26話・マタタビ泥棒①
「つかまっててよー!」
急にお姫様抱っこにされたと思ったら、
「風の精霊よ!」
魔法を使ってまでの本気追いかけですよ!! どれだけマタタビが好きなんだろう。
ひゅっと風を切りながら街中の空中を疾走する。
街の人たちの視線がささって恥ずかしいけれど、前にされたときよりも速いスピードが怖くて、アリスにぎゅっとしがみつく。
「んー、こっちかな?」
鼻をスンスンとさせて、匂いをたどっているんだろうか?
少し奥まった路地に降り立った。
ここはパレードの通り道から離れているのか、人の気配が少ない。
「見つけた!」
フードの中でアリスの耳があるあたりがちょこちょこと動いている。すごく気になる……。
そっと、歩いてマタタビ棒(残り)のもとへと近づいた。
「なんで、ちっこい棒っきれしか入ってないんだよっ!!」
七才くらい? の男の子が袋をあけて怒っているところだった。
ごめんね、お姉さんここのお金もってないんだよ。自分の持ち物って服とマタタビ棒くらいなんだよ。
男の子が袋を投げ捨てようと振り上げた時、アリスが飛び出した。
「返せっ!!」
投げ捨てようとした手をがっちりと掴んで止めた。本気である。
男の子は、目を丸くして驚いているが、掴まれた手を振りほどきアリスに向かって袋を投げつけた。
「棒っきれなんていらねーよ!!」
そして、そのままもっと奥へと道を走り抜けていった。
「リサちゃん」
アリスが、大事そうにマタタビ棒が入った袋を私に渡してきた。まるで大金か、宝石でも入っていそうな扱いだけど、それお徳用パックです。全部で千円くらいです。とは言えない。
「ありがとう」
素直にありがとうを伝えて、ポケットにマタタビ棒の袋をしまった。
「戻ろうか」
また、アリスが手をだすが、私は繋げずにいた。
「気になるの?」
顔にでていたのだろうか。考えてることを読まれてしまった。
「うん」
走り去って行った方向をじっと見てしまう。
あのままほっとくと、違う人を狙って、またやるんじゃないかと気になってしまったのだ。
「しょうがないなー」
アリスが、また鼻をスンスンとする。真似をして私もスンスンとしてみた。何も匂わないけど、アリスにはわかるんだろうか。
「いこっか。こっちから、残り香がする」
今度は急いでないからなのか、普通に歩いていくみたいだ。
もう一度手をだしてきたアリスの手を今度は握って、私達は少し駆け足気味に走り出した。
あ、パレード。もうだいぶ時間がたってしまった気がするけれど。……間に合えばいいな。




