ウソツキ
冬の公園、寒くても帰らない意固地な2つの影は、ブランコに揺られながら今日も時間を浪費していた。
「時計の長針と短針の長さの比率って5:3って決まってるらしいよ。」
「へー、そうなんだ。」
僕は小雑把な相槌を打つ。
「うそ。」
彼女はコロコロと笑った。
彼女はしょうもない嘘をついては相手の反応を楽しむ癖がある。
そしてそんな彼女の屈託のない笑顔に僕は恋をしている。
僕は彼女と幼なじみで、愛児園、小学校、中学校(彼女はほぼ不登校だった)、高校(彼女は途中で転校)、音響の専門学校、そして今の職場 有限会社ケビワバラと、ずっと生活を共にしてきている。
だから彼女のいうことはぜーんぶ嘘って分かるし、
それに対応することも慣れっこってわけだ。
「カタツムリって見えないぐらい小さい歯があるんだって。」
「へー、意外だね。」
「うそ。」
彼女はふふっと吹き出すように笑った。
20年間、いつも単調な返事しかしない僕に、いつもしょうもない嘘をついて、よく飽きないものだ。
もっと面白い反応をしてくれる人と話せばいいのに。
僕なんかといても楽しくないだろうに。
「『急がば回れ』と同じ意味のことわざで『蝶の蜜集め』ってことわざがあるんだよ。」
「へー、初めて聞いたな。」
「うそ。」
「人の首の長さってみんな一緒らしいよ。」
「それはうそだな。おまえの首の長さ、僕の3倍ぐらいあるじゃん。」
「バレたか。」
「ヤクルトを1日12本以上飲んだらだいたいの人間は死んじゃうんだって。」
「へー、気をつけないとな。」
「うそ。」
いつもの話の流れだった。
はずだった。
「僕は好きだけど、やっぱ話しかけづらい?」
いつもと何の変哲もない会話の中に投げ入れられた彼女のその言葉は、僕の中の「冷静」を強引にさらっていった。
「えっ、?今、好きって…」
「うん、好き。それが ど、どうかされました?(^_^;)」
「えっ、うそだ、うそだろ?それもまたうそなんだろ?やめろよ〜。」
そうだ、どうせうそなんだ。いつもの事だ。取り乱すことなんかないんだ。
…意志とは反して、恥ずかしさと緊張のあまり吹き出る汗と、持久走をした後のような忙しない鼓動が、僕が平常心でないことを証明するに十分すぎる証拠だった。
「ほんとだよ。」
彼女は照れくさそうにヘラッと笑う。
春はもう、すぐそこだ。