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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編】エロゲ世界にTS転生したボクは主人公からヒロインたちを護る。いやだって、この世界って貞操観念ゆるそうだし……

作者: 影薄燕

 ~連載計画始動中~

 詳細は活動報告で。


 ボクはこの家に住んでいる柚木ゆずき友理ゆうり

 お父さんとお母さん、それに大好きな1つ年上のお姉ちゃんを持つ、今日で5歳になる普通の女の子だ。

 女の子……なんだよなー。


「ホントは男だったはずなんだけど……」


 今日の朝、目が覚めれば思い出したのは前世のこと。

 混乱しつつ最初に確認したのは下半身にある――というか、あったはずの我が息子さん。うん。見事に何もなかったな!

 何となく歩きやすかったよ!


「転生……ってやつか?」


 前世では大学生だった。

 最後の記憶は赤信号無視のトラックがこっちに――うん。おもっくそひかれてたな! 宙を舞っていたもん。

 死んでいても何もおかしくないですね!


「普通ならここで現状確認なんだけど」


 どうやら必要はないみたいなんだよな。


 玄関にある鏡に映った自分の姿を見る。

 大きな目に少しクセのあるオレンジの髪。家族構成と姉の存在。そして柚木友理という名前。間違いない。ここは――



「転生先がエロゲの世界って……!」



 気をしっかり持っていないとふらつきそうになる。

 しかし転生先がかつてハマったエロゲ世界の登場人物とはいったい? どうせなら普通のファンタジー世界に転生したかった。




 『ヴァルキリーダンス~2つの月と英傑の乙女たち~』

 それが数年前、前世で発売されてから一躍有名になった18禁ゲームのタイトルだ。略称は『ヴァルダン』。

 そして、この世界の舞台でもある。


 難しいことは説明が長くなってしまいそうなのではしょるが、ようはローファンタジーな世界で選ばれた(県に約数千人)少年少女たち(普通に大人も含む)が扱うことのできる不思議な装備を主軸にした、RPG要素を取り入れたストーリーとなっている。


 幼い頃から自身と共に育てる装備『Heartギア』は1度登録を行うとその人以外には扱えず、世界で唯一自分だけの特殊能力を発現させることが出来るという、リアルな科学なんてクソくらえ! 細かいことは気にするな! 考えるな感じろ! な世界観を想造できるゲームならではのアイテムだ。

 ちなみに公式や作中で出た説明によると『Heartギア』を通じて装備者の魂を徐々に変化させることで特殊能力を使えるようになるとのことだった。それ以上の説明は無い。選ばれた人間の基準とかどうやって作っているのかの説明もほとんどない。なんてフワフワなんだろう!!


 ゲームに登場する人物は多岐に渡り、当然のことながらヒロインの数もそこそこ多い。そのヒロインのほぼ全員が戦闘に役立つ特殊能力に目覚めて主人公と関わるから“英傑の乙女たち”なんてサブタイトルも付いている。


 とまあ、そんなフワフワな世界に死んでしまったらしいボクは『ヴァルダン』に登場するキャラの1人――柚木友理として転生したみたいだ。



「しっかし……なぜに柚木友理?」



 幸か不幸か、柚木友理はヒロインではない。


 ヒロインはその姉である柚木ゆずき秋穂あきほだ。

 黒髪なおっとり美人に将来はなる自慢の姉。今更だけどボクのオレンジ色の髪ってどこから来てんだろ? 両親は黒髪と茶髪だし、記憶にある限り祖父母にもオレンジ色の髪はいなかった。隔世遺伝? それとも遺伝子の誤発注? ゲームだからの一言で片づけられそうだけど釈然としない。


 話を戻すが問題は柚木友理がどんな人物かだ。


 簡単に言えば、王道なギャルゲーやエロゲに一人はいる少しサービスシーンがあるだけで主人公と結ばれることもないクラスメイトの1人、という存在意義がやたら情報通の男子と同じぐらい微妙な位置のキャラである。

 人付き合いはいい。明るく行動的。柚木秋穂のルートに入るとより深く関わることにもなる。

しかしながら、攻略対象ではない。


 もちろん人気は十分ある。

 見た目は普通と言いながらも現実でプレイする紳士たちからしたら十分美少女の分類に入る。そのため「もしかしたら隠しルートで柚木友理が攻略できるんじゃ?」などという憶測もネットで広まった。結局無かったが。


 まあボクも、ワンチャンを掛けて柚木友理が登場するイベントを全て10回ずつ攻略の合間に見ておくということをやり――数十時間の時間を無駄にしただけになってしまったちょっと悲しい記憶があった。


 そんな柚木友理に転生してしまったのだが……


「だからどうしろと?」


 ライトノベルなんかで転生した人物が最初に当たる壁の1つ“転生したけど、これからどうしよ?”にボクも当たってしまった。

 問題無いなら柚木友理として生きていくのがベストなんだろうけど、ゲームで性格を知っているからってその通り生きていかなければいけない理由も無い。ぶっちゃけ、意識してる方が生きづらさそうだ。


 結論――


「バレないようにだけ気を付ける。後は保留」


 柚木友理は現在5歳。

 良くも悪くもそこまで個性的ではない女の子として5年間を生きてきた。よっぽど突拍子もない行動さえ取らなければ疑惑の目を持たれる心配はないはず。姉も両親も細かいことは気にしない性格だからいけるだろう。


「友理~ごはんよ~!」


「え!? あ、は~い! 今いくー!」


 今世のお母さんがお呼びだ。

 考えたいことはまだまだあるけど、朝ご飯を食べてからまた考えよう。




 何気ない朝の風景。

 いつもと変わりなく両親は談笑し、テレビで天気予報を放送している。

 そんな中でボクの1番の関心は、


「ん? どうしたのユウちゃん?」


「えへへ。何でもないよお姉ちゃん」


 『ヴァルダン』のヒロインこと柚木秋穂だ。


 画面で何度も見た姿より大分幼いけど本人だ。あのゲームで癒し系先輩のポジションにいた本物のヒロインだ。非常に感動している。


 ボクは例外なく『ヴァルダン』のヒロインたちが大好きだ。

 高校生の時からしていたギャルゲーではなく1段ハードルが高いエロゲを買ったのも、ネットで見かけたパッケージのイラストやサンプル画像に不思議なほど惹かれたからだった。後は、アレだ。ボクもそっち系のゲームをやってみたかったという理由もある。ボクも全国にいる紳士の1人だったんだ。


 ちなみにボクこと柚木友理には姉が言った“ユウちゃん”以外にも“ゆーゆー”とか“ゆゆっち”とかの呼ばれ方があった。


「ユウちゃんも5歳かー。早いなー」


「あー……うん。そうだね」


 前世の記憶が上書きされたからか、この5年間の記憶はダイジェスト風でしか記憶に残っていない。5歳の女の子の記憶より大学生の男の記憶が優先されるのは当たり前だけど。それを考えると精神年齢の成長の早さが全然違う。

 柚木秋穂――もうお姉ちゃんって呼び方固定でいいや。お姉ちゃんの中では普通の電車ぐらいのスピードで成長したと思っているみたいだけど、実際は今朝の数時間だけで新幹線並みのスピードで成長しているボク。


 姉という存在であるにも関わらず、今のボクにとっては保護対象のような、あるいは少し離れた場所で見守るべき愛しい存在になっている。

 今後の妹ライフ、多少なりとも意識していないとお姉ちゃんの性格にも影響が出るかもしれないな。

 柚木秋穂は元気な柚木友理の姉であろうとしたからこそ、癒し系先輩ポジとして主人公とも深い仲になって……?



「……あ!?」


「? ユウちゃん?」



 そうだ。そうだった。

 お姉ちゃんはあのエロゲのヒロイン。そう、ヒロイン!


 18禁ゲームに登場するヒロインたちほぼ全員に求められるのは、当人のルートに入った主人公とフラグを立て続けて仲を深めること。そして最終的にはゲーム内時間で付き合い始めて1か月も経たずに服を脱ぐようなイベントが……!!


 ギギギと、錆び付いた機械のような動きでお姉ちゃんを見る。お姉ちゃんは何故かビクッっと震えた。


 そりゃボクもあのエロゲをプレイした1人だから当然、柚木秋穂のルートも何度かクリアした。必然的ニャンニャンいやーん♪ なシーンを見てきたわけだ。

 その時は深く考えなかったが……




 今世の実姉が、


  付き合ってすぐの主人公と、


   あんなことやそんなことをする?


    大好きなお姉ちゃんが? ヒロインたちが?




「………………」


「ユ、ユウちゃん?」


「………………ブルッハ」


 強烈な胃の痛みに襲われたかと思ったら、口から大量の血が出た。あれ? もしかしなくても、これって吐血――


「「友理!?」」「ユウちゃーーーーーん!!」


 あ、意識が遠く……




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 目覚めたら病院のベッドだった。

 もしかして全部夢で、事故から奇跡的に助かったんじゃと下半身を確認して――やっぱり無かった我が半身。もう永遠に戻ってこないんだな。


 そして駆けつけてくる我が自慢の姉。


「もう、本当に心配したんだからね! ユウちゃんどうして胃に穴が開いちゃったの!? ストレスが原因だって言っていたけど、お医者さんが“何か辛いことでもあったんですか? いやマジで”って真顔で聞いてきたよ!!」


「むしろボクが聞きたい」


 いや、原因は分かってる。

 『ヴァルダン』の主人公と、ヒロインであるお姉ちゃんが18禁なことしているシーンを思い出してしまったからだ。

 しかも、お姉ちゃんの方が年上だからか主人公よりもそっち方面で積極的で、初体験でも未経験ながらリードして――


「グフッ」


 吐血再び。


「いやあああああああああっ! ユウちゃんがまたお口から血いいいいいいいい!! お母さん! お父さん! 先生ぇえええええええええええ!!」


 う、ん。

 ギリギリ意識はあるな。しかし5歳でストレスが原因による胃の損傷からなる吐血とか……病弱キャラで通すべきか?




 速攻で1週間の入院が決まった。

 分かっていたよ? この展開。


 時刻は深夜。

 あっという間に1日が過ぎたなー。今日のボク吐血してばっか。お姉ちゃんのトラウマにならないことを祈ろう。


「さて、いい加減落ち着いて現状の問題点を確認しよう」


 1つ目にして最大の問題点はこの世界が元の世界とは似ているようで異なる世界だという点だ。

 柚木友理としての記憶を洗い出し、『ヴァルダン』全てのルートの重要情報を思い出したことでハッキリしたこと。



 この世界、ちょっと貞操観念が低い。



 元の世界でもヤリチン・ヤリマンな奴らは簡単に事に及ぶけど、常識的な人なら異性と付き合ってもしばらくはそんなことしない――はず!

 まあ実際、清い付き合いなら例えエロくても半年から1年ぐらいはデートだけで満足するんじゃないかな? ボクは恋人なんていた試しないけど、男女関係なく付き合ってすぐに「ちょっとホテルで休憩しない?」とか誘って来たら普通に引く。


 むろん例外はあるだろう。

 本人たちも気付かずにイチャイチャしてから、ちょっとした切っ掛けで付き合い始めたりするパターンや、幼馴染同士で長い間友人関係だったのがなんやかんやで恋人になるパターンなどだ。

 これらに共通しているのは恋人になってから事に及ぶまでの期間が短いかわりに、それまでの付き合いで数年から十数年の付き合いが当人たちにあることである。


 そもそも“付き合う”というのはある意味結婚を前提としたお試し期間ではないだろうか? それまでにどんな関わりがあったとしても、付き合ってみなければ分からないその人の1面というものはある。

 その期間でトキメキなものを感じて好感度が上がったら、クリスマスにでもイチャコラして性なる夜を過ごせばいい。

 逆に“あ、コイツないわ”と思えば、別れればいい。結婚すればほぼ一生涯のパートナーになる相手である。なあなあで関係を続けて、子供ができてから離婚するよりずっといい。この場合の1番の被害者は子供のはずだ。ギスギスの家庭環境に置かれたうえで両親の離婚とかなったらグレてもおかしくない。ボクなら確実にグレる。


 さて、ここまで“付き合う”ということに対して長々とボクの自論を展開した訳だが、これがこの世界――というよりエロゲの世界になってくると事情が変わってくる。


 美少女系エロゲの場合がそうだが、物語の始まりから終わりまでが大体1年もなかったりする。ハイスピードな物語になると1ヶ月も経たずにエンディングだ。

 主人公はある程度の共通ルートを経てどのキャラクターと結ばれたいかを決めたら、そのヒロインの攻略に乗り出す。そこからさらにヒロインとの数々のフラグやイベントを経て付き合いだすのだ。


 ここまではいい。

 良くはないけどいいったらいい。



 問題なのは付き合い始めてからすぐに、18禁シーンに突入することだ。



 早いっての。

 下手したらカップラーメンよりも早くベッドインだぞ? 現実的に考えたら「オマエら猿じゃないんだから一旦落ち着け」と言いたい。


 だが古今東西、エロゲであるなら付き合ってからの期間など関係なしにすぐニャンニャンし始める。なぜか? それは、いつまでもゲームをプレイしている紳士たちが待てないからだ! 聞いた話だと少しでもイベントで兆候が見られたら、ズボン脱いで風邪ひく覚悟でスタンバっているらしいからな。知った時は「数分ぐらい待てや」って思ったもんだ。


 ここで2つ目の問題に入る。

 それは世界の神が味方するだろう存在――主人公。


 『ヴァルダン』の主人公は悪い奴ではない。むしろ良い奴だ。そして、優しくて困った人を見たら何かにつけ理由を作って助ける奴でもある。


 うん。この時点で女の子に惚れられる要素がいっぱいだな。

 むしろ、なぜ中学で彼女を作らなかったのかと問い詰めたい。

 物語が始まる前に彼女がいればボクがこんなに悩む必要も無かったし、ストレスで胃に穴も開かなかったはずだ。


 そんな主人公、一見すると貞操観念も高い人物に思えるが、残念ながらというか案の定というか……ヒロインと付き合い始めたら結構積極的になる。

 押しの弱いヒロインには自分から徐々にスキンシップを増やすし、普通のヒロインとはその場の雰囲気でやったりする。唯一の例外はエロ方向に意外と積極的なお姉ちゃんのようなタイプで――


「……はっ! あ、危ない危ない。また吐血するところだった」


 さすがにこれ以上の吐血は命に関わる。



 とにかくだ!

 そんな奴にお姉ちゃんも、そして他のヒロインたちも、断じてお付き合いなんてさせてたまるか!

 完っ全に個人的な理由だし理解されないのも分かっているが、それでもヒロインたちを! 特にお姉ちゃんを! あんな下半身と脳が直結しているような主人公(100%偏見)に渡したくない!!

 性格だけはいいんだから、彼女にするなら別に他の女子生徒でもいいはずだ! フラグ立てるんならそっちで立てろ。



 ゲームの中ならともかく、転生した以上ここがボクの現実なんだ。

 その場の雰囲気で突拍子も無くエロ展開になるのも、ハーレム展開になるのも全部お断りだ!


 そのためには今後の主人公とヒロインが関わることになるイベントのフラグを折っておく必要がある。何人かのヒロインなら今からでもできることは多い。それ以外の物語が始まらなければ合うことすらできないヒロインたちのことは、その都度考えよう。


 1番最悪のパターンは主人公もボクと同じ転生者で、難易度ルナティックなハーレムエンドを目指している場合だ。

 ……うん。考えただけで殺意が沸く。


「退院したらすぐ行動しよう」


 決意を胸に窓の外に広がる夜空を見る。

 そこにはタイトルにあった、この世界が地球とは異なるローファンタジーの世界であることを証明する2つの月があった。




~10年後~




 ついにこの日がやって来た。

 物語の舞台にもなる『アマテラス特殊総合学園』の入学式。その入学式が始まる大分前の時間帯、とある通学路の様子を確認できる場所でボクら2人・・・・・は主人公が起こす最初のイベントに備えていた。


「こちらコードネーム“Y”。目標地点を視認できる公園茂みに潜伏中。“A”、そちらの状況はオールグリーンか? どうぞ」


「はいはい、こちら“A”。……状況も何もすぐ隣で同じ茂みの中に隠れてるじゃないのよ? 何なのこの茶番? どうぞ」


「雰囲気作りだよ。ここで物語通りのイベントが起こるかどうかで運命を変えられるか・強制力が働くかが分かる」


「……その辺の事情はアタシも興味あるから、この茶番に付き合ってやってんだけどね。あ~あ、早く兄貴来ないかなー」


 そう、現在2人で様子を伺っている。

 相手の名前は結城ゆうき明日奈あすな

 ボクと同じ転生者であり、主人公の義妹でもある。


 彼女と会ったのは完全に偶然だった。


 あれは5年前。

 今後のために暗躍しながら接触したヒロインの1人と、明日奈がすでに友人関係になっていたのだ。

 そんな設定はゲームになかった。すぐ怪しんだね。

 それは向こうも同じで、お互いにかまをかけながら――今思うと非常に無意味かつバカバカしいやり取りをしながら確認しあい、それぞれ転生者であると確信するに至ったわけだ。


 初めは驚いたけど、収穫はあった。

 どうもボクとほぼ同時期に前世の記憶が蘇ってから周囲の状況なども調べてた結果、主人公は転生者でないと分かったそう。


 予想外だった事といえば、明日奈はボクよりも数年先の未来で死んだ女子高校生で、その当時は『ヴァルダン』がアニメ化していたのだ!

 すっごく羨ましい! ボクだったらBlu-rayもグッズも全部買ったのに! 何であの時期に死んだんだよ過去のボク? せめてヒロインたちが動く姿を見てから死にたかった。


 話は戻って、彼女は少しオタクだったそうだが、『ヴァルダン』のアニメを見てボクと同じようにビビッ! とくるものがあったらしい。すぐにファンになって毎週欠かさず見ていたと。ちなみに死因はアニメが終わった後に『ヴァルダン』のことを詳しく調べたら、エロゲだったうえに主人公とヒロインたちのアレなシーンの画像を見てしまい、いろんなショックでふらついていたら赤信号を無視してしまったがため普通に車と激突したと。


 そして個人的に残念というか微妙な点は、そんな彼女が転生したのが主人公の親の再婚によって義理の妹になる結城明日奈だったことだ。


「アタシだってビックリだったわよ。記憶が戻った時は普通のシングルマザーな親持つ幼女だと思っていたんだから。それが翌日には再婚の話になって、相手の人と会ってみたら同い年の息子さん――『ヴァルダン』の主人公がいたんだから」


 そこでようやくこの世界が『ヴァルダン』の世界、つまりはエロゲの世界だと認識したそう。


「死ぬ前に見た主人公――つまり兄貴なわけだけど、それと私があんなことやこんなことしている光景思い出しちゃって、テンパって壁に頭をぶつけまくる奇行に走ったせいで病院送りになったのは黒歴史ね」


 退院してからは主人公と適度に距離を取りつつ、物語に影響が出過ぎないよう良好な関係を築いたそう。


「せっかくだから押しヒロインの子と友達になろうとしていたら、なぜか柚木友理が登場して、それがアンタだと分かって……5年も経ったのよね、あれから。早いもんだわ」


「ボクとしても幸運だったよ。エロゲから入ったかアニメから入ったかの違いこそあれ、ヒロインたちを主人公に渡してなるものか! という1点は共通していたんだから。くくく、主人公め。まさか自身の義妹がスパイだとは露程も思っていないだろう。貴様の行動・交友範囲・私生活のアレコレは全部筒抜けだ」


「悪い顔してるわねー。本来の友理ちゃんは絶対そんな悪者顔しないわよ? まあ、程々にしてね。体の関係もつ相手としてはアウトだけど、家族としては兄貴のことは慕ってんのよ」


「それはもう聞いたが念には念を入れた方がいいんだよ。そのために今までボクの存在を秘密にしてもらってたんだし」


「アタシはアンタがこの10年でどんな暗躍をしたのか心配でならないわ……。聞いても教えてくれないし」


「それは――来たぞ! オマエの兄貴だ!」


 双眼鏡で件のイベントが起こる場所を観察すればついに『ヴァルダン』の主人公こと結城ゆうき拓也たくやが歩いて来た。


「あー、分かってはいるんだけど複雑。兄貴、これから自分にどんなことが待ち構えているのかこれっぽっちも予想ついてないだろうし」


 同じく双眼鏡で自分の兄貴を見た明日奈はため息を吐いた。


 これから起こる『ヴァルダン』最初のイベントとは、超がいくつも付くぐらいベタな「あー! 遅刻遅刻!」から始まる激突→パンツ丸見えイベントだ。まあ、相手の少女は新しい生活に胸を高鳴らせていただけの、柚木友理より活発な性格の子なのだが。遅刻する訳でもないのに食パンくわえて通学路を走るのは危ないと思うんだ。


「そういえば、これから走ってくるかもしれない小谷こだに凛子りんことは随分前から接触していたらしいけど、何か理由があるの?」


「おう。今に分かる」


 仕込みはしてきた。あとは結果だ。


 普通に歩いてくるザ・普通を地で行く見た目の主人公。食パンを咥えながら走ってくるツインテールにしたピンクの髪が風になびく小谷凛子。


 セッティングしたわけでもないのに、後数秒で道の角から出ての激突イベントになる。


((どうなる!?))



――3……2……1……0!



「「――っ!?」」


 角から出たところで初めてお互いに相手を認識。驚愕で目が見開き、そのまま2人は激突――


「――はあっ!」


「え? うわわわ!?」


 ――せず、小谷凛子は主人公の力をいなしつつ、投げ飛ばす! 主人公は数回回転するも全く危なげもなく着地した。本人だけが何が起こったのか分かっていない、というか状況の変化についていけない感じだ。


「ゴメンね。急いでたからさ。じゃ!」


「あ、はい」


 何事もなかったかのような軽い返事で去っていく小谷凛子と、未だに何とも言えない表情をしながら同じ方向に向かう主人公。

 2人が完全に見えなくなったところで、


「いよっしゃああああああああああああ!!」


 満面の笑みでガッツポーズ!


「イベントを回避したぞ! 多少なりとも運命力はあるようだけど、その運命を変えることはできたんだ! これでヒロインたちを護れる!」


「……ねえ? どういうことか説明してくれない? 何よ今の達人かってぐらいの見事な投げ技? あれって合気道だっけ?」


「あれこそ10年の成果の1つさ」


 小谷凛子は格闘家のキャラだ。

 格闘に関して才能があるし、特殊能力も気を操る力や手足の防具の召喚を使えるようになる『ヴァルダン』のファーストヒロイン。

 戦闘時にはチャイナ娘が頭に付けるポンポンを装着するのが高評価だった。


 なので、


「初接触から数年かけて、合気道・護身術を習ってもらうよう少しずつ思考誘導してみました」


「意地でも最初のイベント潰す気だったわね?」


 重要だからね。中々に骨が折れたよ。


「……そういえば、何年か前から時々ボロボロになっている時があったような? 骨が折れていた時期も。あれってまさか」


「うん。ボクを練習台にしたよ。いやー、骨が折れちゃった時は焦ったね。お姉ちゃんが泣いちゃってさ。階段から転んだことにしたっけ」


 まさか物理的な意味で骨が折れるとは予想外だったよ。

 結果として凛子とは友達になったし、合気道・護身術もマスターした。ついでにボクの耐久値も上がった。


「頭が痛くなる……。すでに本来とは違っている子たちのことを考えると、これからの学園生活が怖いわ」


 これも全てはオマエの兄貴からヒロインたちを護るためだ。


「それじゃ、ボクたちもそろそろ学校に――」



「ユウちゃあああああああああああああああああん!!」



「いこぅんむぐっ!?」


 すごい勢いで何かが突っ込んできた!

 そして顔に感じるこの柔らかさと弾力は!


「お、お姉ちゃん!?」


「はい。ユウちゃんのお姉ちゃんですよ~」


 ヒロインである今世の我が姉!


「えっと、秋穂さん? どうしたんですか一体? ちょっとアタシらは用事があるんで先に学園に行っていてくださいって言いましたよね。というか、入学式の準備もあるんじゃ……」


「う~! だって、だって! 今日からユウちゃんと一緒の学園なのに、朝から側にいられなくて、それが寂しくて~。明日奈ちゃんばかりユウちゃんと一緒でズルいよ~~~!!」


「ア、ソウデスカ」


 何てことだ。お姉ちゃんはそんなにボクのことを……!


「お姉ちゃん!」


「ユウちゃん!」


 ハシッと抱き合うボクら姉妹。あぁ、何て尊いんだ。


「おーい、5年前からこのやり取り何度も見せられてるアタシの気持ちになれー。さっさと学園に行かないと本当に遅刻するわよー」




 というわけで、学園に向かうことになったボクら。


 残念ながらお姉ちゃんは入学式の準備がまだ残ってるそうで泣く泣く一足先に学園へ戻った。というか本当に泣きながら戻っていった。


「アンタのお姉さんさ、アタシが知っている柚木秋穂よりもシスコンな気がするんだけど? どうしてああなったのよ?」


「さあ?」


 実際問題これは分からない。

 気が付いたらお姉ちゃんのボクに対する愛が天元突破していたんだから。

 しいて思い当たるふしを考えると、5歳の頃の吐血や合気道・護身術の練習台による負傷なんかで心配を掛けさせたことかな。後は姉妹としてのスキンシップを多くしたぐらいで大した問題は無いはず。


「心の声が漏れているわよ。そんでもって間違いなくそれが原因だから。アンタ小さい頃に『お姉ちゃんと結婚する!』って言ったらしいわね。前に秋穂さんから聞いたことあるわ」


「ん? 随分懐かしい話だな。改めてヒロインの1人が実の姉となったことに対して嬉しかったことがあって、その時に勢いで」


「……秋穂さん、最近外国のことなんか調べてなかった?」


「みたいだね。将来ボクと行ってみたいんだってさ。ただ、どうにもマイナーな国みたいで。何で観光地とかある国にしないんだろ?」


「(そりゃ近親結婚や同性結婚が認められてる国だからでしょ)」


「何か言った?」


「何でもないわよ。あ、もう1つ気になったことがあったわ」


 まだ気になることがあるのかよ。


「秋穂さんさ、本来よりも胸の大きさがワンカップ大きくなってないかしら? 今まで何度も会っていたから気付かなかったんだけど」


 何だそんなことか。

 サムズアップして答えてあげよう。


「健康管理とバストアップ体操勧めてみました」


「もう嫌だコイツ」




 残念ですがここで終わりです。


 一応の案としては。10年の暗躍の間に堅物巫女をアイドルにしちゃったり、優等生メガネをもう1人の転生者と一緒にオタク道に引きずり込んだり、事故で手がマヒした音楽家少女の事故を未然に防いだ結果なぜか惚れられてお姉さんとのバトルが勃発したりと考えていたのですが、これ以上書くとグダグダになりそうだったので、切りのいい所でバッサリ切ることにしました。

 後は学園に入ってから主人公との異能力バトルで勝っちゃたり、主人公を蚊帳の外においてヒロインとのイベントをこなしたりでしょうか? 考えるとやれることはたくさんありますね。


 ご愛読ありがとうございました。


 作者の連載作品、

 『アルビノ少女の異世界旅行記~私の旅は平穏無事にといかない~』

 もよかったら見てください。

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― 新着の感想 ―
先に長編を読んでこっちに飛んできた…
[一言] 暇なときに続編オナシャッス!
[良い点] 設定が凄く好みです! 文章もコミカルで読みやすくてとても良いです。 [一言] 連載をお待ちしております。
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