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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第一章 再会
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1-1話 そうそう麺は硬めにね

 瀬戸内海、笑豆島(しょうどしま)


 とある名作映画のリメイクで、再び注目を浴びたこの小さな島のビーチにも、バブル景気に浮かれる人々が押し寄せ賑わっていた。


 砂浜の奥には飲食を提供する小屋、いわゆる海の家が何軒も立ち並び、炎天下にかかわらず各々行列をなしている。


 しかし、それらとは対照的に誰もよりつかない海の家が、ただ一軒あった。


 列の一番端に位置する小屋で、看板には「焼きそば」と書かれている。


 その、焼きそば屋の店頭にあるオープンキッチンで人形のごとくたたずむ男は、灼熱の真昼にも関わらず長そでの黒いワイシャツを着ており、さらに左手には軍手をはめていた。


 たっぷり汗を吸った布地は所々(ところどころ)白っぽくなっている。これは汗の塩分が結晶化したものである。


 ただ、左の胸部から肩にかけてパッドでも入れたかのように不自然に盛り上がっており、そこから左腕は全く汗をかいている(あと)はなかった。


 接客業にも関わらず真っ黒なサングラスをしていることからヤバめの筋の人かと疑いたくなるが、とぼけた感じのおちょぼ口や、いい感じにポッチャりした体形のアンバランスさが笑気(しょうき)を生み出しており暴力的な人間とは思えない。


 とはいえ、ボサボサの不潔感あふれる髪型や魂を抜かれたように口を半開きにして海を見つめ続けるその姿からか近づく人はおらず、そこだけ隔絶されているかのような様相をていしていた。


 そんな中、あたかも結界を切り裂くかのように一人の若い男が焼きそば屋の前に現れる。


「なんやワレ。このクソ暑い中長そで着るとか、ダイエットでもしとるんかい?」


 あざけりを含んだ言葉を投げかけられると、それまで、ぼーっと海を見つめ続けているだけだった男が、スイッチを入れられたかのごとくビクンと体を震わせ来訪者に瞳の焦点を合わせる。


 それは、まるで刀の抜き身を思わせるような長身の男。白いTシャツに七分丈(しちぶたけ)の白いズボン。


 獲物を見つけた辻斬りのごとくニヤリと微笑んだその糸目から、突き刺すような眼差しが放たれていた。


「カイちゃん……」


 小太りの男は来訪者に対してつぶやいた。


「テッたん。久しぶりやな。まさかこないなトコで焼きそば売っとるとは思わんかったで」


 カイちゃんと呼ばれた男はそう言うと、オープンキッチン越しに人気(ひとけ)のない店内を覗き込む。


 一方、テッたんと呼ばれた男は、来訪者から視線を外して呻く。


「何しに来たんや?」

「そんなん決まっとるやろ」


「……あ、焼きそば一人前ですね。少々お待ちください」


「そうそう、麺は硬めにね……って、ちゃうわ」


 流れるような乗りツッコミで虚空に手刀を振るうと、テッたんと呼ばれた男は悲鳴を上げてのけぞった。


 何を大げさなと思うかもしれないが決してそうではない。


 手刀ツッコミから放たれた斬撃は店の奥に張られていたポスターを容易く切り裂いていた。


 長身の男の名は霧崎開斗(きりさきかいと)


 かつて次世代を担うと期待されていた漫才コンビ、〈ほーきんぐ〉のカイ。その手刀ツッコミの鋭さから日本刀(ポントウ)の異名を持つ芸人であった。


 そして、鉄板の前でたたずんでいた男の名は立岩鉄太(たていわてった)。〈ほーきんぐ〉のテツ。


 どんな厳しいツッコミも受けることができたので鉄壁(てっぺき)ともよばれていた。


 三年ぶりのコンビ再会の瞬間であった。


 が、にらみ会う二人。


 鉄太が拒絶の言葉を発しようとした直前、開斗の背後からパンチパーマにアロハシャツ、金色のジャラジャラしたネックレスをかけた男がひょっこり現れた。


「あ~~。せっかく旧交を温めとるとこに水を差すようですまんがの、店ん中で話さんか?」


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

つづきは明日の7時に投稿に投稿します。


次回「1-2話 漫才せいっちゅうんですか!?」

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