89話・水の国から風の国へ
「わたしからも、お願いします。一緒に歌いましょう」
ミニウォータもルミナに願った。彼女は、アミスの顔を見ると、フルフルと顔を横に振った。
「わたし、下手だから」
その言葉にびくりとアミスが驚いていた。そして、ルミナに謝った。
「ごめんなさい、ルミナ。まだ、引きずっていたのね。私、あの時小さなあなたに、嫉妬したの。私の取り柄の歌を奪われる気がして。それが、まだ貴女の心に突き刺さっていたのね。ごめんなさい、気がつかなくて」
「アミスお姉ちゃん」
「もう大丈夫。歌っていいのよ。貴女の歌は私よりずっとずっと上手よ」
パァッと笑顔を取り戻したルミナは湖の方を向き、口を大きく開けて歌い出した。
「ララーラァーー」
「ララーラァーー」
隣にミニウォータも立って一緒に歌っている。とても綺麗な澄んだ歌声と、少し低い歌声が重なって美しい旋律を奏でる。湖が歌声にあわせてキラキラと青色に光輝いていた。
「「ラララァーー――――」」
二人のデュエットが終わると、ルミナがルードの方を向いて言った。
「大事な使命が終わったら、またこの街に来て下さいね!」
ははは、とルードは困った顔で笑っていた。
ーーー
トレントが壊した街の修復で忙しいのか、来た時はのんびりしていた役所がバタバタしている。
「はい、確かに返却頂きました。また、この街に御用がございましたらこちらにお立ち寄りください」
そう言って、真珠のブレスレットを回収したのは、あの時に王様と一緒に泳いでいたお姉さん……。
「あの、今日は金髪のお兄さんじゃないんですね」
どうしても気になって私はお姉さんに話を恐る恐るふってみた。
「あぁ、あの人はバイトなので、たまにふらーっときてちゃらちゃらして帰っていくだけですよ。なんだか、王族と繋がりがあるらしく、クビにしたくても出来ないとかいう噂がある人です」
なんだか、お姉さんの口調がタンタンとしていて少し怖い。あのあと、何かあったのだろうか。
そして、繋がりというか、その人王様本人なんですけど――。
アリスはそんなふらーっと来てる日にちょうどお世話になっていたのね……。すごい確率。
ーーー
「では、いきましょうか」
「何で、ルードが仕切るのかな?」
「そんな事に拘ってる場合ではないでしょう」
アリスがプリプリと怒っている。
「アリスちゃん、どぅどぅ」
「むー、ルードは置いていかない?」
「ついていきますよ?」
あー、これはまたマタタビ棒の出番かな。私はポケットから一本引っ張りアリスの顔の前にポンと出す。
ふにゃと蕩けるアリスが可愛い。
「しょうがないなぁ」
マタタビ棒を私の手から受け取って、アリスはしぶしぶ承諾する。少しだけ彼の頬が赤くなっている。もしかして、マタタビで酔ってる?
「それは何ですか?」
「んー?」
ちらりとルードを見てからアリスはニヤリと笑いながら言った。
「ヒミツー!」
「なっ!」
あははと笑うアリス。良かった。機嫌良くなったみたい。
そこで、私は気がついた事を後悔する事に、はたと気がついてしまった。
もしかして、あの日最初に渡した一本目のマタタビ棒でアリスは、酔っていたんじゃないかということに――。
酔った勢いで間違って指輪を――。
あぁぁ、余計に怖くなってしまった。マタタビが無くなった時、私は用なしになってしまうなんてことはないよね。残りは、五本……。
「リサちゃん? どうしたの?」
目の前で手をフリフリされる。だいぶ考え込んでしまっていたようだ。
「何でもないよ」
私は笑って誤魔化した。
「じゃあ、行こうか。次の国は風の精霊の国ウィンドキャニオンだ!」
「風の精霊さんかー!いつもお世話になってる精霊さんだね」
「そうだね」
ポケットの中のマタタビをぎゅっと握りながら、私は話していた。
「行くよー!」
ピィーー
指笛の音が響く。
私達は次の国へと飛び立った。
水色の光を一つ、アリスの横に追加して。




