16 救済者は今?
敗北したテイガは連行され、柄池はカイゼルの部下に連れられて水の神殿へと向かう。
そこでエルラの力で傷を治してもらった。
今、柄池は彼女と会った部屋にいた。
「すごい。あれほどがたが来ていた体が、こんなにも軽い」
柄池は体を動かして、軽さに対して驚きの言葉を出す。
まるで背負った人が急にどけたかのような解放感だ。
「力は弱ったと言っても、これくらいは可能よ」
「本当に助かりました。ありがとうございます」
エルラは言葉と共に指で円を描き、柄池は回復の礼を言う。
「いいのよ。あれだけのことをやってくれたから当然よ」
「それと、あの時、聞きそびれたことも後で聞きたいのですがいいですか?」
「そうね。質問していいわよ。飲み物とか飲みつつ、気楽に話していいから」
「聞きたいことですが、まず他の救済者についてです」
エルラの受け入れる声に柄池は他の救済者のことを聞き出す。
彼女は湧き出る水へと手を伸ばすと、お茶の入った湯呑を取り出した。
「そうね、話さないとね。救済者って基本は都心の私たちが呼び出すのだけど、柄池君達を呼び出す前に他の三人の都神も救済者を呼び出していたのよ」
「その人たちって今は何をしているのでしょう?」
「えっとね、宮夜が呼んだニイムラって子はサキュバスに骨抜きにされたわ」
「……え?」
「サキュバスの虜にされて、もう救済者の勤めへのやる気を無くしたって」
柄池はニイムラの件で驚き、エルラはニイムラの現状を語る。
すると、奥の吹き出た水から宮夜が顔を出す。
「そうよ。あいつは魔王からのハニートラップにはまって救済者の役目を放棄したのよ! 今では行方をくらませて私達でも分からない状況よ!」
「まあまあ、落ち着きましょ」
宮夜の怒りの声に、エルラからのなだめが入る。
ニイムラがあんなことをすれば、宮夜からのドロップも気持ちが分かる。
「じゃ、じゃあ、他の救済者は? その人たちならうまくやれるんじゃ……」
「それがね。他の都神の二人も男の子の救済者を呼んだのだけど、その子たちも堕とされちゃって……」
「ええ……その人達もサキュバスに?」
「あ、一人はサキュバスだけど、もう一人はラミアに堕とされちゃったって」
「ラミア……あの、下半身が蛇の?」
「サキュバスに耐性のある男の子をって三人目に選んだのだけど、まさかラミアのような子がタイプとは思わなかったわ」
柄池は話に驚き、エルラは救済者の話をしてから、一つため息を出す。
「そ、そうだったのですか……」
柄池は唖然と理解を言葉にした。
サキュバスの虜になることは一応わかるが、ラミアの虜になってしまった救済者もいるとは思いもしなかった。
「今この世界にいる他の救済者はこれで以上ね。この三人がダメになったから、私は柄池君と愛川ちゃんを呼んだわけ」
「そうだったのですか。分かりました」
「ただ、呼び出す前に私たちも知らない神様が救済者でもない人を呼び出して、魔王を引きこもらせるなんて思わなかったけど……」
「ああ、そういえば……その魔王を倒したであろう人って、どんな人か分かります?」
エルラからの話を聞いて、柄池は新たな疑問を言葉に出した。
魔王を倒したと思われる人も気にはなるからだ。
「都神の誰も分からないわ。でも、呼び出した神様はこの世界の神でもなくて、私よりも力が弱いみたいよ」
「じゃあ、都神のように呼び出した人に力を与えるってことはその神様に無理なんじゃ?」
「そうね。力を与えられないのに、良くここまでできたわよね」
柄池からの疑問にエルラはお茶を飲みつつ頷く。
それと柄池は思い出す。
テイガが持っていた箱を。
「あと、一つ気になったのですが、この箱って何でしょうか? 暗黒騎士が持っていたもののようで、カイゼルさんが渡してくれました」
「ん? 何かしら?」
柄池からの話にエルラは答える。
貰った箱をこちらが彼女に渡すと、彼女は箱の周囲を見ていた。
しばらく見ていた後にエルラの顔は神妙になる。
「驚いたわね……まさか彼だったなんて」
「それはどういうことですか?」
エルラの声に柄池の質問。
そして、彼女はこう告げた。
「柄池君、あの暗黒騎士の仕業だったのよ、この世界を改変したの」




