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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十六章 クビ
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16-2話 当たり引く、確率上げよう思ったら

 漫才を終えた月田から講評を求められた鉄太。


 しかし、人の作品を評価することは常に危険が伴う。


 特に自ら評価を聞きに来た場合などは()められることしか想定していない場合が多く、辛口のコメントなど言おうものなら即戦争である。


 師匠と弟子といった絶対的な立場の違いでもない限り言わない方が無難というものだ。


 幸いにも、月田が評価を求めたときに使った言葉は〝先輩〟のみである。


 立岩先輩と限定していなかったのだ。


 ならば、進んで爆弾処理をすることもあるまい。黙っていれば開斗が何か言ってくれるだろう。


 鉄太は、さりげなく開斗の方を見ることで、月田に〝開斗が言いますよ〟的なポーズをとった。


 すると開斗が口を開く。


「ワイはネタ書いてへんからテッたん頼むわ」


 なんと、開斗は爆弾を拾って手渡してきたのだ。


「ちょっと、カイちゃん……」


「ワイは目が見えへんから、テッたんの方がイロイロ気ぃ付いたやろ」


 抗議しようとした鉄太だったが、それは開斗によって封殺されてしまった。


 仕方なしに、気を付けながら言葉を紡ぎ出す。


「……ところでまず聞きたいんやけど、ネタって全部で何本作ったの?」


「えぇっ!? ぜ、全部で2、3本っすけど……」


 目を逸らしながら答える月田。


(いや、2、3本って何やねん)


 多分、2本と言うのが恥ずかしいからそう答えたのだろう。


 となると、レパートリーは前回見た〝肩ぶつかるネタ〟と今のヤツだけだという事になる。


「月田君。プロとアマの違いってなんやと思う?」


「金稼ぐか稼がんかやないっすか?」


「せやな。じゃあ、金を稼ぐにためにプロは何をすればエエ?」


「ネタを沢山作る」


「せや。どれだけネタを作れるかがプロとアマの違いや」


 偉そうに講釈を垂れる鉄太であるが、笑林寺で習ったことそのまま言っているにすぎない。だから月田もスラスラ答えることが出来る。


 ただ、笑林寺に通っていない者には素直に受け入れられないのかヤスが会話に割り込んできた。


「ちょっと聞いていいでやすか? ほとんど1本のネタでやってるプロも結構いるでやすが」


 確かにテレビなどで見る芸人などは1本のネタでしかやっていない印象が強い。


 芸人を一発屋として使い潰すテレビの悪い部分であるが、例えテレビに出ていない芸人でも、ウケるネタが出来たらヘビーローテーションしてしまうものなのだ。


「せやな。ヤス君の言うとおりや。でも、自分が1本のネタしか見たことないからいうて、その芸人が作ったネタが1本やと思うか?」


「い、いえ」


「ネタっちゅうのは宝クジに似てんねん。当たればそれだけで食ってけるけど、圧倒的にハズレが多いんや。当たり引く確率上げよう思ったらとにかく数引くしかないねん」


「……分かりやした」


 鉄太の言葉にヤスが引き下がる。すると、西錠、島津、クンカらが(はや)し立てて来た。


「いよっ、立岩先生!」

「ヒューヒューでごわす」

「日本一!」


「ちょっと、茶化すのヤメテもらえます?」


 仏頂面をする鉄太であったが内心は、ネタの内容に全く触れずに上手いこと(けむ)に巻けたと安堵していた。


 しかし、そうは問屋が卸さなかった。


「そんで終わりか? テッたん」


 開斗がクレームを付けて来たのだ。


「今言うたの学校(がっこ)で言うてることまんまやろ。コイツらのためにも、もっと具体的なアドバイスしたってくれ」


 開斗の言葉に、折角帰りそうな雰囲気だった月田とヤスが話を聞くような体勢に戻ってしまった。


 鉄太は『何してくれてんねん!』と口から出そうになるのを何とか(こら)えて言い訳をする。


学校(がっこ)で言うてること言って何が悪いんや。この子らは次のステップに行く段階やないねん。笑気もネタも練習も足りてへん」


「そんなこと言うてるんとちゃうねん。ネタ見てどうやったって話や。ネタ見んでも言えること言うてもしゃーないやろ。

 それに、月田はただの後輩やない。一緒の部屋に住んどる仲間や。もうちょっと親身にアドバイスしてやってもバチ当たらんとちゃうか?」


 随分(ずいぶん)と後輩思いのセリフを吐く開斗。


 月田の名前もロクに憶えてなかったクセによくそんなことが言えたものだと鉄太は(あき)れた。


「霧崎先輩!」


 しかし、開斗の言葉に月田は感激したようだ。


 もしここでアドバイスしなかったら、器の小さい人間と思われるだろう。


(まぁ別にいいけど)


 鉄太は兄貴肌の男ではないし人望が欲しいとも思っていないので、狭量(きょうりょう)(さげす)まれたところで痛くもかゆくもない。


「テッたん。もしかして、コイツらの漫才見ても何もアドバイス思いつかんかったんか? だとしたらスマンかったな」


 沈黙する鉄太に開斗が(あざけ)るような謝罪をしてきた。


 安い挑発だと分かってはいるが漫才に対して鉄太は人一倍向き合ってきたという自負があった。


 器が小さいと笑われることは我慢できるが、漫才のアドバイスも出来ない人間とバカにされるのは我慢ならなかった。


 鉄太は大きく溜息を吐き出すと月田とヤスの方を向く。


「カイちゃんがそこまで言うならアドバイスしたるわ。でも、絶対反論しないって約束してくれる?」

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。


次回、16-3話 「本当に、投球練習するつもり」

つづきは1月9日、日曜日の昼12時にアップします。

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