番外編・猫耳王子の考え事
アリスト視点のお話
「よかっ……た……」
小さな女の子の無事を確認したリサは、そう言ってからボクの腕の中で、すぅっと目を閉じた。魔力が尽きたのだろう。
気になるのは前に浄化した時と違って、使った直後に彼女の身体が硬直し、急に崩れ落ちた。
イフリート
ウンディーネ
そう、前とは違い彼女は、二回浄化の魔法を使っている。
「アリスト様! 今すぐ戻りましょう」
ルードが何か言っている。帰るわけないだろ。
それよりもさっきの力がボクは気になる。浄化の魔法を使った時、手から流れ込み抜けていった力。まるで暴れ狂う暴風のような、嵐の日に産まれる激流のような巨大な力がボクの中を駆け抜けていった。
「カナ様なら、癒しの魔法で!」
彼女の中にあれほどの力があるのか?
だけど、彼女に聞いた水晶で調べた数値は聖なる力が10魔力は100だったはず……。
前回は一度使って力尽きていた彼女。今回は二回使えた。
彼女の力はもしかして――成長している?
ただ、あの硬直が気になる。彼女に何か起こったのかもしれない。あれほどの力だ……。
「癒しの魔法なら、私も使えます」
アミスがルミナを抱え立ち上がった。
「ブルーシェル城に行きましょう。あそこなら、水の力が強くなる場所があります」
水の精霊の場のことだろう。やはり、あの中にあったのか。
「夜まで待っていては手遅れになるかもしれません!この方は!」
ルードはかなり動揺しているようだ。ラーファでも、ここからライトコールまでかなりの距離がありどれだけ飛ばしても結局は夜までかかるだろう。
「大丈夫です。少し、待っていてください」
そう言って、アミスは湖に足を浸けあの歌を歌いだした。
ザブザブザブザザザァー
「夜でもないのに――」
「私達の魔力に反応して大きくなるので、いつでも出来るのです。夜にだけ呼ぶのは昔ほど必要がなくなったからでしょう。あの城は、戦争や病などで傷ついた人々を癒すための場所なので、今の平和な世には不必要ですから」
「そうだったんですか」
「さぁ、中へ」
ボクはリサを腕の中に抱いたまま、ブルーシェル城に向かった。
ーーー
「だから、私は言ったのだ。聖女の契約をさせるなと」
「ですが、兄上」
ハーフィとクレスが言い合いながらボク達の前を歩いている。
アミスは少し哀しげな顔をして、彼らを見る。
「お前がアミスを好いているのはしっている。私のことが嫌いなことも。アミスを聖女にし、自分の妻に迎えいれれば王の座につけると考えたのだろう」
「それは――」
「聖女には、国を護る力があると同時に魔物を引き寄せる力もあるというのに……」
「っ……」
小さな声で話しているけれど、ボクの耳には聞こえてしまう。
聖女には、魔物を引き寄せる力が……。
「こちらです」
アミスが彼らとは違う方向へと招く。彼らはそのまま何処かへと歩いていった。
「ここに、寝かせて下さい」
沢山の石の台が並ぶ部屋に着いた。部屋の奥に、水の精霊の魔法陣らしきものがうっすらと光を放つ。
アミスから交代してルミナを抱えていたルードが手前の台の一つに寝かせた。ボクもルミナの横にリサをそっと寝かせる。
「ウォータ」
澄んだ声で、アミスが水の精霊を呼ぶと、魔法陣がパァッと大きく光ったあと、ルミナとリサのまわりに水球が現れた。
パシャンパシャン
水球が割れ、彼女達に降り注ぐ。
「これで、水の精霊の癒しは済みました。目覚めるのを部屋で待ちましょう」
ボクはもう一度リサを抱き上げて、アミスが案内する方へと歩いていった。
ーーー
リサはあれからなかなか目を覚まさない。アミスはルミナの様子を見に隣の部屋へ。ルードはボクと同じ部屋にいる。
寝ている彼女の手をギュッと握ると、ピクリと小さく動いた。
「アリス……ちゃん……」
「リサちゃん!」
「よかった、手繋いでた……」
「リサちゃん?」
夢でも見ていたのだろうか。まだはっきりとしていない感じだ。
浄化の魔法は彼女にしか使えない。ボクには出来ない。
守ると約束したのに、逆に守られてしまっている。
彼女を守る力が欲しい。ボクは彼女を守る事が出来る強い剣になりたい。




