやま)は不安を煽るように(ささや)いて来た。


 そうなのだ。今日から5日後の日曜日には例の始球式があり、開斗は昼の練習とは別に、夜中に秘密の特訓までしてフーネとの対決に執念を燃やしているのだ。


 是が非でも勝ちたいに違いない。


 しかし、開斗は心底呆れたようにため息をついてからこう言った。


「あんなぁ、勝負するからには勝ちたいとは思っとるわ。けどな、それはワイの力で勝ちたいんであって、お守りの力で勝ちたいなんて全く思ってへんのや。そいつは、鳥羽のおっちゃんにでもくれてやれ」


 彼らしい清々(すがすが)しい答えを聞いて、流石(さすが)だなと思った。


 しかし、正直な話、インチキだと思っていても、鉄太はさっきの赤色の数珠に若干の未練があった。


 後でこっそり鷺山(さぎやま)の部屋を尋ねて売ってもらおうかと思っていたら開斗から肩をつかまれた。


「テッたん。ウヒョヒョ座ではすまんかった。だから、キャッチボールの練習に付き()うてくれ」


 そう言うと開斗は頭を下げた。


 あの時の裏切り行為は、腹に()えかねている。だが、先ほどのやり取りを聞いた上で頭まで下げられたら断れない。


「しゃーない。今回だけやで」


 鉄太は鷺山(さぎやま)に別れを告げ、開斗を連れて近所の空き地へ向かうため回れ右をした。


「それにしてもカイちゃん、随分(ずいぶん)素直に謝れるようになったやんか」


 鉄太がからかうと、無言で手刀ツッコミを食らわせて来た。

次回、第十九章 待ち合わせ

19-1話 「名刺交換しようにも」

つづきは2月26日、昼12時にアップします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ