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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第九章 笑天下過激団
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9-2話 まぁええわ、好きにしたらええやろう

 金島は、始球式のオファーを断られた理由を話し、説教を始めようとした矢先、二人の様子が激変したことに気づき言を止めた。


 開斗は腹を押さえて笑いをかみ殺しており、鉄太は椅子から落ちそうなほど肩を落としている。まるで二人の中身が瞬間的に入れ替わったかのようであった。


 ひとしきり笑ってから開斗は金島に告げた。


「オッサン。そのド変態ちゅうのは、テッたんのことや」


「誰がや! ド変態ちゃうわ!」


 鉄太の抗議を余所に、開斗は金島に、えーびーすーテレビとの契約の件を話す。


 一通り話を聞いた金島は推論をつけた。


「なるほどのぉ。ウチに依頼した部署と、テレビ局に依頼した部署が別なのか、テレビ局が欣鉄(きんてつ)に詳しい話をしとらんのかどっちかじゃな」


 開斗は身を乗り出して金島に詰め寄る。


「で、この話、是が非でも受けて欲しいんやけど」

「テレビの方がギャラが()こぅなるじゃろ。断る理由はないな」


 悪夢の企画が承認されてしまった。


 未だ項垂れている鉄太は、反対をするタイミングを逃した。反対してもどうせ無駄であったに違いないが。


 おまけに、話が(こじ)れることもなく要件が果たされてしまい、このままでは午後から藁部(わらべ)たちの舞台に行かなくてはならない。


 何とか話を伸ばすべく、鉄太は歯を食いしばる思いで開斗に尋ねた。


「そう言えば、イベントの件やけど大丈夫やろか?」


「あぁ、テッたんせやったな。オッサン、前紹介したイベンターどうやった?」


 開斗としては、帰り間際の何気ない質問だったであろうが、金島はそれまでの前のめりの姿勢からソファーの背もたれに背を預けた。


 そして、吐き捨てるように呟いた。


「あ、あれな。追い返したぞ」

「はぁーーーーー!?」


 (あご)が外れそうなほど驚く開斗に向かって金島は続ける。


「あのクソガキ。訳の分からん横文字ばっかり並べ立てよって……客に説明するのに横文字使うのは詐欺師の手口じゃ」


「ラジオ局からの紹介やぞ! 詐欺師のワケないやろ! ライブまで一カ月切ってんねん。どないするんや!」


 いい感じに揉め始めたことに鉄太はほくそ笑む。

 

 が、それはそうとして、開斗が人からの紹介だから詐欺師のワケはないと言いっているが、果たしてそうだろうかと思った。


 昔、詐欺被害に遭って大金を失ったことのある開斗と、詐欺師寄りの仕事に手を染めていた金島となら、信じるべきは金島の方かもしれない。


「ちょっと待っとれ」


 金島はそう言って応接室を出ていくと、すぐにヤスを連れて戻って来た。


 ヤスは何やら紙の束を抱えており、それをテーブルの上に置いた。


「チケットじゃ。3000枚ある。一人750枚のノルマじゃ」


 この男にとってはチーマーがチケットを(さば)かせるのと同じ感覚なのだろうか?


 鉄太はチケットの束の一つを取ってみる。


 それは白い紙に赤字の印刷で、記載されているのは、タイトルの満開ボーイズライブと、場所、日時、料金(1000円)のみの最低限の情報のみだ。ちなみに裏面の印刷はない。


 福引券でももっとマシに作ってあると思われた。


 鉄太は、その粗末なチケットがどのような物か開斗に説明した。すると開斗があることに気が付いた。


「待て待て。それ、もしかして全部自由席なんか?」


 言われて他のチケットの束を、パラパラとめくってみたが、全て同じ表記のように思えた。


「……みたいやね。あと、子供料金とかも書いてないなぁ」


 一旦は椅子に腰を掛けた金島だが、立ち上がると窓際まで歩いて行きブラインドの隙間から外を眺めながら語り出した。


「全部自由席なら案内係とかいらんじゃろ。1000円なら子供料金みたいなもんじゃし釣りもいらん。チケットも手売りで捌けば、ポスターも広告費もいらん。漫才やるだけなら、セットはいらんし、照明はピンスポだけで十分じゃ」


 舞台関係者が聞けば卒倒しそうなことを平然と並べ立てる。


「オッサンもしかして、ドケチか?」


「なんじゃと!? なら(おどれ)は、あのガキの言うままに900万払うのか?」


 あのガキというのは島津が紹介したイベンターのことだ。金島の話によれば、イベンターの提案によると座席をSS席からB席まで割り振り、8割埋めることができれば約1200万円ほど売り上げが出るので採算が取れるとのことらしい。


 ちなみに劇場の使用料は100万円ほどであるが、照明や音響などの設備使用料は別途請求されるとのことなので、金島屋の取り分は150~100万円ぐらいになるとのこと。


 金島屋の構成員は5人であるため100万円でも稼ぎとしては悪くないように思えるのだが、客席を8割埋める保証はどこにもないと言う。


 金銭的な不満を述べる金島に開斗は呆れたように言う。


「あんなぁ。オッサンのやっとったサラ金とは違うんや。劇場公演なんてどこも赤字覚悟でやっとんのや。イベンターの900万かて広告やらスタッフやら舞台セットやら全部込み込みの料金やろ?」


「金の使い方が不合理じゃと言うとんのじゃ。ワシのやり方なら、客席5割でペイできるじゃろ」


 開斗は何か反論しようとする様子をみせたが、彼の口から出たのは諦めの言葉だった。


「……まぁええわ。好きにしたらええやろ。テッたん帰るで」


 開斗に促されて、鉄太が帰ろうと立ち上がると、金島に「待て」と呼び止められた。


「チケット持っていかんかい」

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次回、9-3話 「4つのパートに分かれてる」

つづきは9月19日の日曜日、昼の12時にアップします。

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