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黎明とドラゴン

注意:サブタイトルに黎明と入っていますが彼とか彼に近いキャラは出ないので安心してください。文字通りの意味しかありません。

彼が誰なのかは多分頑張って調べれば出てくるはず。

 地上にあったのは予想通り廃墟であった。

 しかしながら廃墟というより家だったものの残骸の方が正しいかもしれない。

 少なくとも廃墟の敷地内であっただろうところから上を見上げれば夜空が見える。それだけでも屋根がないと分かるだろう。

 では上ではなく前は?

 答えは壁という概念を忘れたかのように木が見えます。

 無論一本ではなく無数の木がある。

 匠もびっくりな開放感ある家だね。

 ……冗談はさておき家としての面影がないのだ。

 なんとか壁に使われていたのであろう石のブロックのようなもの―苔が生えてしまっている―が固まって複数積まれているぐらいで人工物らしきものは地下への入り口を除くとそれ以外ない。

 逆に自然物は多く、足元には草花が生い茂っていて一部には砂場で作れるぐらいのサイズの山があり、家の中央らしきところには複数の木が絡まって生えている。ちなみに私が出てきたのはこの木の近くである。

 しかしながら某王道ファンタジーゲームの5作品目で主人公が最初の頃住んでいた村が〇〇〇(自主規制)ときの家は骨組みが残っていたがこの家にはそれがない。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()ように感じる。

 こう、表現しづらいんだけど、家かそれ以上に大きいクマが手で薙ぎ払ったというか何というか。

 まあ異世界なんだしそんなことはよくあるんだろう。


 今は時間的には夜で普通『何処かも知らない森の中の廃墟でひとりぼっち』っていう状況なら怖くてこんなことも思わないだろうけど、私は今異常と言えるほど落ち着いている。

 まだ家族だとか友達とかに会えないことに対しての悲しさとかは全然あるんだけど、それ以外の誰かに襲われるとかそんな怖さはない。ついでに言えば体の疲労感はあってもそこまで眠くもない。

 もしかしたらよくあるスキルがある世界で私は『精神安定』とか『睡眠耐性』みたいなスキルを持っているのかもしれないし、人型のそういう種族なのかもしれない。

 しかしながら今が何時でどれくらいで日の出なのかも分からない現状で眠くないというのはとても有用だ。

 体感時間でこれからは時間が分かるようになるかもしれない。

 ただずっと立ったままでいるのは辛いので盛り上がって飛び出してきている木の根らしきものの上でゆっくり待つことにした。


「アクセル」―『ルシファー』

「ファックス」―『スニーカー』

「怪奇現象」―『(うり)

「リーマンショック」―『クズ』

「ズッキーニ」―『二割増し』

「ちょ、それありなの⁉︎」―『あり。次は?』

「ええっとシスコ、危ない!」―『チッ』

「なら獅子!」―『しめじ』

 何をやっているって?

『ボッチ会議』を応用したしりとりに決まってるじゃないですか。

 最初の1時間ぐらいは王道ファンタジーのように何かあるのかな、と思いながら少しソワソワしてましたよ。

 けどそんなことはやっぱりなく、誰か来るとかそれ以前に風すらも吹いてきませんでしたよ。

 そんなの暇になるに決まってる。

 もちろんしりとり以外に二進数で数を数えたりした。

 しかししりとりが一番単純で楽しいのだ。……1人だけど。

 ちなみに三つの月は全て見えなくなっており少し明るくなってきた。

 なんで言った、今?

 ()()()()()()()()って言ったのか私は。

 明るくなる=光がある、そんでもって今いるのは外で少し前まで暗かった=朝!

 やった!朝だ!

 この時私はテンションが上がりすぎて忘れてしまっていたのだろう。今私がどこに座っているかということを。

 おもいっきり体を後ろに倒したのだ。

 そして今座っているのは木の根だ。

 最低でも平均的な身長より少し小さい中学生ぐらいからなら踏ん張ることができたかもしれないが今の私はそれよりも小さい幼女だ。

 踏ん張るどころか足がとどかないのだ。

 そしてそのまま私は後ろに勢いよく倒れてしまった。

 意識が飛ぶ前に背中というか体の背面のほとんどに草が触れた感覚があったのは多分気のせいだろう。



 *



 ところ変わってとある山の(いただき)

 そこには誰がみても人工物だと分かるものがある。

 おそらく山の壁面を削って造られた神殿だ。

 入口からは祭壇のようなものが置かれているところまで一本道に作られている。

 一本道の横には削られて作られている長椅子が一定間隔空けて置かれていた。

 祭壇らしきものはとても大きな生物の頭骨―おそらくは爬虫類かそれに近いものだろう―が置いてある。しかし頭骨には埃がかぶっており明らかに大切にされていないことがわかった。

 よく見ると長椅子や一本道にも埃がかぶっており長年掃除されていないことがわかる。

 何も知らない者がここにきたならばそれだけが認識できるだろう。

 といってもこの山の頂に無事に到着すること自体難しいとされており、もし誰か、それがさらに人間だったならばその者は英雄もしくは人外と世間から言われるだろう。

 さらにもし頭骨が誰の頭骨か分かったのならその者は博識、もしくは長寿である。

 そして()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が出来たのならば神託を受けた上で無事に頂にたどり着いた者ぐらいだろう。

 この山、人々からは天帝の(やしろ)と言われる山には何百年も生きているドラゴンが住んでいるという。

 伝説では『山の頂に侵入する不届き者は排し、彼の者が護る宝に手を出そうとする者はその者の一族が滅ぼされる』と言われている。

 頂に来るまでには人間の領域では国を挙げて対処しないといけない怪物が多く―人間の領域と比べるだけであり、もちろん少ない―出現する。

 それ以外の怪物も人間が普段見るものよりも一段と強いだろう。

 そして頂に近づけば近づくほど空気は薄くなり呼吸もしずくなる。

 そのような場所を越えてここまで来たのだ。

 例えどのような手段―怪物の囮として数多の奴隷を生贄にしたとしても―でも頂に辿り着いたらその者は既に―人間からしたら―英雄と呼ばれる領域にある。


 今日来たのは珍しく五体満足の人間の―役職は大剣士1人、斥候1人、錬金術師1人、剣士1人、弓士1人―集団だ。

 腕試しなどで登り満足する者だったのならよかった。

 しかし彼らは身なりからしても盗賊に近いものだった。

 どうせドラゴンが護るものを金銀財宝と思い込み、それを奪いに来たのだろう。

 哀れなことだ。頂に五体満足で、しかも集団だ。

 このまま人間の領域に帰れば―彼らの立場では言われることはないが―英雄と呼ばれることがあったかもしれない。

 しかし盗賊たちはそのまま神殿に入っていったのだ。

 盗賊たちは神殿の中に財宝が眠っていると思ったのだろう。

 彼らはタイミングが悪かった。

 祭壇が爆発したのだ。

 しかしそれは違う。爆発ではなく下から何かが起き上がったのだ。

 祭壇は粉々となりその上に置かれていた頭骨は―なぜか傷ひとつないが―吹き飛ばされ転がっていた。

 祭壇の跡地からは煙―おそらく埃などがまったのだろう―があり何が起こったのか、盗賊たちはすぐには分からなかった。そして煙には大きな影が見えた。

 最初に何が起こったか理解したのは錬金術師だ。彼は他の仲間と比べると学があるので少し早く理解してしまったのだ。

 しかしそれは誤差と言ってもいいぐらいのことである。彼の他の仲間もすぐに理解した。

 祭壇の下にある隠された空間で長きに渡って眠っていたとされるドラゴンが目覚めたのだ。


 ドラゴンは盗賊たちに尋ねた。

 彼らは何者かと。盗賊たちはそう聞かれるものだと思っていた。

 実際は違った。


『あなたたちは何が欲しいの?』


 伝説とは正反対の言葉がきた。

 盗賊たちは困惑した。

 実際彼らはこのまま帰ったら他の人間なんて敵じゃないと分かっており、そいつらから奪えばいいとも思っていた。

 しかし欲望に流され、あるかどうかも分からないドラゴンが護る宝を求めて神殿に入ったらそのドラゴンが目覚めた。

 そしてこのまま殺されるのかと思いきや、生かして返してもらえるどころか欲しいものを貰えるのだ。

 これ以上ない理想的な結果だとリーダーである大剣士は思った。

 ドラゴンが護る宝さえ諦めればいいのだからと楽観視していたのだ。


「じゃあおまえが護っている宝をくれ!」


 元気よく剣士が言ったのだ。彼は筋金入りの馬鹿であり仲間たちからはあまりよく思われていなかったが、ごく稀に状況をひっくり返すような策を思いつくので生かしておいたのだが今回はそれが裏目に出たのだ。

 煙によって分からなかったが逆鱗に触れてしまったと大剣士は理解した瞬間近くで『グシャッ』という音が二度ほど聞こえた。

 大剣士は慌てて仲間の安否を確認しようとしたがさらに『バシッ!』という音の後に何かが崩れるような音がした。

 その後におそらく弓士が矢を放つ音が聞こえたがすぐに悲鳴と共に『グシャッ』という音が聞こえた。

 徐々に煙が晴れていき目に入ったのは自身よりも大きく白と一部に金が入ったドラゴンだった。神聖や神々しいといった言葉が具現化されたのではと大剣士は一瞬思ってしまった。

 ただ前足や尾に赤黒い色が付いているのが異質だった。

 そこから目を離したら死んでしまうかもしれないと思ったが仲間の安否を確認したかった大剣士はドラゴンから目を離し周りを一瞥した。

 床に二つ、長椅子の上に一つ、壁に一つ赤黒い色が付着しておりその近くには布切れや金属、肉片が転がっていた。

 何があったのかは想像はつく。

 そして自分も同じ道を辿ることも大剣士には理解できた。

 目をドラゴンに戻すと不思議なことに夢現(ゆめうつつ)だった。

 寝起きだったからだろうと大剣士は判断した。

 首を取るか逃亡するか、普通なら選択肢はその二つが思い浮かぶだろう。

 大剣士はそのどちらでもない()()()()()ことを選んだ。

 攻撃も撤退もせず、ただ手に持つ大剣を構えてドラゴンの次の行動を待つ。

 それが彼の命を長らえさせた。

 ドラゴンが夢現から戻ったと思いきや勢いよく口から触れたもの全てを粉砕するような破壊光線(ブレス)を放出し神殿の入り口に大きな穴を開けた。

 そしてそのまま神殿の外に飛び出していった。

 かくして盗賊たちは壊滅しドラゴンは行方知らずとなった。

 運が良い大剣士を残して。

 後に大剣士は純粋なる力の奔流の一端を見たことによって改心し様々な苦難を越えとある国の騎士団長に就任したのは別のお話。


 神殿から飛び出したドラゴンは自らが護る大切な宝の目覚めを感じ取っていた。夢現になっていたのはそれに気づき歓喜していたからだ。

 結界を張り、長きに渡って彼女はその者の目覚めを待っていた。

 待ちに待った日が来たというのだから彼女からしたら仮住まいに侵入してきた者たちのことなど既に眼中になく、むしろもっと早く彼女の宝が目覚めることを感じ取れなかったことを悔やんでいた。

 昔のように遊んで欲しい。

 昔のように一緒に暮らして欲しい。

 小さな子供のような欲求だが、そんな欲求だけが彼女が今まで生きてきた理由の全てである。

 彼女の長き生をもってしても記憶からは消えることがなく、むしろ日に日に濃くなっていくその記憶が彼女にとってのかけがえのない大切な思い出である。

 姿が変わってしまったが気づいてくれるだろうか、という心配はもちろんあったが絶対気付いてくれるという安心感もあった。

 気分が高まっていたのか無意識にとても懐かしい曲を歌っていた。

 懐かしくなり早く再開したいという欲求がさらに強まり速度を上げたのだった。

予定ではドラゴンの話が短いつもりだったのですが、予定外の盗賊を出したことによって長くなりました。

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