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17 旅は終わる

「柄池君、あの暗黒騎士の仕業だったのよ、この世界を改変したの」


 エルラからの告白を聞く柄池。


「ということは、俺達のやっていたことも目標達成と?」


 柄池は言葉を返す。


「ええ、そうよ」


「ということは……俺たちもこれで元の世界に帰れると?」


「ええ、本当にありがとうね」


 柄池からの確認にエルラは肯定と礼を言う。


 すると、何かが抜けたような感覚を覚えた。

 解放感からか。


 力が抜けたように床に腰を下ろすと、床に仰向けになった。


「そっか、これで終わりか……長かったような短かったような」


 柄池はこう呟いた。


 まだ、旅が続くと内心では思っていた。

 そのつもりで暗黒騎士も倒したのだ。


 癒されている中でも次はどうすればいいかとも考えてもいた。

 これからまだいろいろなこともあるだろうと思っていたのだ。


 その気持ちがあって、急な終着点への到達。

 今の自身の気持ちは混沌としていて、何とも言えなかった。


「本当に、本当にお疲れ様」


「その、こっちこそ、この世界に連れてきてくれてありがとうございます。いろいろなことが起きて楽しかったです」


 エルラからのねぎらいの言葉に、柄池は礼を返す。


「この世界も改変の結果、生まれてしまったけど、あとは私たち都神の問題だからね」


「そういえば、この世界はどうするつもりですか?」


「柄池君達の世界の300年後が正常になるよう戻すけど、今の世界も残して、正常に戻すこともできるはずだから。都神は四人いるし、こっちで何とかするわよ。それに都神は日本だけでなく他の国にもいるからね」


「そうですか。さすがにこの世界が消えてしまうのは寂しかったので、そこが聞けて良かったです」


 エルラからの後の話に柄池は安心を言葉にした。


 ここからは、柄池では大きすぎることであるため、都神に任せるべきであろう。

 自身が介入することでもなければ、介入するにも大きすぎる出来事であるからだ。


 気持ちの整理がついた柄池は上体を起こして、エルラからの話を聞く。


「あとは柄池君と愛川ちゃんを元の世界へ返すことだけになったけど、何か思い入れはある?」


 エルラからの問い。

 思い入れはあるかと聞かれると、何かあっただろうか。

 何も言わずに帰るのは確かに悪い気もする。


 少し考えた後に柄池はこう言葉に出した。


「思い入れは、ないですね。世話になった人にお礼を言っておくくらいです」


「あら、意外ね」


「自分でもそう思います。あまりこの世界への影響を出さないようにしましたので、思い入れがない方がかえっていいと思います」


「そういうことなのね。だったら、挨拶をしてから元の世界へと返すから」


 柄池からの話にエルラは理解を話した。

 会話の中である人物を思い出す。


「ロカリアさんも……あんなに早く帰るとは思わなかったけど、逆に早めに帰った方がいいだろうね。俺のことを諦めてくれるから」


 柄池の思い出したことはロカリアのことだ。


 あんなことを言って、もう帰るというのも酷な話かもしれない。

 が、長い付き合いがあった方が、逆に苦しめることになると考えれば、このまま帰る方が彼女のためにもなるだろう。

 柄池を諦めて、別の人と恋愛をするためにも。


 他にもライオロスのことも思い出す。

 ただ、カイゼルでもかなわなかった相手をああして撃破に追い込めたことは、強くなったとも言えるのかもしれない。

 この件については何とも言えなかった。


「それじゃあ、愛川ちゃんにも伝えておいで、もう目的は果たしたと」


「分かりました、では伝えてきます」


 エルラからの話に柄池は理解を示して、背後を向ける。

 入口の方へと向けて、愛川にも伝えようと走った。


 するとだ。


 エルラが寄ってきて、こちらに抱きついて来た。


「ありがとね」


 エルラからのお礼。

 その声は都神という立場ではない様に感じた。

 人としての素が出ていて、まるで、親しい人からのお礼に聞こえる。


「え……?」


「一分だけ、このまま……」


「……」


 エルラからの願いに柄池は無言でいた。


 柄池は何もしなかった。

 腕の力は彼女の方へと引き込む強さがさらに増す。

 彼女の表情は分からない。

 だが、増した力が別れを惜しむための物だったとは理解できた。


 一分経った後エルラは腕を離して、こちらを開放する。


「ごめんなさいね、わがまましちゃって」


「あ、いえ、迷惑でもないので。これくらい」


 エルラの謝罪に柄池は問題ないと語る。

 こちらが彼女の方へと向くと、彼女は少し考えた後に言葉を出そうとする。


「……もし、また呼ぶようなことがあったら……また、柄池君を呼んでもいい?」


「ええ、困っているならどうぞ。これでもまだ、救済者のつもりで頑張るつもりですからね。元の世界でもやることは変わりませんので」


 エルラの質問に柄池は肯定の意で答える。


 元の世界へ行っても今の世界でやっていたことは変わりない。

 救済者としての救済業も元の世界で続けるつもりだ。

 その理由があって、救済者としてまた呼ばれるのも問題はない。


「ふふふ、それは頼もしいわね。それじゃあ、そろそろ愛川さんにも声をかけに行ってあげて」


「はい、分かりました。では改めて、愛川さんに伝えに行ってきます」


 エルラからの話に、柄池は入口へと向き直って移動を再開した。

 部屋を出て、高台に立つ愛川へと柄池は声をかける。


「愛川さん! 今回の目的達成しちゃったって! もう、元の世界に変えれるんだって!」


「おお! やったね! これで私たちも……ってもう帰れるの!?」


「そうだよ!」


「ええ、せっかく私くノ一の職に就いたのに……まあ、帰れるならいいか!」


 柄池からの報告に対して、愛川は驚きと名残惜しさと切り替えの言葉で返した。


 こうして、柄池と愛川は世話になった人たちに挨拶へと行った。

 そして、日にちは過ぎて柄池達は元の世界へと帰っていくのであった。

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