80話・ペシペシ
「あぁ、来たね」
もうクレス王子達は用意を終わらせて、私達を待っていたようだ。夜でもないのに、松明を幾つも用意している。
何故だろうと私が見ていたせいかクレス王子が苦笑いしながら、教えてくれた。
「私達は火の魔法と相性が悪くてね。いざとなったら火を放つつもりだ」
火事になりませんかね……。あ、そこは水の魔法があるから大丈夫なのかな。
先ほどの人達より二十人程増えた一行は、トレントが逃げた方向へと歩きだした。
クレス王子は水の乙女アミスと馬に乗っている。あまり、遠くないといいなぁ。そう思いながら、私も歩きだした。
あの男の人の姿は見えなかった。
ーーー
「いないな……」
かなり歩いてまわったけれど、トレントは見当たらなかった。
「これ以上奥に行っても皆が消耗するだけか、戻ろう」
ホッとした。だいぶ疲れてきてたんです。体力ないなぁ。
引き返そうと、決まったその時だった。アミスの顔色が蒼白になり、冷や汗をかいていた。どうしたんだろう。ふと、アミスの横を見ると水の精霊と思わしきあの男の人がいた。
「クレス様、街に巨大なトレントが現れたとウォータが――」
「何!」
「急ぎ戻りましょう」
「わかった、ディーテ! お前は皆を守りながら戻ってこい。私達は先に街に戻る!」
「はっ!」
ディーテと呼ばれた列の一番前にいた人が承諾すると、クレス王子とアミスの乗った馬は駆け出した。
「ボク達も戻ろう」
アリスは指笛を鳴らしぴーちゅんを呼んだ。サッと私はまた抱き上げられた。
「風の精霊よ」
トントンと木の上に登って行く。
「ルードも一緒に乗って!」
「はい」
魔力の消費をおさえるために、片方だけで行くんだろう。
「魔力は私が」
「リサちゃんは自分用に置いといて、サラにお願いするかもでしょ?」
そうアリスに小さく告げられ、私は指を引っ込めた。
「ぴーちゅん!」
不服そうなぴーちゅんはしぶしぶとアリスの指に嘴を当てていた。
ぴーちゅんが大きくなったのを確認してから、ルードも空に飛び上がってきた。
「いくよ!」
ぴーちゅんに乗って、前方遠目に見える街には、湖に根を浸けた絡み合う大きな木が一本見えた。
紫色の煙が木のまわりに漂っている。
「あれはいったい何?」
「あれは……、毒かもしれません。近づきすぎないようにしましょう」
ルードが注意すると、アリスはこくりと頷いた。
確かに、毒々しい感じがする。でも、あんなところで発生しているのが毒だったら……。急がなきゃ!
今度はラーファが私の頭の上にきて、趾でペシペシしていた。もー、何なの君たち?




