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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十章 第七艦隊
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10-2話 怒りながら泣き出した

〈ストラト〉の二人はしばし話し合った結果、鉄太らを〈第七艦隊〉に会わせることに同意した。


 そして鉄太と開斗は彼らの車に乗せられて淀川の河川敷に連れて行かれた。


 まさか〈第七艦隊〉は河川敷で浮浪者になっているのかと思ったがそうではなかった。二人は別々の場所に住んでいて、今からここに連れて来るので待ってて欲しいとのことである。


 鉄太としては直接それぞれの家に行って謝ると提案したが、鈴木ナパームからは、河川敷を選んだのは精神的に不安定な〈第七艦隊〉の二人が、大声を出して暴れ出すかもしれないからだと説明された。


 どうやら怪しげな霊媒師に(たぶら)かされているとのことである。


 それを聞いて鉄太はかなり後悔した。


 そんな状態だと知っていたら謝罪になど来なかった。


「ちょうどええな。テッたん、待ってる間暇やし、キャッチボールしよか?」

「アカンアカンアカン! そんなん見られたらブチギレられるって」


 謝罪する相手に呼び出されて来てみれば、相手はキャッチボールしていた。これはどう考えてもアウトである。


 開斗は謝るつもりがないので、そういう発想が出て来るのかもしれないが、鉄太としては、やりたくもないキャッチボールをさせられた挙句、激怒されるなど冗談ではない。



「それにしても車は便利やな」

「せやな」


 開斗に同意する鉄太。暇つぶしの雑談は〈ストラト〉の車となった。


 目の見えない開斗に、国産のセダンタイプの乗用車で色は赤だと教えた。車種については分からないと答えた。


 なにしろ鉄太は免許を持っておらず、車にそれほど詳しくないのだ。


「借金なかったらワイらも買えてたな」

「カイちゃんは、免許取られへんやろ」


「テッたんが運転すればええやろ」

「ワテ免許持ってへんけど」


「いや、取ればええやん」

「面倒くさいわ」


 しょうもない会話をしている内に、30分以上が経過した。


「遅いなアイツら。18時からアイツら(・・・・)の舞台があんねん。来んのやったら帰るで」


 イラチな開斗はシャドーピッチングをしながら不満を垂れた。しかし、現在はまだ16時近くであり、時間的には全然余裕がある。


 鉄太は芝生に寝っ転がって睡魔と戦っていた。キャッチボールは不謹慎だと開斗に言ったクセにである。


「おっ、テッたん来たで」


 開斗に100歩ツッコミを浴びせられ鉄太は飛び起きた。


 そして、土手を見ると鈴木ナパームが〈第七艦隊〉と思われる二人を連れてこちらにやって来た。


 彼らを乗せて来た赤色の車はそのまま走っていった。どこかに駐車してくるつもりだろうか。


「じゃあ、せいぜいガンバりや」


「カイちゃんドコ行くの?」


「謝るのはテッたんだけやろ。ワイがそばにおったら邪魔になるだけや」


 そう言うと開斗は、笑気を打ち出して足元の状態を確かめながら離れて行った。




「〈第七艦隊〉のキャプテン本村兄さんと、セーラー利根兄さんです」


 鈴木ボンバーから〈第七艦隊〉の紹介をされた鉄太は、取り敢えず「お久しぶりです」と挨拶した。


 鈴木ナパームの紹介によると、天然パーマの茶髪デブがキャプテン本村で、金髪のロン毛デブがセーラー利根とのことだ。


 彼らは挨拶を返さずに、ジャンパーのポケットに両手を突っ込んで鉄太をずっと睨み付けている。


 これは相当キビシイことになりそうだと鉄太は思った。


「〈第七艦隊〉さんには、大変ご迷惑をかけてしまい申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げた鉄太であるが、彼らの左手首に透明な数珠の腕輪がはめられていることに気が付いた。


 どこで見たのかと記憶を探っていたら、上から怒号が降り注いできた。


「フザケルな―――――!! 謝って済む問題ちゃうぞ――――――!!」


 ただ、天然パの茶髪デブのキャプテン本村は、鉄太の予想を遥かに上回るレベルで激高した。


「お前、自分らが何したか分かってんのか―――――――!!」


 金髪のロン毛デブのセーラー利根も鬼のような形相で()えた。


「……第七回の〈大漫〉で……」


 鉄太が何についての謝罪か述べ始めたところ、キャプテン本村が遮った。


「そんな問題ちゃうわ! お前らは、オレらの運を全部持ってってまったんや!」


「は……はぁ!?」


「そうや! お前が〈大漫〉優勝出来たんは、オレらから運を奪ったからや!」


「……ゴメンなさい」


 鉄太は謝った。〝運を奪ったから優勝〟など言いがかりも(はなは)だしかったが、手の付けようがないので、相手が怒り疲れるのを待つしかない。


「何がゴメンなさいや!! 謝る気ないやろ――――!! ホンマにスマンと思ってんのやったらオレらから奪ったモン全部返せ!! 全部や――――!!」


「あの……返すってどうやってです?」


 見ることも触ることもできないような、運を返せとか言われて鉄太は困惑する。


「1000万や――――!! 〈大漫〉の賞金の1000万を返せ――! あれはオレらのモンや――――!!」


「テレビのレギュラーとかも返せ――――!! それもオレらのモンや――――!!」


「ちょっと待って下さい。〈第七艦隊〉さんも優勝したなら1000万円()ろてはるでしょ」


 前年度の優勝で1000万円()らっておきながら、今回の賞金分1000万円も寄越せというのは流石に強欲が過ぎるのではないか?


 しかし、鉄太の非難にセーラー利根が絶叫した。


「アホ――――――――!! ()ろてへんわ――――――――!!」


 キャプテン本村とセーラー利根は怒りながら泣き出した。感情が制御できないほど精神がすり減っているようだ。


 しかし、優勝したのに賞金を貰っていないとはどういうことだろうか?


 事情を聴きたかったがとても彼らから聞ける状況ではない。鉄太が困り果てていると付き添いの鈴木ナパームが掻い摘んで話してくれた。鈴木によると、優勝といっても優勝した(てい)で、テレビ局と約束したから口止め料として100万円しか貰えてなかったらしい。また、社長は優勝の茶番劇を認めておらず、テレビ局と勝手に契約したと激怒されたり、周囲の連中に1000万円貰ったのにケチなどの悪口を言われたり、散々な目にあったとのことである。


 語り終えた鈴木ナパームは両手の拳を握りしめて顔を背けた。


 鉄太は辛くなった。謝りに来たのはこんな地獄絵図を繰り広げるためではなかったはずだ。


 かといって、彼らの要求を飲むことなど出来るはずもない。まだ借金が開斗の分と合わせても1000万円ほどあるし、テレビのレギュラーなど持っていないのだ。


 どうすることも出来ず立ち続ける鉄太。


 すると、突然肩が叩かれる。


「ほらな、テッたん。謝っていいことなんかないやろ。足とも見てクソみたいな要求突き付けてくるだけや」


 いつの間にか開斗が横に来ていたのだ。


「何やと! お前、霧崎か!」


「ええですよ。〈大漫〉の賞金あげますよ」


「な、何ぃ!?」

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次回、10-3話 「喋らんと、座っとたらええですやん」

つづきは10月17日、日曜日の昼12時にアップします。

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