10-4話 コイツらに、チケット2枚やってくれ
「デュエルシティー大咲花の大ホールや」
「何ぃぃぃぃ!? あそこのキャパは3000人やろ!」
「お前フザケんな! 数十人程度の前ならまだしも、そんな大舞台で黙って座るだけやなんて、よけトラウマになるわ!」
開斗からライブ会場を告げられた〈第七艦隊〉の2人はその大きさに驚き戸惑う。さらに、小林ボンバーからクレームが入る。
「霧崎兄さん、ちょっと待って下さい! それ、闇営業とちゃいまっか? 依頼するなら事務所通して下さい」
〈第七艦隊〉は休業中とはいえ笑林興業所属なのだ。
他事務所の舞台に出るならば事務所同士の契約が必要である。
先ほど開斗は〈第七艦隊〉の出演を、自分の事務所に秘密にすると言っていた。それでは困るのだ。
ちなみに闇営業とは事務所を通さずに仕事を受けることを指す。事務所へのマージンがないためバレると大変なことになる。
しかし、開斗は鈴木ナパームに事も無げに答える。
「闇営業って金貰った時の話や。タダで出るなら闇営業にはならんやろ」
鉄太はなるほどと思った。
確かに金を貰っていいなければ営業ではないと言い張ることもできる。
ただ、その言葉にキャプテン本村は面食らったようで開斗に食って掛かった。
「まさかオレらにタダ働きさせるつもりか!?」
「タダ働き? 黙って座っとるだけやろ? それ働くって言わんで」
「屁理屈言うな――――! どのみち3000人を前に晒し者にするつもりやろが――――!!」
まるで振り出しに戻ったかのようにキャプテン本村は狂乱した。
「霧崎ぃぃぃぃ!! オレらを見世物小屋のヘビ女にでもするつもりか――――!!」
セーラー利根が殴りかかろうと一歩踏み出す。ヤバいと思ったが、今度は鉄太がかばう前に開斗が彼らを止めた。
「言うときますけど、見に来る客はまだ2人しかいてませんよ」
「な、何!?」
「ウチの社長がアホなんで、チケットの販路確保してないんですわ。チケット3000枚手売りしろとか、正気の沙汰やおまへんやろ?」
開斗は彼ら4人にライブ開催にまつわる数々の苦労をぶちまけた。
「……ふふふふふ、はははははは、あははははははは」
事情を知ったキャプテン本村とセーラー利根は落涙しつつ大笑いした。
「久しぶりに笑わせてもろたわ」
「お前らも大概やな」
ひとしきり笑い涙をぬぐった後、キャプテン木村はライブの舞台に出ることを了承した。
『霧崎兄さん有難うございます!』
鈴木ナパームと小林ボンバーが開斗に頭を下げた。
「かまへん、かまへん。それより、テッたん。コイツらにチケット2枚やってくれ」
「え? カイちゃん、もしかして、さっき言うてた見に来る客の2人って……」
鉄太はてっきり〈丑三つ時シスターズ〉のことかと思っていたが、〈ストラトフォートレス〉のことだったようだ。
「そうや。まさか先輩の復帰を見に来んとか薄情なこと言わんやろ?」
「もちろんです」
〈ストラトフォートレス〉の二人は即答したので、鉄太はショルダーバックからチケット2枚取り出し、近くにいた鈴木ナパームに手渡す。
「ええんですか!? 有難うございます」
「1枚1000円や」
「えぇ!?」
鉄太の請求に、タダでもらえると思っていたのか鈴木ナパームは固まった。
「……おい、テッたん!」
「ええですわ。10枚ください。第七さんにお世話になったんはオレらだけとちゃいますから」
注意しようとした開斗に鈴木ナパームは笑って答え、財布を取り出した。
「まいど」
「立岩兄さんもありがとうございます」
鈴木ナパームに頭を下げられて、「かまへん」と言いつつ、鉄太は自分の小ささにあきれた。
彼らにちょとした嫌がらせをしたのは、元々、自分が〈第七艦隊〉に謝っていたのにも関わらず〈ストラトフォートレス〉の二人が、開斗にだけ礼を言ったことを不満に思ったからだ。
ただ、そこで思い返す。自分はちゃんと謝っていたのだろうかと。
謝れていなかった。
最初、謝罪をしようとしたら怒鳴られて、後はずっと開斗が交渉していたのだ。
気が付くと〈第七艦隊〉は、「じゃあな」と言ってすでに背中を向けていた。
慌てて鉄太は、彼らの前に回り込んで頭を下げた。
「〈大漫〉で迷惑をかけて申し訳ございませんでした。あと、ワテらの後に漫才してくれてありがとうございました」
すると、キャプテン本村は「かまへん」と返事した後に意外なことを言った。
「ただ、礼なら肉林兄さんに言うてくれ」
疑問の表情を浮かべる鉄太に、セーラー利根がその理由を教えてくれた。
「せやな。中止しようとしてた運営を説得して流れを変えたのはあの人やで」
鉄太と開斗は彼らの姿が見えなくなるまでお辞儀をつづけた。
次回、第十一章 ゴールデンパンチ
11-1話 「あえて基本を持ってきた」
つづきは10月24日、日曜日の昼12時にアップします。
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