番外編・最初のボクが求めたもの
「ここは?」
草の匂いがする。風が吹く場所で僕は目を覚ました。いったい何回目だったろう、リサともう一人の僕を見送って、それで――。
ぴちゅぴちゅ
「ぴーちゅん……」
あれ? 僕は違和感を覚える。
「クロノス?」
返事がない。
「クロノス!?」
僕は彼の名を何度も呼ぶ。でも、まったく反応がない。
ぴーちゅんがいるってことはここは僕のお気に入りの場所だ。
「そうだ! 戻らなきゃ! もうすぐ時間のはず」
召喚の儀式が始まる。一人目の聖女がやってくる。
「風の精霊よ」
僕が呼ぶと風の精霊は集まり体をふわりと持ち上げた。
「アリスト様! アリスト様ー!!」
城ではずっと僕の事を呼び続けるソーイがいた。彼は過去の僕がいるならここまで呼び続けることはないはずなんだけど……。
過去の僕はどこに行ったんだろう。僕は魔法で空から探す。だけど、これが失敗だった。
「アリスト様、見つけましたよ!」
ソーイに見つかった。僕は彼のもとに行き、ごめん、ごめんと言っておいた。過去の僕がくれば匂いでわかるだろうとたかをくくり、言われるがまま連れていかれる。
「まったく、大切な儀式の日にふらふらとしないでいただきたい」
「ごめんって、ソーイ」
彼とこのやり取りをするのはとても久しぶりすぎてなんだか涙が出そうになった。
「あぁ、もう始まっています」
カナを呼ぶ儀式が始まっていた。
いつものように彼女が魔法陣の上に現れた。
過去の僕がいつもならここから見ていた景色。僕はいつもなら向こうで……。
視線を向けるが誰もいなかった。
ーーー
この世界はいったい……。
一日ここにいたけれど、過去の僕が帰ってくる気配がなかった。このままでは、リサと出会う時間になってしまう。
僕は探し回ったけれど、過去の僕を見つけることが出来ないままついにその時がきてしまった。
僕はどうしたら……。
いい匂いがする。それに……、彼女が泣いている。
「風の精霊よ!」
僕は夜空に飛び上がる。彼女のいる塔を目指して――。
何度も何度も願って、届かなかった彼女が目の前にいる。
「あの、あなたは誰?」
「僕は…………」
手を伸ばしてもいいのかな。
「……ボクはアリス。君はー?」
「あ、りさです」
「アッリサちゃん?」
「りさです!」
「リサちゃん?」
僕はリサを抱き締める。真っ赤になった彼女に謝りながら、マタタビの事を聞いた。
過去の僕がいないなら、僕がリサを導かないと。
「アリスちゃん?」
「あ、そうだ! これ」
僕の使われることがなかった、誓いの指輪をそっと自分の指から引き抜いた。
これを彼女に贈ってしまえば、また歴史が変わるかもしれない。だけど……。
「これで君とボクはパートナーだよ。じゃあ、また明日!」
頭にいっぱい「?」を浮かべた彼女を見ていたかったけど僕はそこから外に飛び出した。
これ以上あそこにいたら、僕は彼女を離せなくなるから。
僕が好きになってもいいのかな。僕がリサちゃんって呼んでもいいのかな。
ずっとずっと願っていた。僕が手を伸ばしてもいい、あの子――。
最初のアリスと出会うはずのなかった女の子。




