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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十三章 楽屋裁判
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13-6話 悔しさに、再び涙がこみ上げる

 鉄太は夢遊病者のように虚ろな目をしながら、右へ左へと定まらない足取りで進む。


そして、開斗が待つ所までたどり着くと、壁にもたれかかり、そのままズルズルと座り込んだ。


「どやった?」


「……何や分からんけど、イズルちゃんの声はしたけど、何かカセットテープみたいで、いきなり度数がメッチャ減ってたんや……外国にでも掛けてもうたんかな?」


 鉄太は今しがた体験した出来事を開斗に話した。


 いまいち要領を得ない内容であったが、開斗には伝わったようで、彼はノドを鳴らして笑った。


「テッたん。それ、ダイヤルQ2(キューツー)や」


「だいやるきゅーつー?」


「簡単に言えば、ボッタクリ電話や」


 ダイヤルQ2(キューツー)とは、NTTが立ち上げた情報サービスである。


 情報を発信するサービス業者が通話料とは別に設定された情報料を受け取れる仕組みであるが、子供が長時間利用して何百万円請求されたりなど、何かと問題の多いサービスであった。


「分かったやろ。あの女にカモられたんや。これに懲りたら……」


「ちゃう!」


 鉄太は開斗の説教を遮って否定した。


「いや、ちゃうことあらへんやろ」


「ちゃうちゃう! すり替えられたんや!」


「すり替えられたって、誰がやねん。まさか〈下楽下楽(げらげら)〉ですり替えられたとでも思っとるんか?」


「肉林兄さんや!」


 朝戸のメモを受け取った肉林が、鉄太に渡す前にすり替えたと考えるのが一番しっくりくる。


 とにかく肉林は女癖が悪いことで有名なのだ。


 グラビアアイドルの電話番号を受け取って、そのまま人に渡すことなどあるだろうか?


「絶対(ちゃ)うやろ。肉林兄さんはあの女は危ない言うてたし」


「なら、ディレクターや!」


 思い返してみれば、ディレクターの肥後(ひご)はスタッフのADに手を出しており、いかにもヤリそうな顔をしている。

 

 それに、朝戸からメモを受け取ったメモを肉林に渡す前にすり替えることが難なく出来る立場である。


「何でやーー!! くそーーーー!!」


 鉄太は鼻をすすりながら叫んだ。


「泣いてんのか?」


「泣いてへん!」


「もうどうでもエエわ。さっさと帰らせてくれ」




 駅からアパートに向かう鉄太と開斗。


 雨がシトシトと振っている。


 鉄太は介助のために手がふさがっているので、開斗が傘を持ち、二人は身を寄せて歩いている。


 駅を出てからずっと無言である。


 鉄太は歩きながらどうするべきか考えている。


 怒鳴り込みたいのは山々だが、肉林か肥後(ひご)のどちらが犯人なのかが分からない。


 いや、番組MCの伊地栗(いじくり)という可能性だって無いわけではない。


 もし、無実の相手に難癖をつけてしまったとしたら、色々不味いことになりそうだ。


 先輩の肉林を怒らせれば、今後のTV活動に支障をきたすことになるかもしれないし、大御所の伊地栗やディレクターを怒らせるのはもっとマズイ。


 また、誰を先に問い質すにしてもシラを切られれば終わりである。


 証拠がないのだ。


 嘲笑(ちょうしょう)する彼らの顔が脳裏に思い描かれた。


 悔しさに再び涙がこみ上げる。


 いっそ警察にでも訴えようかと思ったその時、ふと閃いた。


 ディレクターの肥後(ひご)に訴えればよいのではないか。


 貰ったメモが偽物だったから本物をくれと。


 肥後(ひご)が本物の電話番号を手に入れてくれればそれでよし。


 もし、手に入れてくれなければ、始球式に出なければいい。


 約束が破られたのだから、こちらも約束を守る義理はないのだ。


 それに、肥後(ひご)のことを犯人だと糾弾(きゅうだん)するわけではないので(かど)も立たない。


 名案を思い付き心が軽くなった鉄太であったが、ふと不安がよぎる。


 もしも、万が一、偽の電話番号を渡したのが朝戸本人だったらということである。


(もしかして嫌われてる?)


 嫌われているから本当の番号を教えてくれなかったのか?


(いやいやいや)


 朝戸と直接会ったのはたった2回で、会話らしい会話はラジオのインタビューだけである。


 嫌われるほどのことはした記憶がない。


 生理的に受け付けないのであれば仕方がないが、朝戸はあのクリーチャー島津に対してでさえ嫌悪の欠片(かけら)さえ感じさせなかった。


 鉄太は商売柄、人の感情を読み取ることに関してそれなりに自信があった。彼女の態度からして、いくらなんでも自分があの島津以下ということはないはずだ。


 ならなぜ番号を教えてくれないのか?


 堂々巡りの思考に陥る。


(いや、待てよ)


 いくら、番組側からのオファーだったとして、グラビアアイドルが自宅の電話番号をホイホイ教えてくれるものだろうか?


(教えたがるワケないな)


 鉄太の手に渡るまでに、肥後(ひご)や肉林の手を経由することを考えれば流出のリスクが高すぎる。


 自分が朝戸に嫌われていない論拠を得た鉄太はホッと胸をなでおろした。


 しかし、その時、開斗が文句を言ってきた。


「テッたん。いつまで歩かせるねん」


 言われて辺りを見渡すと、あまり馴染みのない風景が目に入って来た。


「ん? カイちゃんここドコや?」


「そらコッチのセリフや」

次回、第十四章 既成事実

14-1話 「先生と、同じアパートに住んでます」

つづきは12月4日、土曜日の昼12時にアップします。

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