2話 悪役令嬢は失敗する
アイリス・プライレスは公爵家の長女としてこの世に生を受けた。
アイリスはとても美しい少女に育った。母親譲りの鮮血色の髪に、父親譲りのターコイズブルーの瞳はまさに宝石のようだった。その美しい色味はアイリスの美貌を神秘的な物にした。
そんなアイリスはその幼い顔、体には不釣り合いな程に大人びていた。アイリスは歳相応に笑うことも無くただただ、人形の様だった。
それもそのはず。彼女は孤独だった。
母は社交界では美しい所作とその容姿からとても憧れられる夫人であったが、屋敷ではほとんど自室に居ることが多く、出てきたと思えば子供を厳しく叱りつけ、笑いかけたり用事以外で会話をする事はまずなかった。
父は国の宰相を務めており、屋敷には夜遅くに帰り朝早くに出て行くため、家族との交流は無く、それは勿論アイリスにも同じであった。
兄は常に父に認めて貰うためにと奮闘していた。その為、アイリスには目もくれず、会話する事もなかった。
使用人達も皆事務的でアイリスと接する時も仕事として割り切られておりそこに他の感情はなかった。
故にアイリスは愛に飢えた。
誰からも構われず、愛されず、アイリス自身を見てもらえない。それはとても辛く寂しいものであった。
だが、アイリスは自身の感情を押し殺した。それは母からの教えにそうあったからだ。
我儘を言えばきっと叱られる。
そんな日々がアイリスを人形の様にしてしまったのだろう。
しかし、アイリスが七歳の時。全てが変わった。
その日アイリスは父がいつの間にか決めていた婚約者の第二王子、アーサー・ネフロンドとの顔合わせの為王宮へと訪れた。
アイリスは自分の知らぬところで決められた婚約に意見することも無く受け入れた。
婚約者の第二王子に興味は無かったが、父の機嫌を損ねるのが嫌だったのだ。
だが、アーサーと会いその考えは消え去った。
アーサーはアイリスをしっかりと見て微笑んでくれたのだ。
アイリスは胸を飛び跳ねさせた。
笑いかけてくれた。
その事実が純粋に凄く嬉しかったのだ。
それからも、アーサーは会う度アイリスに良く接してくれた。
アーサーはプラチナブランドの髪に澄んだ海の様に綺麗な碧眼で、周りからも人望が厚く社交的で、まさに御伽噺の王子様のような御方だった。
第一王子は生まれ付き持病持ちで病臥していたためアーサーが次代の王になる事は殆ど確定していた。
そんなアーサーの婚約者である事を何度も喜び誇りに思った。
そして、将来アーサーの役に立つためにと妃教育、武術、魔術を極め、ジャンル問わず様々な知識を取り込み、全て一人でこなせるように迷惑をかけないようにと血反吐を吐くような努力を重ねに重ねた。
とても辛く苦しい事ばかりだったがアーサーの為と思えばアイリスは何だって出来る気がした。
だが、きっと運命は決まっていたのだろう。
アイリスは幼い頃からの母の教育や妃教育によりアーサーに甘えることをせず、常にお淑やかに、自分から話しかけることをせず、返事も当たり障りなく返していた。
そして、アーサーの為にと常に勉学等に励んでいたアイリスはアーサーと会う時間も僅かばかりだった。
何もかもが駄目だったのだ。
ネフロンド王国最高位の学園、ネフロンド王立魔法学園に入ってからもアイリスは様々な事を学び習得するためにと努力を重ねていた。
気づいた時には既に遅かった。
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