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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十章 第七艦隊
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10-1話 残念と思う反面、ホッとした

 笑天下(しょうてんした)劇場に行った翌日、月曜日の15時頃。


 ロケの収録を終わらせた鉄太と開斗は、夜の笑パブまでの時間の合間にキャッチボールをしようといつもの公園にやってきた。


 月曜日とはいえ振り返り休日のためか思いのほか多くの人がいた。


 しかし鉄太は違和感を覚える。


(ガキンチョがおらへんな)


 公園に集っているのは主に乳幼児を連れた主婦なのだ。


 自分たちの子供の頃は休日ともなれば大抵公園で遊んでいたものだが、何故だろうと開斗に尋ねてみる。


「家でテレビゲームでもやっとんのやろ」


 実は今の子供は家庭用ゲーム機に夢中なので外で遊ぶことが少なくなっているのだ。


 野球の人気も下火になるはずである。


「どうするカイちゃん。危なくてキャッチボールでけへんで」

「なら、淀川までいくか?」

「イヤや。遠すぎるわ」


 淀川の河川敷であれば休日であってもキャッチボール出来るスペースはあるだろう。しかし、徒歩で行くには片道1時間はかかる。


「チケットでも売る?」


 なるべくキャッチボールしたくない鉄太は代替案を提示する。


 彼らは金島からライブのチケット1000枚を手渡されており、手売りしろと言われているのだ。


「面倒くさいのぉ」

「でも多少金になるやん」


 実は金島から、手売りしたチケット代の10%を、売った者の報酬として提示されていた。


「一日頑張ったところで、10枚も売れんやろ」

「商店街とか回ってみたら案外売れると思うんやけど。別に売れへんでも何かもらえるかもしれへんし」


「それもそうか。テッたんにしてはエエ考えやな」


 鉄太は笑比寿橋(えびすばし)心咲為橋(しんさいばし)の商店街では「ティッシュおじさん」として、そこそこ人気者だったのだ。


 開斗が同意したのでとりあえず下楽下楽(げらげら)に野球用具を置きに行くことにした。




「あ、おったおった! 兄さん兄さん! ちょっと待って下さい」


 公園を出た所で誰かから呼び掛けられて振り返る。すると赤い車の助手席から手を振っている角刈りの男が目に入った。


 見るからに〝ヤカラ〟っぽい。


 絡まれる前に逃げるべきと判断して、気づかないフリして歩きつづけたが、車は鉄太らの横に来て止まり、角刈りの男が鉄太に苦情を言ってきた。


「立岩兄さん何で逃げるんですか!」

「いや、ちゃうねん、ちゃうねん」


「何がちゃうねんですか? 目ぇ完全に合ってましたよね?」

「スマン、ちょっと、逆光で見えてへんかったんや」


 取り敢えず言い(つくろ)いながら、コイツらは一体誰だと考える鉄太。


 自分のことをを立岩兄さんと呼んできているからには、後輩の漫才師だろう。それにどこかで見た覚えがある。


 分からなくても会話をしていればそのうち分かるだろうと思っていたら、開斗は分かったようだった。


「もしかして、〈ストラト〉か?」

「はい、霧崎兄さん、〈ストラト〉の鈴木ナパームです」


 ならば、運転席にいる五分刈りの男が小林ボンバーか。


〈ストラト〉とは漫才コンビ〈ストラトフォートレス〉の略称である。


 彼らとは去年の〈大漫才ロワイヤル〉の決勝戦で共に戦った間柄であった。


 とはいえ、その後ほとんど会っていないし、あの時のようなカラフルなフライトジャケットを着ていないので鉄太が分からなかったのも無理ない。


 彼らの車は路肩駐車すると二人は車から降りて来た。


「肉林兄さんから、言われて事務所に電話かけたのに取り付く島もなく切られましたわ。どないなっとるんですか?」


 鈴木ナパームは鉄太に前に立つと呆れたといった調子でぼやいた。


 言われてみて思い出した。先日鉄太は〈ストラトフォートレス〉に金島事務所へ電話するよう肉林にお願いしていたのであった。


「悪かったな。なんかウチの事務所はクソだからな。勘弁してくれ」


 開斗は詫びるが、そもそも金島に〈ストラトフォートレス〉から連絡が来ることを伝えてなかった気もする。


 ちなみに、鉄太が〈ストラトフォートレス〉と連絡を取りたかった理由は、かつて迷惑をかけた〈第七艦隊〉に謝りたいからであり、そして、〈ストラトフォートレス〉は〈第七艦隊〉の所在を知っていると思われたからである。


「いい加減電話敷いて下さいよ」

「いらん。電報でくれ」

「いや、電報て。兄さんらの住所知らへんのですけど」

「やったら教えたるわ」

「ちょっと待って下さい。一応、肉林兄さんには話聞いとるんですけど、本村兄さんと利根兄さんに会いたいってことでええんですよね?」


「ん?」

「え!?」


 名前を聞かれて即答できなかった鉄太を、小林ボンバーは不審に思ったようで確認をしてくる。


「もしかして、〈第六魔王〉や〈大八車〉さんと勘違いしてるとかやないですか?」


「いや、確か〈第七艦隊〉やと思ったけど……」


 改めて聞かれると少し自信がなくなってきた。言われてみれば笑林寺には、ナンバーズと呼ばれる数字のついた紛らわしいコンビたちがいたのだ。


「失礼ですが、兄さんらは〈第七〉さんとどんな繋がりです?」


 どうやら肉林は、彼らにあまり詳しい話はしてなかったみたいだ。


 しかたがないので、鉄太は自分たちが、第七回の〈大漫才ロワイヤル〉で〈第七艦隊〉?に迷惑をかけた件を話し、謝りたいと思っていると告げた。


「それなら確かに〈第七〉さんで間違いないですわ」

「あぁ、せやせや。何で今まで気ぃつけへんかったんやろな」


 鈴木ナパームと小林ボンバーは、鉄太の説明に納得したようだった。


 ただし、会わせることに関して、鈴木ナパームが難色を示した。


「兄さんらの気持ちはありがたいんですけど、〈第七〉さんらは精神的にかなり不安定なんで、あんまり刺激して欲しくないと思っとります」


 拒否されて鉄太は残念と思う反面ホッとした気持ちもあった。しかし、鉄太が返事する前に小林ボンバーが異を唱えた。


「いや、むしろ会ってもらうべきやとオレは思う。今のままやったら腐って行くだけや。あんな兄さんら見るの耐えられへんのや。むしろ刺激受けて変わって欲しいねん」


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次回、「10-2話 怒りながら泣き出した」

つづきは10月16日、土曜日の昼12時にアップします。

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