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【第一章】その5

「早く!早く!まだですか?!」

「ちょ、ちょっと待て…焦らせんな」

「お店の前にギャラリーが沢山集まって来てます。隠してるナヴィの方が恥ずかしいんですよ」

「ウッセー!私の方が恥ずかしいに決まってるだろ!!だいたいお前が教えてくれないから、こうなったんだろが!!」

「ナヴィもまさか二体もいると思ってませんでしたよ。石に成り済ますモンスターがいるのに、注意怠って座る方がいけないんですよ」

「スライムが石に化けること事態がおかしいわ!!」


うっかりスライムに座ってしまった私は今、街のブティックに居る。

あれから街まで全速力で走って、ナヴィの誘導の元ブティックに駆け込んだのだ。

マントはすでに全部溶けて無くなり、スカートと下着も殆ど溶けてしまって襤褸切れ状態になっている。おかげで私は半分お尻が出ている超ローライズを履いた魅惑のセクシーガールだ。

私がこんな女性を街中で見かけたら「ありがとうございました」って、ちゃんと礼を言うぞ。


「ミョーッ!どれでもいいじゃないですか!早くー!」

「無駄金使えないだろ…ちゃんと安いの選ばないと…」

こうして居る間にも溶けて下半身丸裸になりそうなギリギリの戦いを続けている。

ナヴィには私の腰辺りを飛び回ってもらい、他人の視線から守ってもらっているわけだ。

ショーウインドの外側には男が群がっており、宴会の場でも無いのに裸芸人になった気分だぞ。


「ヨシ!これに決めた!!」

「ミョーーー!早く試着室に飛び込んで下さい!限界域をすでに突破しています!!外のみなさーん!コッチ見ないでぇぇぇ!!」

「うぉしゃゃゃぁぁああ!!!」

私は黒のパンツタイプを選び、猛ダッシュで試着室に入った。

カーテンを閉めて下を見ると、すでに布地は跡形も無かった…

間に合った…かな?




「締めて1金貨と50銀貨になります」

「え?!そんなに高いの?計算間違ってない?」

店員さんに予想外の額を言われて戸惑った。

黒のパンツにアンダーショーツとマント。値札見て選んでたから、合計でちょうど1金貨のはずなんだが…

巨乳の店員さんの胸元ばかり見てたから、拝見料を上乗せされたか?

「消費税が五十パーセントなんですよ。ミョミョ」

「消費税タケーよ!てか、消費税有るのかよ?!」

「消費税も有りますし、入社したら所得税や年金も月々のお給料から引かれますよ」

「現実離れしたくて異世界ゲームやってんだからさぁ…そんな悲しい設定止めようよ…」

「〝大人のフェアリーランド〟ですから。ミョミョ」


ブティックを出て改めてこの世界の街並みを見渡した。

物凄く華やいで美しい。

ヨーロッパ調のレンガ造りの建物が優雅に建ち並び、建物のベランダには、必ずと言っていいほど花が飾って有る。

鉄の吊り看板、ガス灯、ベンチ、噴水に花壇、全てに見事な装飾が施されており気品が溢れている。

時折馬車が走る石畳の道も、きっちり舗装されてお洒落感を補足している。

街行く人も色鮮やかな衣装を纏った美男美女ばかりで、もうここでずっと暮らしても良いかなと思ったが、街の住人をよく見ると、耳の尖ったニンフや牙の生えた獣人が混ざっていて、ここが現実世界で無い事を再び実感して思い直した。

何よりも現実と違うのは、たまにペットのように連れているのが、犬や猫ではなく、ナヴィと同じような虫の妖精達だ。

飛び回るトンボやバッタの妖精達と会話しながら買い物や食事を楽しんでいる。

「あ~そういえば腹減った~。私達も何か食べてからギルドに行くか」

「そうですね。ナヴィ、ハンバーガーが食べたいです」

「待て!ひょっとしてお前の食事代も、私が払うのか?」

「当然ですよ。あいさんは〝フェアリーマスター〟の立場なんですから。ナヴィの生活費は全部マスターで有るあいさんが持たないとミョミョ」

「そんなの聞いて無いし…」

納得いかないが、ナヴィがいなけりゃ魔王はおろか、他のモンスター達にも勝てるかどうか分からんのだし、ここは聞き入れるしかないか。

近くのバーガーショップでハンバーガーとポテトに飲み物を二人分買ってオープンテラスのアンティークな椅子に腰をかけた。

二人分で計四銀貨使っちまった。フィッシュフライも付けたかったが、ここはガマン、ガマン。

これから武器購入とかの資金も要るし、HP回復の方法が食事なら、できるだけ節約して計画的に使わないと持ち金尽きてゲームオーバーなんてのは洒落にならないからな。


「このペースで金持つかな?ギルドに入社したら給料月末払いなんだろ?日払いバイトでは雇ってくれないのか?」

「一応バイト制度も有りますが、将来的なこと考えたら正社員になる方がいいです。バイトから正社員の途中採用だと扱いが悪くなります」

「モンスター退治なんだから結果が全ての実力主義なんだろ?まさか上司におべっか使って、成り上がらないといけないのか?」

「実力主義の会社でも人間関係は大事にしないと、将来的に困ると思います。家庭や老後のこともしっかり見据えないと…」

「ここゲームの中なんだろ?そんなこと考え無くてもいいだろうに。万が一失敗だと気付いてもリセットかければ………」

「どうしました?」

「いや…何でもない……」

現実世界でも同じ事してるような気がした。

果たして自分の夢の為に、人間関係は大事にしてたか…私は………

「あいさん…あいさん!」

「ん?!ああ…」

「大丈夫ですか?」

「あっ…いや、リセットかけたら現実世界に帰るのに、時間かかるよな。出来るだけリセットは避けないとな…」

「そうですね。死ぬような思いも避けたいですしね。それより冷めちゃうので食べましょう。いただきま~す!」

ナヴィは自分の顔の倍は有りそうなハンバーガーをハグしながら、「ハグハグ」言って食べはじめた。

私もハンバーガーを一口囓った。旨い。

ちゃんとソースや肉やチーズの味がする。

コーヒーも香り立つし、熱さもある。

「なぁナヴィ。ここはゲームの世界なのに、なんで味覚や嗅覚まであるんだ?絵や音が有るので視覚、聴覚はまだわかる。だがパソコンで味や香りを伝えるのは不可能だ。どうして私は五感全てを感じている?」

「おそらく魂が覚えているのです」

「魂が覚えている?」

「そうです。ハンバーガーを食べたことが有るならハンバーガーはこんな味、コーヒーはこんな香りと、魂の思い込みが伝えているんだと思います。例えば夢の中でコーヒーを飲んでも『このコーヒー、味も香りもしない』とは、思わないはずです。夢の中のコーヒーはコーヒーの味がしているんです。思い込みで…」

「思い込みか…そういえば熱くもない火鉢を触ったのに、火鉢は熱い物だという思い込みで火傷をすることが有るって、聞いたことあるな」

「プラシーボ効果ってご存じですか?成分が入って無いただのブドウ糖の塊を、お医者さんから薬だと言われて信じて飲んでたら病気が治る場合が有るそうです。科学でも何で治ったか分からない時が有るそうですよ。(たましい)が体に及ぼしてる影響はアタシ達が思っているよりずっと大きいのかも知れませんね」

「でも魂の存在は科学で立証されて無いからな…」

「実はすでに立証されているかも知れませんよ。知っているのが国や財界のトップの人達だけで、一般人がパニックにならないようシークレットにしてるのかも…」

「怖いこと言うなよ」

「ミョミョ!」


顔中ソースだらけにしたナヴィは、シトラスジュースも一気に飲み干すと満足げに「ふミョー」といいながら机に突っ伏した。HP満タンってとこか。

ここはゲームの中らしいが、空を見渡しても私やナヴィのHP表示のメーターは無く、どうやらすべてが感覚でいくしか無さそうだ。

敵の強さを表す数字や弱点を突くための属性も分からないから、そこはナヴィに聞くしかない。

もしかしたら武器屋に行ったら強さが分かる装置とか売ってるかも知れないが、絶対お高いだろう。

まず金が必要だ。幾ら有っても困らない。

どうやって手っ取り早く金を得るか…タダのアイテムを拾って売ることは出来ないのかな……


「「「ウオオオォォォーーー!!!」」」

思案してたら向こうの方で歓声が上がった。見ると時計台前の道端に人だかりが出来ている。

「あれ、何やってんだ?」

「あれは〝フェアリーファイト〟ですね。賭け事です」

「おっ?!ギャンブル有るのか?」

「〝大人のフェアリーランド〟ですからミョミョ」

「フェアリーファイトって何だ?」

「フェアリーマスターどうしがお互いの妖精を出し合って、術合戦をするんです。ストリートファイトの妖精版ですね。観客はどちらが勝つかを賭けます」

「面白そうじゃないか。私達はファイトする側にまわれるのか?」

「はい。参加費は三金貨で、勝てば五金貨貰えますし景品(アイテム)も複数貰えます。負けても景品(アイテム)一つだけは貰えます。ルールは先攻後攻を決めて、飛びながら交互に術を掛け合い、先に相手を地面に落とした方が勝ちです」

「なるほど。んで私達は主人公補正が掛かるから絶対勝つよな」

「絶対勝つかは分からないですよ。相手はランダムに選ばれますんで。もしカブトムシやスズメバチの妖精ならナヴィが負けるかも知れません。まぁでも、ナヴィも強い方なので勝つ確率はかなり高いです。ミョミョ」

「んー絶対じゃないのか…でも、ここは少しでも資金が欲しいからな、ナヴィを信じよう。ヨシ!お前に賭けた!頼んだぞナヴィ!」

「わかりました!頑張るミョー!!」

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