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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十四章 既成事実
122/228

14-1話 先生と同じアパートに住んでます

 オーマガTV生放送の翌日。


 本日の〈満開ボーイズ〉のスケジュールは、午後から〈えーびーすーテレビ〉で収録、夜に〈えーびーすー放送〉でラジオ収録である。笑パブの仕事はない。

 

 鉄太と開斗はテレビ収録前に、キャッチボールの練習のため、〈下楽下楽(げらげら)〉に野球道具を取りに行き、いつもの公園に向かう。


 雲一つない晴天であるが、昨日が雨だったので蒸し暑い。


 公園そばまで行くと、まばらながら人垣ができており、やけに賑わっていることに気付いた。


 いやな予感しかしない。


 大方昨日の放送をみた人々が、自分の醜態を(わら)うために集まっているのだろう。


(行きたないな)


 鉄太は人を笑わせるのは好きだが、人に(わら)われるのは嫌いなのだ。


「カイちゃん、公園なんや人がぎょうさんおるで。もしかして、ワテらが行くと邪魔になるかもしれへんから今日はやめとこか」


 しかし、開斗は承知しなかった。


「始球式は5月20日や。あと9日しかないねん。ここが無理なら淀川の河川敷に行って練習しよか」


「いや、よく見たらワテらがキャッチボールするくらいのスペースはあるみたいや」


 河川敷までは1時間ほど歩かねばならない。どーせ痛い思いをするなら、歩かないで済む方がマシである。




 開斗を連れて鉄太は嫌々ながら公園に入ろうとする。


 公園の周りには少なからず人がおり、彼らは公園中を見ているが、鉄太がそばを通っても中から目を離さない。


 どうも鉄太のことを見に来たという雰囲気でもなさそうだ。


(どっかの草野球チームが練習でもしてんのやろか?)


 やや安心する鉄太で会ったが、公園に入るとそこには想像を絶する光景が広がっていた。


 なんと5組の高齢者が自分たちのように、球を体で受けるキャッチボールをしていたのだ。


 鉄太が絶句して立ち尽くしていると、服の上から亀甲縛りをしている男が小走りで近づいて来た。


〈マゾ西錠(さいじょう)〉である。


 日本の警察は一体何をしているのだろうか?


 鉄太が地域の公序良俗に対して深刻な懸念を抱いていると、西錠が鉄太に対して深くお辞儀をした。


「先生! お待ちしてました」


「せ、先生!?」


「おーーい、みんなーー。先生が来たでーー。挨拶や」


 西錠の呼びかけると他の9人が集まって来た。


『よろしゅうお願いします!』


 彼らは鉄太と開斗に向かって一斉に頭を下げるが、鉄太は頭を抱えたくなった。


 それというのも西錠の他に見知った顔が二人いたのだ。


「クンカ師匠……ですよね?」


 鉄太は一番左端にいた男に確認した。


 彼とは太陽の下で会ったことがなかったため、いまいち分かり辛かったが、この落ち武者のような頭髪は〈下楽下楽(げらげら)〉のドブ芸人〈靴下クンカクンカ〉に違いない。


「ここで師匠はやめて下さい立岩先生。どうかクンカと呼び捨てて下さい」


「冗談はやめて下さいクンカ師匠」


「エエがなエエがな立岩先生。本人もこう言うてることやし、呼び捨てにしてやれや」


 鉄太とクンカのやり取りに口を挟んできたのが白髪坊主の老人、武智(むち)だった。


 彼は鉄太の住むボロアパート〈笑月パレス〉の6号室の住人であり、『ぶち殺すぞ』が口癖の危険人物だ。


 その武智(むち)に立岩先生と呼ばれて鉄太は全身にサブイボが立った。


 これまでアパートでは、彼は鉄太のことなど眼中にないように振舞っており、名前など呼ばれた記憶がないのだ。


「ホンマ勘弁してください」


「何や、二人は知り合いなんか?」


 クンカから問われ、鉄太は同じアパートの住人であることを説明した。


「師匠こそ、お知り合いですか?」


「この人は西錠の相方やで」


「え!? (ころ)ジイ……いや、武智(むち)さん、芸人やったんですか?」


 鉄太は、彼のことを元騎手だと聞いていたのだが意外や意外である。しかし、その考えはクンカに否定される。


「いや相方言うてもSMプレーのやけどな」


 西錠を見るとエッヘンと胸を張っていた。


(……聞くんやなかった)


「テッたん。一体何が起きとるんや?」


 蚊帳(かや)の外の扱いになっていた開斗が溜まりかねたようで、鉄太に尋ねて来た。


「こっちが聞きたいわ」


 すると西錠が二人に答えた。


「我々は、先生たちのプレーに感銘を受けた者や」


「プレーって……」


「もちろんSMボールのことやで」


「変な名前付けんといて下さい!!」


 思わず叫ぶ鉄太。


 しかし、西錠は無視してメンバーに自己紹介するように促した。


「〈靴下クンカクンカ〉です。先生と同じ笑パブで芸人させてもろてます。クンカと呼んで下さい。ポジションはMです」


武智呉郎(むちごろう)です。先生と同じアパートに住んでます。ポジションはSです」


(いや、ポジションって何やねん!)


 その後も他のメンバーの自己紹介が続いたが、エアロビのレオタード姿のジジイや、付けている黒ブラジャーが透けて見えたりするジジイや、ステテコにルーズソックスを履いているジジイどもが続き、顔や名前など全く頭に入って来なかった。

次回、14-2話 「始球式、終わった後の打ち上げで」

つづきは12月5日、日曜日の昼12時にアップします。

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― 新着の感想 ―
[一言] S・M・ボール!!! S:大豆(ソイ)を M:本気(マジ)で ボール:ボールの様に投げつける。
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