03話・塔の上のお姫様
「なんで、私はここにいるんだろう……」
塔の上なんてまるでおとぎ話のお姫様みたい。ここは城の西側にある塔の最上階。
居心地は悪くはないんだけど、というか何から何まで揃っていて、呼んだらお手伝いさんまでいるんだけど。
どうなっちゃうのかな、私。
ーーー
「あのー、よくわからないのですが、これはどういうことなんでしょうか?」
おそるおそる聞くと、黒いローブの人が答えてくれた。
「こちらは白い方が聖なる力、黒い方が魔なる力、魔法を使う力を数値化する水晶です」
「はぁ」
「測定数値上限は100だと聞いています。聖なる力は普通の人ではまず反応しません。魔なる力は魔法が使える者ならだいたい10~30になります」
「えっとそれで、私は?」
沈黙が数秒。カトル王子と黒いローブの人が目で会話しているようだった。どう言うか決まったのか、カトル王子が話し出した。
「君は聖なる力が10だ。一応反応はしている」
「はぁ」
「それと魔なる力が100だ」
「え?」
「魔法特化の魔法使いでも50だ。つまり聖女の力もあるにはあるが魔女としての才が、抜きん出ているということだ」
「はぁ」
という、言葉しかでてこない。どう理解すればいいんだろう。
「カナは、……君の前に現れた人は聖なる力が100魔なる力が10だった」
あら、正反対。そして名前はかなちゃんて言うのかー。これは勝ち目が薄い。どう考えてもむこうが聖女ですね!
さて、どうしましょう。うむむ、と考えている私を見てカトル王子が声をかけてくれた。
「あぁ、心配しなくていいよ。衣食住はこちらで用意する」
そういうと、付き人だろうか少し小柄な男性と、紺色のメイド服の女性が後ろからスッとでてきた。
「西の塔に部屋を用意してくれ」
メイド服さんのほうが、先にさがって行った。小柄な男性は、ペコリと小さくお辞儀をしてその場に残った。どうやら、この人が私を案内してくれるようだ。
「君の事を陛下に報告してくる。すまないが、処遇が決まるまで用意した部屋で待機しててくれないか?」
「わかりました」
とりあえず、無難に返事をすると、カトル王子はコツコツと、どこかへ歩いて行ってしまった。
「リサ様、こちらです」
「はい」
名前を呼ばれたので、返事をして小柄な男性の後についていく。長い長い廊下と階段をひたすら歩いた。掃除がとても大変そうだなあとか、思っていたのは内緒です。
ーーー
で、もう夜なわけだけど。
とっぷりと日も暮れて月と星が輝いている。違和感があるといえば赤い月と黄色い月と青い月があるってことかしら。月が三つもあるなんて不思議だわ。とても綺麗だけど、信号みたいに見える。
ふぅと、ため息をついて大きな窓の窓辺に立ち思案する。
聖女って、そもそも何をするためによばれたんだろう。私も一応少しだけでも力があるから、聖女のお手伝いでもすればいいのかな。予備部品的な? あ、魔法の力があるって言ってたよね! 魔法が使えるのかしら。
ぐるりと見回して、空のコップに目をやる。
「水よ、でろー!」
しーん。何も起こらない。
「じゃあ、風よ、吹けー!」
しーん。何も起こらない。
はぁ、そう簡単にいくものじゃないよね。
独り言を呟きながら、窓辺に戻り外を眺める。
「……本当にもう帰れないのかなぁ」
ぽたり
いつのまにか、泣いていたようだ。涙が頬を伝い落ちていた。目をこすり、もう一度窓の外を見る。すると黄色い月の真ん中を人影がよこぎっていった。