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12話 悪役令嬢は指導する(2)

 ネフロンド王国では毎年六歳になる国民・王族が教会で行われる“魔力測定”に出なければならない。平民は指定された各地の教会で、王族・貴族は大神殿で行われる。


 “魔力測定”が行われる教会には、測定用の透明な魔石がある。その魔石に触れると魔力の量や強さによって色が変化する。そして、変化した色によってそれぞれランクが決められる。


 黒色“S”、赤色“A”、橙色“B”、黄色“C”、変化なし(無色)“魔力なし”


 と言うように、黒になるに連れて魔力値が高くなる。


 ネフロンド王国ではこのランクを重視している。

 王族は代々“S”、“A”の者が殆どで、貴族は爵位が上がるにつれてランクも上がる傾向にある。平民は大体が“C”で、“魔力なし”は珍しい。


 これらは、血筋が強く関係している為この例が滅多に覆る事は無いのだが、ごく希に平民の中から高ランクの者が産まれてくる事がある。


 そう言った、高ランクの魔力を持つ平民は子爵家もしくは男爵家と言った下位の貴族の養子に迎えられ、高ランクの魔力持ちとして持ち合わせておくべき教養や高ランクの魔力の扱い方等を貴族として身に付ける。


 ちなみに、伯爵以上の上位の貴族の養子になる事はない。伯爵以上の家の者に平民の血が混ざるのは好ましくないと言う考えからである。




 _______________



「そう言えば、お兄様は六歳ですからもう“魔力測定”に行かれたのですよね。結果はどうだったのですか?」


 前世のお兄様であれば、“A”だったはずですわ。


 つい先程のアイリスの心無い一言で不機嫌にそっぽを向いていたセドリックはアイリスの真面目な質問に、気持ちを切り替える。


「ん?“A”だ」


 やはり、今世のお兄様も“A”なのね。

 それなら先程の『火球』の不発の原因は…。


「不発の原因が分かりましたわ」

「…!!、本当か!」


 セドリックは僅かに目を輝かせ、期待の眼差しをアイリスに向けた。


「ええ。簡単に言いますと、お兄様は力み過ぎているのですわ」

「……力み、過ぎ?」


 セドリックはアイリスの拍子抜けた返答に目を丸くした。


「はい、力み過ぎです。

 お兄様は“A”ですから、多大な魔力を持っていますわ。そして、『火球』は魔力消費の少ない初歩的な魔法です。

 そんな初歩的な魔法の発動にお兄様は高ランクの魔力を物凄い勢いで大量に手の平に集めたのです。

 強い魔力が急激に集められた事によって『火球』は不発に終わり、一箇所に集められたままの魔力がその場で爆発を起こしたのです。

 そして、煙となった魔力が手の平から押し出されてきたのです」

「そんな事になっていたのか…。

 …ん?だが、何でアイリスがそんな事まで分かるんだ?」


 セドリックは怪訝な面持ちで首を傾げた。


「……この前読んだ魔法の本にその様な事が書いていましたわ」


 本当は、前世のわたくしの経験から知っていたことですけれど…。


「そうなのか…?」


 セドリックは未だに怪訝な面持ちのまま顎に手を添えて何かを考え出した。


「ま、まあ、兎に角ですわ!

 お兄様、今度はわたくしの指示に従って、もう一度『火球』をしてみて下さいませ」


 アイリスに話しかけられ、思考を遮られたセドリックはアイリスの提案に「分かった」と力強く頷き、返事をした。


「ではまず、身体の力を抜き、ゆっくりと呼吸を繰り返して下さい。

 落ち着いてみれば、次第に身体を巡る魔力の流れが感じ取れてきますわ」


 セドリックはその場でゆっくりと呼吸をした。しばらくの間、静かに呼吸を繰り返してから、目を丸くさせてアイリスを見た。


「…本当だ。

 全身を魔力が流れているのが分かる。

 今までこんなの分からなかったのに、何故…」


 セドリックは今度は自身の身体をまじまじと見つめた。


「簡単ですわ。お兄様は魔法を使う時、気持ちが昂っていましたのよ。そんな状態では魔力の流れは分かりません。

 魔法を使う時は、必ず冷静が一番なのですわ。


 それでは続けますわ。もう一度両腕を前に出して下さい。何度も言いますが、落ち着いたままで、ですよ」


 セドリックは頷くと、アイリスの言葉通り忠実に両腕を前へと真っ直ぐ伸ばした


「ここからが、大事ですわ。

『火球』を出そうと身体中の魔力を手の平に集めるのでは無く、元から手の平に流れている魔力から少しの魔力を手の平の外に流し出す様に両手の平の前に魔力の玉を作り出すのです。そして、その魔力の玉が炎に変わるイメージを頭で浮かべ、それを前に押し出す。そうすれば、力を入れずとも自然と『火球』を放てる筈ですわ。


 ああそれと、炎のイメージは出来るだけ鮮明にして下さい。色や温度、どんな風に燃えているか、どんな風に飛んで行くのかとか細かく想像すればする程強固な魔法に仕上がりますわ」


 アイリスの説明を聞き終わったセドリックは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をすると、「よし」と小さく意気込み、目前の木に目を向けた。




 ボシュッ!!


 セドリックの手の平から、飛び出てきた炎の球は大きく燃え上がり辺りの温度を上昇させた。目覚しい速さで一直線に目の前の木へと飛んで行く。


 すると、瞬時にアイリスはセドリックの放った火球に片手を向けると、大量の水を降り注いだ。火球はジュウッと大きな音を立てて瞬く間に消滅してしまった。


 「お兄様、おめでとうございます。立派な『火球』でしたわ」


 アイリスはぱちぱちと手を鳴らしセドリックに拍手を送る。が、セドリックは先程まで火球が存在した場所を呆然と見つめていた。


「……お兄様?」


 ……あれ、もしかして、初めて出来た『火球』を消された事怒ってますの?


 うーん、流石に不味かったかしら…。


「…お兄様、『火球』を勝手に消してしまってごめんなさい。

 あのままでは、山火事になってしまうかもしれなかったので…」


 わたくしが居るからそんな事起きる前に対処出来ますけど、木に燃え跡なんて有れば使用人にバレる可能性が無きにしも非ずですもの。


 アイリスは少しの罪悪感を覚えつつセドリックの様子を窺っていると、突然、セドリックはアイリスの顔を凝視しだした。


 な、なんですの。


「…お兄さ…きゃっ!!」


 アイリスは思わず悲鳴を上げた。

 先程までアイリスの顔を凝視していたセドリックが今度はアイリスを強く抱き締めたからだ。


「お、お、お兄様何を「出来た!!出来た!!」」


 狼狽するアイリスの言葉を遮ったセドリックは無邪気な笑みを浮かべていた。


「アイリス!お前のお陰で出来たぞっ!!」


 つい先程までは、突然人に抱き締められ頭を真っ白にしていたアイリスだったが、セドリックの感極まった声音と溢れんばかりの笑顔に不意に心が暖まるのを感じた。


 ああ、わたくしも誰かのお役に立てたのですね…。


 アイリスは前世の頃よりも余りに可愛らしく小さな兄の頭をその小さな手でそっと撫でた。


「よく出来ました。お兄様」


 そう言ったアイリスの声音は至極柔らかなものであった。

閲覧有難うございます。


中々更新出来ずに申し訳ございません。

かなり間が空いてしまったにも関わらず読んで頂き感謝の限りです。

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