14-4話 アカンやろ、絶対問題になるやんけ
朝戸のモデル仲間との合コンを開くことを要求してくる島津に、鉄太は「努力します」と明言をさけた返答をした。
正直な所、仮に朝戸と付き合うことが出来たとしても彼女に合コンのセッティングをお願いするつもりは無かった。
お願いしたところで実現するとも思えなかったし、自分の好感度を下げて破局になるなど真っ平御免である。まだ付き合ってもいないのであるが。
しかし、クリーチャーは都合がいい様にに解釈したようで機嫌が良くなった。
「じゃあ、話は変わる……いや、というか今の話に関係したことで、もう一つお願いがあるんでごわすが……」
島津は笑顔でさらなる要求をしようとする。
すると、開斗が呆れたように口を挟んできた。
「まだ何んかあんのかい。ええ加減にせんと収録時間無くなってまうで」
「いやいや、これはラジオにも関係する話でごわす」
「何や?」
「始球式の件でごわすが、おいどんにも一枚噛ませて欲しいでごわす」
「そんなんワイらに言わんと、直接、肥後Dに頼めばええやろ」
何しろ〈えーびーすーテレビ〉は〈えーびーすー放送〉の子会社なのだ。他グループのテレビ局でもないのだから特に障害もないはずだ。
「それもそうなんでごわすが、コラボすることのほどでもないというか……」
歯切れの悪い返事をする島津。
「何がしたいんや? そもそも始球式は再来週やぞ。今日の収録かて放送は来月や。間に合わへんやろ」
〈満開ラジオ〉は毎週水曜日の深夜2:00に放送している。ただし、収録してから1か月後に放送するので、今日の収録は来月上旬の分である。
とはいえ、絶対不可能かと言えばそんなこともなく、今日の収録を来週の放送に差し込むことは可能なはずだ。なにしろ5日もあるのだから。
「そういうことではないでごわす。実は、球場で〈満開ラジオ〉の公開収録をやりたいでごわす」
「なるほど、そらオモロイかもしれへんな」
島津の出した企画は開斗の関心を引いたようだ。
まぁ、球場に集まった人に〈満開ラジオ〉を認知してもらった所で聴取率にどれほどの影響があるか分からないが、努力して悪いことはないだろう。
ただ、それならば尚のこと〈オーマガTV〉に話を通すべきではないだろうか?
テレビの告知はそれなりに影響力があるのだから。
開斗も再び肥後Dに相談するように勧めるが、目の前の巨漢は適当な相槌をするだけであった。
もしかしてテレビ局に対するコンプレックスでもあるのかもしれない。
ラジオ局の一部門から出発したというテレビ局の歴史から、〈えーびーすー放送〉は〈えーびーすテレビ〉の親会社なのだが、事業規模では完全に子会社のテレビ局に凌駕されているのだ。
開斗はこれ見よがしにため息を吐いたが、島津は見ないふりをして話を進める。
「公開収録は試合中に観客席で行うでごわす」
「マジか? よう球団側OK出したな」
「許可は取ってないでごわす」
「は!?」
「ゲリラ収録やるでごわす」
『えええええええ!?』
島津の言葉に鉄太と開斗は叫び声を上げた。
「いやいやいや! アカンやろ! 絶対問題になるやんけ」
「ゲリラは問題になってナンボでごわす。他局のニュースにも流れれば、夕方の情報バラエティーの終わり間際にチョロッと番宣するよりズッと効果があるでごわす」
どうやらそれがオーマガTVとコラボしたくない理由のようだった。
確かに効果はあるだろう。しかしそれは諸刃の剣である。
某有名漫才師が路上ゲリラライブを行って、警察に逮捕されたという事例もあった。
「ワテそんなんイヤや。逮捕されたないし」
「せやな。ラジオの宣伝で逮捕されたら割りに合わんやろ。大体下手したら番組打ち切りになるかもしれへんけど、ゴワっさんはそれでええんか?」
「ノーリスク、ノーリターンでごわす」
「いや、リスクとリータンが釣り合ってないやろ。そんな心中みたいなことに付き合えるか」
当然の如く鉄太と開斗は難色を示した。
すると、島津が腕組みをしながら一つの提案をする。
「なら、ライブの宣伝になるとすればどうでごわす? 今月末にライブがあるんでごわしょ? チケット何枚売れてるでごわすか?」
「むぅ~~」
その言葉に開斗は低く唸って押し黙った。
チケットはまだ、ストラトに渡した10枚しか売れていなかった。
揺れる開斗に島津はもうひと押しする。
「チケット販売に協力するのも吝かではないでごわす」
「じゃあ、手付として10枚買ってくれるか?」
「お安い御用でごわす」
「それと、きっちり書面にしてもらうで。公開収録で賠償や罰金が発生したらそっちが負担するってな」
「大丈夫でごわす。そもそもゲリラライブが逮捕されるのは道交法に違反しているからでごわす。私有地であれば民事なんで、和解すれば逮捕はされないでごわす」
島津の主張はホントかどうが疑わしかったが、開斗が承諾してしまった。
そして、書面誓約の件に関しては明日にでも金島にしてもらうということで、取り敢えず話が付いた。
「じゃあ、もう時間でごわすしそろそろ収録始めるでごわすか」
「え!?」
壁の時計を見ると30分以上経っていた。
予約したスタジオは、次の番組収録もあるため延長はできない。
鉄太と開斗はロクな打ち合わせもないままにスタジオに入った。
次回、第十五章 豆球
「15-1話 いつもより早いペースの投球に」
つづきは12月18日、土曜日の昼12時にアップします。
豆球は誤字じゃないです。