表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十七章 ウヒョヒョ座
142/228

17-6話 ぶっきらぼうに言い放ち

「クンカ師匠。なんか恩着せがましく言うてはりますけど、オホホ座クビになったんは、そもそも師匠のせいやで」


「はぁ? 何言うとんのや霧崎! 言いがかりも大概(たいがい)にせぇ」


「言いがかりちゃいますわ。だって、さっきの話からするとオホホ座の総支配人が下ネタ嫌いになったんはクンカ師匠のせいやろ。もし、オホホ座の総支配人が下ネタ嫌いにならへんかったらワイらクビにならへんかったんとちゃいますか?」


 開斗の指摘を聞いて鉄太は思い出した。総支配人が下ネタを嫌うのは〝芸名を下品にイジり倒されたから〟ということを。


 これまで鉄太は親身になって骨を折ってくれたクンカに申し訳ないと引け目を感じていたのだが、その気持ちがやや薄らいだ。


「はぁああああ!? 何のことやさっぱり分からへん! さっぱり分からへん!」


 一方、クンカは目を泳がせながら大声で否定の言葉を繰り返した。ただ、具体的な反論はまったく無い。


 その様子を見た支配人が笑い出す。


「ははははは。久彩(くさい)、この話は無しやな。紹介料も無しちゅうことで」


「イッちゃん! ちょ、ちょっと待ってくれ。あと30分、いや10分で説得したるから」


 交渉を打ち切ろうとする支配人に、クンカが必死に食い下がる。


「師匠、師匠、紹介料ってなんですの?」


 鉄太が尋ねると、クンカが慌てて口元を両手で押さえた。


 ウヒョヒョ座と契約することを、やけに熱心に勧めると思ったら何のことはない。金目当てだったのだ。


「まぁ、そういうこっちゃ。ソイツは小銭欲しさにお前らを売り飛ばそうとしとったんや」


「イッちゃん、人聞きの悪いこと言わんといてくれ。紹介料やない。交通費や、交通費(こーつーひっ)


 見苦しい言い訳をするクンカを冷めた目で見る鉄太。


 ウヒョヒョ座との契約をしないことに関して、クンカに申し訳ないという気持ちがあったが、それも全く無くなった。


 これで何の気兼ねなく断れるというものだ。


 ウヒョヒョ座の支配人が契約にそれほど熱心でなかったこともラッキーであった。


「じゃあ、そろそろワテら失礼しますんで」


 長居してもロクなことはなさそうなので鉄太は辞去(じきょ)の挨拶をする。


 しかし、下須が待ったをかけた。


「ウチと契約せんのやったら、一筆(いっぴつ)書いてから帰ってくれるか?」


「え? どういうことですの?」


 契約する時にサインをしたことはあるが、契約しない時にサインするなど今まで経験したことがない。


 疑う鉄太に、下須はニコニコしながら答えた。


「いや、ウチみたいな業界トップともなるとな、後から難癖(なんくせ)つけてくる奴が多いねん。だから契約せん時もちゃんと同意しませんに丸をつけてもらって証拠にしとるんや」


 支配人に指示された押目は支配人室から出て行き、2分と経たない内にファイルを持って戻って来た。


 そして、ファイルの中から書類を取り出し鉄太の前にペンを添えて置いた。


 書類を見てみると契約書と記されており、細々と文字が記されているが、中ほどに『1.同意します』『2.同意しません』の2つが大きく書かれており、一番下には署名欄もあった。


 このような事もあるのかと思いながら鉄太はボールペンを握った。


 だが、サインをしようとした時にふと嫌な記憶がよぎった。


 少し前、金島から給与の前借をしようとした時、契約内容を全く読まずにサインしてしまい非常に気分の悪い思いをしたのだ。


 鉄太は手を止めて、契約書の内容に目を移した。


 読み進めるうちに眉間にシワが寄って来る。


 難しい漢字がやけに多いので正確な意味は分からないのだが、それでも言い回し的におかしな書かれ方になっているように感じた。


「カイちゃん、ウヒョヒョ座と〝けいやく〟って書いてると思うんやけど、それで『同意する』に丸つけたら〝けいやく〟することになるんやろ?」


「テッたん。絶対サインしたらあかん! コイツらペテンにかけようとしとるで!」


 開斗の言葉に鉄太は慌ててペンを置いた。


 そして、恐る恐る下須の顔を伺うと、先ほどのにこやかな表情が消え失せていた。


「こら、押目。プタの方は漢字もロクに読めへんほどメッチャアホやって聞いとったけど話がちゃうやないかい」


「申し訳ございません」


 慇懃(いんぎん)に頭を下げる押目を見て軽くショックを受ける。


 鉄太は彼を好感の持てる紳士だと思っていたのだが、相手からは〝メッチャアホのプタ〟と思われていたのだ。


「ワテら帰りますんで」


 鉄太がぶっきらぼうに言い放ち腰を浮かせたその時、下須が訳の分からないことを言い出した。


「かまへんで。実はもうサインもらっとるしな」


「は?」


 支配人が指を鳴らすと、押目がファイルの中から紙を2枚取り出して広げて見せた。


 それらの紙は契約書と書かれてあり、下の署名欄には確かに鉄太と開斗の字でサインが書かれていた。


 鉄太は混乱した。


 あのような紙にサインをした覚えがなかったからだ。

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

次回、17-7話 「アイツがホンマに好きなんは」

つづきは2月13日、日曜日の昼12時にアップします。

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ