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閑話1 侍女は敬愛している

 私はハンナと申します。

 緩やかに波打つ栗色の髪に茶色の瞳、悪くもないが取り分けて美人という訳でもない地味な容姿の私であるが、公爵家に仕える身として、それなりの教養と礼儀作法、護衛の為の武術を体得し、十七歳である現在、プライレス公爵家御息女アイリスお嬢様のお世話役を任命されてから三年程の月日が経過した。


 お嬢様は奥様譲りの珍しくとても美しい紅い髪に旦那様譲りのターコイズブルーの宝石の様な瞳をされており、整った目鼻立ちは本当にお美しい。

 そんなお嬢様を私は生まれて半年位の赤子の頃よりお世話させて頂いている。


 お嬢様は赤子の頃から大人しい御方だった。

 そして、成長されたお嬢様は完璧だった。

 それはもう異様な程に完璧なのだ。普段からの動作や言葉遣い、知識の量も何処で得たのかという程で、靭やかな身のこなしは武術の心得の有る私から見ても只ならぬ何かを感じる。

 成長したと言ってもお嬢様は未だ三歳児である筈なのに、何処か哀愁すら漂わせる様は本当にこの世の物とは思えない神秘を感じさせていた。


 だが、何もかもが完璧で超越したお嬢様は何時も、まるで人形の様だ。

 表情はちゃんと動いている筈なのにその全てが作り物めいていて、偽物の様な…。


 そして、お嬢様は用事以外でご自分から誰かに声を掛けることはない。

 しかも、その用事という物も殆どがご自分一人でどうとでもして仕舞われるので途轍も無く少ないのだ。


 お嬢様はとても近寄り難く、誰も近寄らないでと他人との間に線を引いておられる様に思う。常に一人を望んでいる様な、人を心底嫌悪している様な…。

 …いや、恐れられている様にすら感じる。

 三歳の幼い子供がどうしてあんなにも複雑な表情をされるのか私には分からない。


 だが、お嬢様は人目が無くなった途端人が変わった様に、とても、とっても…面白い。


 …それと言うのも、お嬢様はどうやら変わり者みたいなのだ。何処に行ったのかと探して見ればどうやって登ったのか木の上で昼寝をしていたり、変な音が聞こえてくると思えば何処から手に入れたのか稽古用の剣を素振りしていたり、真夏の暑い日なんかは噴水で水遊びをしていたりと、もう、訳が分からない奇想天外な行動ばかりされる。しかも、本人はバレていないと思っておられる様子…。


 この前なんて、厨房でお嬢様自らお菓子を作っていたのだ。厨房は刃物や火など危険が多い上に、まず貴族という者は厨房に入る事自体余り良い事とされていないのだが、お嬢様を見つけた時には既に出来上がったお菓子を厨房の隅で頬張っておられたのだ。

 その姿はとてもとても、それはもうお可愛らしいもので、料理人達も口元を緩めながらお嬢様を見守っていた様だが、流石にきつくお叱りした。


 だが、皆お嬢様の奇行を止めようとはしない。というより、止められない。


 お嬢様は、ああやって一人で奇想天外な行動をしている時だけ、…凄く生き生きしておられるのだ。

 自分達の前では人形の様で隙のない雰囲気なのだが、一人好きな様に遊ぶお嬢様は歳相応に表情をころころと変えるので、とても可愛らしい。


 むしろ、それを離れた所から見守るのが屋敷に勤める皆の癒しだったりする訳だが…。


 でも、だから、厳しい奥様も気付いていながらお叱り出来ないのだろうと、私は思う。


 そして、今日のお嬢様は珍しく庭園の散歩をしている。


 今日は私も後ろから付き添って散歩のお供をさせて貰っていた。


 ……後方からのお嬢様見守り隊(空いた時間にお嬢様を離れた所から見守る事を憩いにする屋敷の使用人達)からの視線が痛い。背中にチクチクと凄く痛い。


「偶には、花の鑑賞も良いものね」


 鈴のように高く透き通った声音が耳を擽った。


 ……!?え、え?ええ!?

 お、お嬢様が用事以外で……!?!?


 後方からも驚愕の声が僅かに聞こえた。


 と、兎に角返事を返さなくてはっ!!


「はい、お嬢様」


 あああぁぁあっ!なんて素っ気ない返しをしてしまったの!!


 あぁ、でも…お嬢様から話しかけてくださるなんて!!


 なんて、幸福!!!

 私今日死んでもいいわ!!!!


「?

 何か言ったかしら」


 お嬢様は首をこてんと傾げた。


「……いいえ、お嬢様」


 …………。


  ああ!!今日もなんて可愛らしいのっ!!


 あまりの可愛さに悶えてしまう。我ながらかなり気持ち悪い。


 後方からも、お嬢様の可愛さの余り悶える声が聞こえてくる。


 ふと、お嬢様を見るとお嬢様は僅かに表情を曇らせていた。


「どうかなさいましたか?」

「何でもないわ」


 お嬢様は下を向いていて、その表情を伺うことは出来ないが、何となく暗い表情である事は理解出来た。


 やはり、誰かが傍に居てはお嬢様は心から楽しめないのだろうか…。


 厚かましいと分かってはいても、お嬢様が赤子の時よりお仕えする自分にまで御心を閉ざしている事実に胸を抉られた。

閲覧有難うございます!


感想をくださった方有難うございます!!

ですが、感想は基本返しません。申し訳ないです。

返答は出来ないですが、感想頂けてとても嬉しかったです!うきうきしながら読ませて頂きました!有難うございます!!

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