1 魔王城乱入、日帰り旅行風味
日本の国の果ての場所にある魔王の城。
ここは魔王城と呼ばれる城の内部。
そこで魔人の男が豪華な椅子に座っていた。
窓は暗闇に染まっていて、雷鳴も外から響いた。
室内は豪勢で高価なものも飾られていたが、都神の像が砕け散ってもいた。
その像は破片が散っていて、誰を模ったのか分からない。
「では、ゲゲンよ。報告を」
大きくはないが、威圧感のある男が呼びかける。
この男は魔人にしてモンスターの頂点の位置に値する魔王、アンクルである。
自身に対して、骸骨の姿で鎧をまとったモンスターが膝を折った。
「はっ。まず、救済者に打った作戦の現状を。ニイムラの方ですが、ミウナが手籠めにしている状況が続き、ニイムラの子を出産しました」
「ほう、めでたいな。ちなみに赤子の性別は?」
「男の子です」
「ふふふ、救済者の遺伝子を持つ息子か。人間かどうかはさておき、将来的にわが軍の配下としても置きたいものだな」
ゲゲンの報告にアンクルは将来を見つつ言葉を話す。
力を持った救済者の息子であれば、ミウナの教育で魔王軍の戦力としても入れることは出来よう。
「それと他二人の救済者ですが、そちらはサキュバスのヨツミとラミアのネーレスによって手籠めにされています」
「そちらも順調そうだな。ヨツミもネーレスも、その内救済者の子供も宿してもらいたいものだな。力があるなら性別も種族も問わない」
ゲゲンからの報告にアンクルは期待を寄せる。
救済者の子供というだけで戦力としても見込める可能性もある。
魔王の幹部としても招いてもいいくらいにだ。
その報告の傍ら、角を生やした老婆が静かに笑い、言葉を出そうとする。
「ふぃふぃふぃ、ワシの作戦がこうもうまくいくとはのう。あっけなさ過ぎて驚くわい」
角を生やした老婆、魔導玄老師が語る。
この魔導玄老師は前魔王ダマンサネムにも仕えていたモンスターの魔術師で、救済者対策の作戦も担当した。
「さて、邪魔な救済者も現れない……んだよな玄老師」
「はい。現れたとしても残っているのはエルラだけ。たかが知れている力では、恐れるに至りませぬ」
「なら、しばらく救済者は恐れなくてもいいな」
玄老師の話にアンクルは安心する。
主要四都市の騎士も魔王の戦力で押さえつけている現状だ。
他の戦力はこの世界で魔王の存在を脅かす者は救済者のみ。
現状だけだが、魔王の戦力はこの国で頂点となった。
背後の窓へと体を向けてアンクルは語りを続ける。
「我の目標もここまで進んだか……」
「ふぃふぃふぃ、そうですよ。この国にモンスターたちの楽園を作る目標もここまで来ました」
「そうだな。人間以下の存在として扱われてモンスターでも苦しむことない楽園……そして、ぞんざいに扱ってきた人間をモンスター以下の存在として扱う楽園が……ここまで来た……」
玄老師の肯定にアンクルは安心を覚える。
自身も魔人で人間に苦しめられた存在。
だからこそ、魔王となってモンスターの楽園を作らねばならない。
その目標が大方達成したのである。
それが理由で安心があったのだ。
アンクルは振り返って口を開く。
「では、ゲゲンは現状維持に努め、ヨグロは侵攻を進めよ!」
アンクルはゲゲンとヨグロに命令を下す。
ゲゲンは頭を下げ、ヨグロも同時に頭を下げる。
そのヨグロとは肌の青い女性で刀を二本背負った女性モンスターである。
「「かしこまりました」」
ゲゲンとヨグロの受け入れる声が響く。
「あとは各自行動に移るように」
「では、私から先に出ます」
アンクルの指示にゲゲンは移動を始める。
先に部屋から出ようと彼は扉に近づく。
その時だ。
轟音がなって、扉が破片を散らしたのは。
「え? うっそ……」
そう言いつつ、避けられなかったゲゲンは扉の破片を受けて飛ばされる。
その時に彼の骨は散っていき、頭蓋骨は床へとぶつかる。
轟音が落ち着き、静寂の後にアンクルが声を出す。
「うっそお!? あのドアって城の中で一番固い材質でしょ? 簡単に壊されたよ! ねえ?」
「落ち着きください、魔王様。ドアが壊れただけですし、ゲゲンもしばらくすれば元に戻ります」
アンクルのうろたえた声に魔導玄老師はなだめるよう言葉をかける。
その言葉にすべきことを思い出す。
「普通、失礼しますって入ってくるでしょ!? ……じゃなかった、壊したやつを捕らえろ! ヨグロ!」
「お任せを」
アンクルの指示にヨグロは実行に移す。
彼女はドアにいる何かに向けて駆けていき、背中の刀を振るう。
その背中の刀はヨグロの体の大きさ以上にある刀である。
その攻撃が終わった後にひと時の静寂。
ヨグロは刀を持ったまま後ろに一飛びをした。
「何者だ? 名を名乗れ」
「え? 私に名乗れって? 名前を名乗るのはあんまりしたくないのだけど」
ヨグロの呼びかけに女性は抵抗を覚える。
女性がドアを壊したとみていいだろう。
「名乗れないならここで果てよ」
「しょうがないかしら。じゃあ、私の名前だけど……」
「もういい、果てよ」
女性が渋る様子を見せたせいか、ヨグロは攻撃に再度移る。
彼女は手に持った刀を女性に振るった。
しかしだ。
「私はメイプルムーンの店長よ。店員が元の世界に帰れないから、一日で魔王を倒すことにしたの」
女性は名乗る。
二本の指だけで刀ごと斬撃を止めて、だ。
その行動にアンクルから声が出てしまう。
「どうしよ! やべえ奴が来た!」
アンクルからあまりの強敵の強襲に戸惑い轟きの声が挙がる。




