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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第九章 笑天下過激団
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9-4話 そら、男は来んはずや

 笑天下過激団しょうてんしたかげきだんの舞台は喜怒哀楽をテーマに4つのパートに分かれている。


 まず最初は喜がテーマの漫才パートである。


 漫才の1番手は〈カタストロフ〉


 普通の恰好をした2人が〈三笑方の定理〉を使って普通に漫才をした。ネタはノストラダムスの大予言をイジり倒すというものだった。


 ちなみにこの頃、あと9年で世界が滅亡するというノストラダムスの大予言で、テレビ番組や書籍ではオカルトが一大ブームでもあった。


 つづく2番手は〈丑三つ時シスターズ〉である。


 登場した2人は白装束にお歯黒という出で立ちであり、しかも藁部(わらべ)は藁人形の縫いぐるみを抱いており、相変わらずの薄気味悪さである。


 マイク前に立った後、藁部(わらべ)はチラリとこちらを一瞥(いちべつ)しただけで、別段崩れることもなく漫才を始めた。


 これでは自分ばかりが意識しているみたいで、なんか悔しいと鉄太は思った。


 彼女らは〈大漫才ロワイヤル〉と同じように〈アリエナールの法則〉を用い、あり得ないけどなるほどと思うネタで笑わせる。


 時事ネタなどでひとしきり笑いを取った後、男女間の愛憎コントが始まった。


 ボケ役の五寸釘が演じる男にツッコミ役の藁部(わらべ)が思いを寄せているが全く相手にされていないという展開である。


 嫌な流れだと鉄太は思った。


 そして、男が陰で自分のことをボロクソに言っていることを知った藁部(わらべ)はぬいぐるみに呪いを込めて暴力を振るう。


 すると、五寸釘が暴力を振るわれた場所を手で押さえながら、「き、気持ちいい~~~~」と善がり始めた。


 そして、それを見た藁部(わらべ)が「あの(ひと)、ド変態やった~~~~」と叫ぶと、劇場は大爆笑に包まれた。


 もちろん全員が笑っているわけではない。


 最前列で座る鉄太は、俯いて歯を食いしばっていた。


(コ、コ、コイツら最悪や~~~~)


 彼女らのネタは鉄太を当てこすっているとしか思えない内容だった。


 そして、その後も男役が鉄太をモデルにしていると思われる演技が続き、なんやかんやで二人が結ばれる結末を迎えたのだが、ネタが終わる頃には鉄太のHPはほぼゼロに近い状態になっていた。



 気が付けば3番手の〈サバト〉の漫才が終わった所であり、ホウキを持った白髪の魔女二人が袖に捌けて行った。


 4番手は梁山泊(りょうざんぱく)


 林冲子(はやしおきこ)武松子(たけまつこ)と名乗る2人が出て来たのだが、林の方は中国の武将のような恰好をしており、(たけ)の方は僧侶っぽい恰好をしていた。


 背格好とも大柄なのでとても女性には思えないが声でかろうじて女と分かった。


 彼女らのネタは基本コントであった。オバチャンによると水滸伝(すいこでん)という昔の中国小説のパロディーとのことなので、元ネタを知らない鉄太はあまり笑えなかった。




「なんや、アンタ、気分悪いんか?」


 喜のパートが終了し幕が閉じた所で、鉄太はオバチャンから心配された。


「いや、大丈夫ですわ。コイツ笑いすぎて息出来んかったみたいなんで」


 鉄太が口を開く前に、開斗がオバチャンに適当な言い訳する。くやしいことに鉄太は反論できない。すれば面倒くさい説明をせねばならなくなる。


「あら、そうなの? アメちゃん食べる?」


「お、おおきに」

 

 オバチャンは開斗の説明を信じたようで、袋から飴玉を(つか)みだすと、笑いながら手渡してきた。



 さて、次は怒のパートなのだが、そもそも、お怒り芸人とは、また、万罪(まんざい)とは一体何であるのか?


 お笑い芸人が人を笑わせるように、お怒り芸人とは人を怒らせることを生業とする職業である。


 人を怒らせて商売になるのか疑問に思う方も多いだろうが怒りにも種類がある。


 例えば、人に向かって「バカ」と言う。これは、相手の怒りが自分に向かうだけであり、お金にならない怒りである。しかし、「何々は悪である」と叫び、人々の怒りを誘導することが出来るのであれば、それはお金になる怒りである。


 ワイドショーのコメンテーターなどに起用されるのは大抵お怒り芸人だ。彼らは万事(よろずごと)の罪を糾弾し視聴者を煽り立てる。


 お笑い芸人が人々を笑わせることで快感を得るように、お怒り芸人は人々を怒らせることに快感を得る。より具体的に述べると人々を怒らせ扇動し自分の影響力に陶酔する傾向がある。


 万罪(まんざい)とは<万事(よろずごと)の罪>の略なのだ。ちなみに、その歴史は浅い。戦後、言論の自由が保障され何を言っても捕縛されない社会になってから発達した芸能だからである。



 ブザーと共に幕が上がる。


 舞台の中央には、さきほどまでなかった壇が設置されており、その前には厳めしい表情の女性が両手を壇について前傾姿勢を取っていた。


 壇の脇の〝めくり〟と呼ばれる紙の札には、怒髪天(どはつてん)と記されていた。それが彼女の芸名だろう。


 最前列の鉄太には彼女の容姿が良く見えた。


 長い髪は手入れされていないようでボサボサである。また顔は化粧をしていないるようには見えない。多分スッピンだろう。


 見た目大人しそうな感じがする女性だが演説を始めると様相が一変した。


「もう限界!!」と大声で叫ぶと、夫に対する不満をぶちまけ始めたのだ。


 歯をむき出して髪を振り乱し壇を叩く。最前列の鉄太はまるで自分に怒りをぶつけられているような気がして恐怖を感じた。


 だが、もっと恐ろしかったのは観客の女性たちが共感して怒り始めたことだ。


 さっきまであんなに笑っていた開斗の隣のオバチャンも青筋を立てて「そうや、そうや」と同調している。


 そして、怒髪天が「私はお前のオカンやないぞーー!!」とのシュプレヒコールに応じて劇場が一体となって怒号を上げる。


(そら、男は来んはずや)


 鉄太は主婦層が多い理由と、笑天下過激団しょうてんしたかげきだんの公演がヤバと言われる理由を知った。

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

次回、9-5話 「逞しい、女性が鉄太を睨みつけ」

つづきは9月26日、日曜日の昼12時にアップします。

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