2 店長さんは救済者ではありません
「ドアを壊したのお前か?」
「ええ。壊せないかと思ったら簡単に壊せちゃって、まさかあずきバーよりも苦戦しないとは思わなかったわね」
「なおのこと、名前を聞きたいが、そんなにも名を名乗りたくないのか?」
「ごめんなさいね。私目立つのだけは嫌いなのよ。目立つと後々めどいし、名前は教えられないわね」
「聞いた俺がばかだった。なら、すぐに消す」
店長は謝りつつ理由を話し、ヨグロはならばと話す。
彼女は刀での斬撃を繰り出しつつ、店長は回避に専念していた。
この状況、変えるように先に動いたのはヨグロであった。
彼女は刀を正面に構える。
「受けよ。無尽の獄刀」
「あら、当たると厄介なことになるかしら?」
ヨグロから攻撃を宣言し、店長は厄介と呟く。
放った刀の連続の突き、それを店長は何の苦も無く回避していた。
その回避のすべにアンクルは驚きの声を出そうとしていた。
「嘘だろ? 俺でもあそこまで回避できないのに……無尽の獄刀って突きが瞬時に二回襲ってくることもあるのに、全部回避してる……」
アンクルはこの光景に驚く。
なにせ、あの突きは腕に当たった瞬間に別の腕に同時に突きを当ててくるほど早いのだ。
その二回同時の突きは時々混ざってくる厄介性もあって、回避が難しい。
そのためにアンクル自身、あの突きを一回も完全回避が出来ないでいた。
無尽の獄刀を目の前の敵が回避している光景は驚くしかない。
対処されている状況だが、ヨグロは顔色を変えないで攻撃を続け、言葉を出そうとする。
「これを完全回避するとは、やるな」
「あらあら、これくらい店の忙しさに比べれば、休憩するのと同じくらい楽よ」
「言うな。この刃は斬突一点に特化していることを身をもって知ることになるぞ」
「あらあら」
ヨグロの忠告に店長は余裕の笑顔で言葉を返す。
その後に彼女は突きを再度繰り出す、先ほどよりも倍以上早い突きを。
その時だ。
金属と金属がぶつかる音。
いや、一つしか金属はないはずだ。
何せ当たったのは刃の先端の店長の胴であるのだから。
「何故だ? 当たったはずだが、何故刃は弾かれた?」
「あらあら、ごめんなさい。今の私、肉体が金属以上に固いのよ。刃物相手はこうやって対処するたちなの」
「な? お前は救済者なのか? 腕輪もしていないのに、この力とは」
「救済者? 私を呼んだ神様は救済者って話一度もしてないわよ」
ヨグロの疑問に、聞かない言葉と返す店長。
彼女の刀は切れ味がすごいのだ、店長が壊したドアもきれいに切れるほどに。
「斬突が効かないのであれば、俺はこれで行く」
「あらあら、手品で子供だましをするの? 面白そうなのは歓迎よ」
ヨグロは後ろに飛んで別の手段に移り、店長は子供だましかと煽り言葉を出す。
煽り言葉にヨグロは耳を貸さずに、もう一本の短い刀を抜いて指で一叩きした。
すると、その刀は炸裂音を出して電気へと姿を変える。
その電気は大きくなって、龍の姿をかたどった。
ヨグロのもう一つの攻撃方法だ。
「物理が効かないのならば、別の攻撃手段だ。この刃は俺の意思で素早く動くほどの」
ヨグロの言葉の途中。
その時にだ
電気は鈍い音を立てて、顔の部分を中心に弾ける。
その後に電気は消失した。
ヨグロはその様を無言で見ていたのだった。
表情は変わらずだが、もしかすると言葉が出なかったのか。
「あらあら、ごめんなさい。私の拳は別に遠くでも届くのよ」
「拳一つで消失だと? どんな拳圧なのだ?」
「あらあら、ごめんなさい。前いた世界の雷と違いがなさそうだったし、つい試してみちゃったの。まさか、前いた世界と同じように弾いちゃうなんて思わなかったわ、許して」
ヨグロの浮かべた疑問に店長は解答のような言葉で応じる。
アンクルも実際、あの電気の龍が一瞬で消失するとは思わなかった。
もしかすると、今の自分は口が塞がっていないかもしれない。
「ならば、これだ。この攻撃、予想は出来るだろうが」
ヨグロは刀を店長に構えて、言葉を向ける。
その刀で突きを何度も繰り出し、徐々に突きの速度を上げていく。
突きの速度と手数を事前に上げた攻撃だ。
続けてヨグロは告げる。
「お前自身がかわす未来は見えるか?」
そのヨグロの言葉と共に店長へと駆けて行った。
今の突きの威力も速度共に最初の突きとは大違い。
この攻撃を受ければ、店長と言えどひとたまりもないだろう。
突きを連続で出すヨグロに店長はこう告げる。
「あらあら、ごめんなさい。私もかわす未来が見えないわ」
その場を動かずに店長は話し、拳を引く。
後にこうも店長は告げる。
「ま、かわさずに返り討ちにしちゃうけど」
店長は向かってくるヨグロに対して、拳を向ける。
「FPMP!」
店長の拳は瞬時に五発飛んで行き、ヨグロに五発命中する。
回避できなかった彼女は奥の壁へと飛ばされてしまった。
壁にぶつかった彼女はずれるように床へと落ちていき、当たるまでに握っていた刀も床へと刺さったのだ。
アンクルの幹部であったヨグロの敗北。
無意識の言葉が、自身の口から漏れるように出てしまう。
「ヨグロがあっさり……これ、やばいやつだ」




