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5話 悪役令嬢はモフモフに出会う

 わたくし、アイリス・プライレスは三歳になりました。


 あの屈辱的な日々から解放され大概の事は自分で出来るまでには育ちましたわ。


 所で、やはりと言えば宜しいのか、わたくしがそれなりに成長した為、お母様は自室に籠る生活に戻ってしまわれたみたいですわ。

 けれど、出てきても以前の様にお叱りされることはありませんでしたわね。

 まぁ、当たり前と言えばそうよね。

 わたくしは伊達に十七年生きてきた訳では無いのですから。

 お母様の教育は一通り既に心得ておりますし、妃教育、武術、魔術、その他諸々、もう、お母様にお叱りを受ける所は無いと自負してもいいぐらいですわ。


 ああ、それから。お父様とはまだ生まれたばかりの時にほんの少しお会いしてからというもの顔を合わせておりませんわ。

 お兄様とは今世で全く接触なしよ。


 これも、分かりきってはいたけどやはり、今世も同じなのね。って感じね。

 別にもう、どうと思う事も無いのだけれど。

 わたくしはわたくしで一人楽しませて貰います。


 それよりわたくしはお母様のお叱りを受けないように上手い事好き勝手させてもらってますのよ。

 前世の切羽詰まっていた頃が嘘の様に気ままでそれなりに楽しく過ごしているわ。


 この前は厨房に忍び込んでお菓子を作りましたの。とても、美味しかったわ。料理人達は戸惑いつつも何も言ってこなかったわ。けど、侍女にはこっ酷く叱られましたの。流石にお母様にバレるかとヒヤヒヤとしましたけど、どうやらバレていないみたい。


 そして、今日はわたくし大人しく庭園でお散歩中なのよ。



「偶には花の鑑賞も良いものね」

「はい、お嬢様。――…お嬢様から話しかけてくださるなんて」

「?

 何か言ったかしら?」


 アイリスは侍女を見上げこてんと首傾げた。


「いいえ、お嬢様」


 アイリスは侍女の最低限の返事に思わず嘆息を漏らした。


「どうかなさいましたか?」

「何でもないわ」


 侍女は、アイリスを気遣わしげに見つめているが、下を向いているアイリスが気付くことはない。


 はぁ。やっぱり話し掛けるなんて無駄な事をしまたわ。


 アイリスは自由気侭に日々を過ごしていたが、それは飽くまでも一人で、であった。

 アイリスは好きな様にやりたい様にと、奇想天外な行動を起こしては一人ではしゃいでいた。

 だが、アイリスは母や使用人と言った人物と接する時には一人遊んでいた時の様な笑みや緩みを消し、人形の様な作り物めいた表情に変わって仕舞うのだった。




「くぅぅん」


 それはアイリス達が庭園の奥部まで入った時だった。


「くぅぅ」

「?」


 何かいるのかしら。


 アイリスは音の鳴る方へと足を動かす。

 が、侍女の腕がアイリスの行く手を塞いだ。


「お嬢様、何が居るやも分かりません。

 ここは私が見て参りますので、此処で暫しお待ちを」

「…分かったわ」


 アイリスが首を縦に振ったのを確認した侍女は音の鳴った方へと姿を消した。


 うー。

 ずるいわ。わたくしも気になるじゃない。


 ………。


 …………ニヤリ


 アイリスは不敵に口角を釣り上げた。


 気になるのだから、行くしかないわね!


 アイリスは3歳児の身体でとことこと早歩きをして侍女の進んだ道を辿った。


 次第に侍女の後ろ姿が見え始めた。

 侍女は屈んで何かを見つめている。


 一体何をしているのかしら?


 アイリスは侍女の横からひょっこりとその可愛らしい顔を覗かせた。


「!?

 ――お、お嬢様!」

「これは…」


 アイリスの目の前に転がるのはモフモフの物体。いや、正確には怪我を負い弱りきった仔犬だった。


 侍女は至近距離に迫っまたアイリスに身悶えていたが直ぐに我に返り怪我を負い苦しむ仔犬に目を向け眉尻を下げた。


「この子はもう長くないと思います」

「そうかしら?」


 アイリスは仔犬を凝視し、さらりと返答した。そして、仔犬の前に屈み込むと傷口に手を翳した。


 ――確かに、怪我をしてから時間が立ちすぎているみたいだし、普通ならもう手遅れでしょうけど……。


 アイリスの手の平から蒼白の光が放たれる。

 光は仔犬を包み込んだ。次第に光は仔犬の体内に溶け込む様に収縮して消滅した。


「わんっ!!」


 先程まで虫の息であった仔犬の身体からは傷が綺麗さっぱり消えた。

 仔犬は力一杯に起き上がると溌剌と鳴いた。


 アイリスは前世に医学や薬学、治癒魔法も習得していた。その為、仔犬を一目見て直ぐに治癒魔法で治せる傷であると判断したのだ。


 仔犬はアイリスの手に自らの額をスリスリと擦り寄せると、アイリスの手をペロペロと舐め始めた。


 ………。


 …………。


「……な、な、なんて、なんて可愛いの!!」


 アイリスは仔犬のあまりの可愛さに思わず声を出して叫んだ。


 アイリス・プライレス(三歳)がモフモフの虜になった瞬間であった。

閲覧有難うございます!


沢山のブックマークやポイント有難うございます!!自分が思っていた以上に評価して頂いて嬉しい限りです!これを励みにこれからもこつこつと書かせて頂きます。

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