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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十章 第七艦隊
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10-3話 喋らんと、座っとたらええですやん

「ええですよ。〈大漫〉の賞金あげますよ」


「な、何ぃ!?」


 こともなげに〈大漫〉の賞金と同額の1000万円を与えると言う開斗に一同は面食らった。


「ちょ、ちょっとカイちゃん!?」


 抗議しようとする鉄太に開斗は「まあ、任せとけ」と言って一歩前に出た。


「オウ、お前! 今の言葉ウソやないやろな!」

「1000万円を(うえ)()げて、『上~~げた』とか言ったら殺すぞ!」


 開斗に対してキャプテン本村とセーラー利根は額が触れ合わんばかりに距離を詰める。


「そんな小学生みたいなマネしませんわ。ちゃんとあげますよ。

 ただし、ワイらが〈大漫〉で貰ろた賞金はマイナス1000万やから、兄さんらに上げるのは当然マイナス1000万になりますけどね」


「は~~~~ぁ!?」


 (あご)が落ちんばかりに驚愕する〈第七艦隊〉の二人に開斗は、〈大漫〉で2000万円の舞台セットを破壊してしまい、賞金の1000万を差し引いてマイナス1000万円を授与されたことを説明した。


(なるほど)と鉄太は思った。


 彼らの望みを(かな)えた上に自分たちの借金まで無くなるとは、なんと素晴らしいアイデアだと、鉄太は開斗の機転に感心した。


 しかし、キャプテン本村はそんな詭弁(きべん)(だま)されてはくれなかった。


「ナメとんのか――――! 賞金の1000万が補填(ほてん)されたから、お前らの借金は1000万で済んどんのやろうが!! ただ単に1000万円使い切っただけの話や!!」


「クッソ――――!! ダマされるとこやった――――! 大体、お前、さっきから生意気やぞ! 先輩と話すならグラサン取れや――――!!」


 セーラー利根は叫びながら開斗からサングラスをむしり取った。


「!!」


 その瞬間、そこの周囲の空間だけが、まるでストップボタンを押したように動きもしなければ、声もしなくなった。


 (まぶた)の固着した大火傷跡を見て固まった彼らに開斗は語り掛ける。


「ワイらが〈大漫〉で優勝出来たんは、ワイが目ぇ潰れるほどの修行したからや。アンタらの運やない。それに舞台に立てへんようになったんはアンタらだけやない。

 テッたんも第7回の大会の後、イップスで長いこと舞台に立たれへんかったんや」


 その話を聞いて二人は崩れ落ちた。


「すんません」


 いつの間にかこの場に来ていた小林ボンバーが、セーラー利根の手からサングラスを受け取ると開斗の顔に掛けた。


 鈴木ナパームは腰を落として彼らの手を取った。


「本村兄さん、利根兄さん。また頑張りましょう」


 しかし、キャプテン本村は力なく呟く。


「無理や……無理なんや……」


「オレらも出来ることは何でもやりますから」


「どっかの笑パブでリハビリしましょ」


〈第七艦隊〉の二人は荒い呼吸を繰り返すのみで、〈ストラトフォートレス〉らの励ましに応じることはなかった。


 鉄太は無意識的に左肩を手で押さえていた。


 鉄太には彼らの苦しみがよく分かる。頑張って出来るくらいなら、とうにやっている。


 この苦しみはさながら大海原で遭難したようなものであろうか。


 どの方向へどのくらい頑張ればいいのか全く分からないのだ。


 頑張れとは「死ぬほど苦しめ」「死ぬまで苦しめ」「苦しんで死ね」と同じ言葉である。


 辺りに重苦しい空気が漂う。


 その時、開斗が気軽な調子でこう言った。


「舞台に立たれへんのやったら、座っとったらええですやん」


(しゃべ)られもせんのや――――!!」


 セーラー利根が開斗を怒鳴りつけた。トンチで茶化されたと思ったのだろう。

 しかし、開斗はさらにとんでもない提案をする。


「じゃあ、(しゃべ)らんと座っとたらええですやん」


「ナメるのも大概(たいがい)にせえ――――!! そんなのが許される劇場がドコにあんねん!」


 セーラー利根が怒るのも当然だ。


 場末の笑パブ下楽下楽(げらげら)だって、黙って座っているだけのコンビを出演させることはないだろう。


 笑パブや劇場がダメなら路上ライブという最終手段があるが、人々が黙って座っている二人を見ても、仲の良さそうな乞食と思うのがせいぜいである。


「もうええ! バカにしくさって!」


 立ち上がり帰ろうとする〈第七艦隊〉二人の背中は怒りに満ちていた。


 鉄太や〈ストラトフォートレス〉らは、戸惑いを隠せない。ただ、開斗は全く慌てた様子がない。


「一つだけありまっせ。兄さんらが出られる舞台が」


 その言葉に彼らは歩みを止めた。


「次、フザケたこと言うたらブチ殺すぞ!」


 顔だけ振り返ったキャプテン本村は開斗に(おど)しをかけた。セーラー利根は指の骨をならして殴り掛かる準備を始めた。


 今の二人には笑気が微塵(みじん)も感じられない。開斗の目が見えなかろうが容赦(ようしゃ)しないだろう。


「スンマへん。スンマへん」


 慌てて鉄太は彼らの間に入って許しを請うた。


 しかし、開斗は鉄太を押しのけると語りだした。


「ワイら来月、3時間のライブをやらなアカンのやけど、演者が2組しかおらんのですわ。だから、そのライブなら兄さんら出演することできますけど」


「えええええええ!? カイちゃん勝手に決めたらアカンやろ」


「大丈夫や。舞台構成はワイらに丸投げされとるやろ。何しようが文句を言われる筋合いはない」


 確かに開斗の言う通り、ライブの構成など事務所社長の金島から丸投げされているのであるが、だからと言ってあの独裁的な男がちゃぶ台をひっくり返さないという保証はない。


 鉄太の不安を余所に、キャプテン木村は興味を持ったようで、開斗に問いかけた。


「一応聞いてやるわ。ライブやるってドコでやるんや」


「デュエルシティー大咲花(おおさか)の大ホールです」


 そう言うと開斗は、肉食獣が獲物を見つけた時のような笑みを見せた。

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次回、10-4話 「コイツらに、チケット2枚やってくれ」

つづきは10月23日、土曜日の昼12時にアップします。

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