14 恵まれない者の一撃
轟音が鳴りやんで、黒い電気も周囲から消え去る。
その中で柄池はいた。
立った状態で、だ。
「危なかった……まさか、うまくいくとは……」
柄池はこの賭けの結果に驚く。
その結果、うまく黒い稲妻を回避できたのだ。
「賭けは成功でした。剣に憑依すれば物として動けると考えてみましたが、なんとか……」
賭けの内容をライオロスから言葉にして、その結果に自身も胸をなでおろす。
当たる前に彼は剣に憑依をし、剣を握った柄池を剣ごと動かして回避させたのだ。
「危機一髪だったな」
「危機は去りましたが、この状態では……」
柄池からの助かったとの一言に、ライオロスは不安交じりの言葉を言う。
確かに戦闘力は先程よりも落ちている。
竜殺槍もおそらく放てないだろう、彼が憑依してなければ。
テイガも黙ってはいられないとこちらに向かってきていた。
その中で柄池はライオロスへと言葉をかける。
「なに。戦えるならば、まだ可能性はあるさ。敗北したわけじゃないんだし」
「分かりました。どういう結果であろうと、最後まで付き従います」
「それに愛川さん。俺達はまだ戦える、そうだろ?」
ライオロスからの理解の言葉の後に柄池は愛川へと言葉を送った。
あることを伝えるために。
「え? どういう……あ、そっか。分かった!」
愛川はその意志を理解したようで、すぐさまスマホへと手を伸ばす。
その後にテイガからの切り上げを柄池は剣で受け止めた。
剣に憑いたライオロスのサポートがあったおかげか、憑依していない状況よりかは上手く動ける。
そして、テイガのパワーアップも黒い稲妻を避けたときから切れていることは幸いであった。
「ご自慢の竜殺槍という大技もその状態では無理のようだな」
「さて、それはどうか? 予想外の出来事は世の中にたくさんあるもんだぞ」
「その減らず口こそが竜殺槍だと言いたいのか? 弱々しい技だ」
柄池は剣の攻撃を受け止めつつ言葉を返し、テイガはそれに非難の言葉で押し返す。
彼の返しもちょっとはキレが増したようだ。
彼への応対のしんどさに柄池はとりあえずの心情が言葉に染まっていた。
「さて、そろそろ準備も出来たようだし……みんな、出来ることをやってくれ!」
柄池は愛川の方へと向けて言葉を出す。
その彼女の方には二つの光が現れていて、今、馬のめぬえもんとカットリンが光の中から現れたのだ。
そして、すぐさまめぬえもんがテイガへと向かっていく。
「こんな馬など切り伏せてやるわ!」
「おっと、それは困るんだよな」
テイガはめぬえもんの方へと剣を向けようとするも、柄池はそれを声とともに間に入る。
結果、彼の斬撃は柄池に剣で阻止されてしまう。
そして、めぬえもんは突進してきたのだ。
「くっ!」
めぬえもんの突進はテイガにかわされてしまい、柄池とも距離を離した。
柄池もまた当たらないようにと後方に飛んだ。
「ただの馬といえどもあの速度で向かってくれば、今の俺様では……」
テイガは現状を見つつ冷静に語る。
めぬえもんは再度方向を変えて突撃をしようとした、先ほどよりも速度を上げてだ。
「またか、今度は切り伏せて、ん!?」
言葉の途中にテイガは驚く。
なにせ、めぬえもんは大きく飛んでランドステイの姿へと変わったのだ。
その姿で彼に向けて落下をし始める。
「ただの馬ではないだと!? が、やるべきことは変わらない! 黒い雷で……」
驚きつつも、テイガは剣を横に構えて振ろうとする。
しかし、その構えは飛んできたカットリンが許さなかった。
カットリンは彼の剣に向けて飛んで行く。
「くぅっ! 止めろ! 剣を持っていこうとするな! 離せ!」
テイガは剣にくちばしを伸ばすカットリンにやめろとの声と共に抵抗する。
抵抗は何とかうまくいき、同時にその場から反撃はできないと、再度彼は距離を置いた。
めぬえもんは落下して、砂を巻き飛ばす。
「いくらランドステイの突進だろうが、当たらなければ……ん?」
テイガは違和感に気づいた。
両足に絡む液体のような生き物。
スライムであるにゅるじがテイガの足に絡んで、足を拘束していたのだ。
柄池はあの時に砂の中に隠れて、機会が来たら絡むように指示を出した。
攻撃は効かないも、絡むことは出来ると分かっての指示だ。
「な、あのスライムか!? くそ、足から離れろ!」
テイガの足のもがきににゅるじも負けじと粘る。
その中で、彼に向かってくる駆ける足音があった。
剣と共に駆ける柄池だ。
その横にはカットリンもまた並ぶように飛ぶ。
「行くぞ……!」
言葉と共に、テイガの方へと柄池は飛ぶ。
カットリンはこちらの肩を掴んで、大きく翼をはばたかせて、高さと勢いを増やす。
続けて柄池は言葉を出す。
「これが俺の!」
カットリンが柄池の肩を放して、柄池は落下の勢いも身に付ける。
同時に剣をテイガの方に構えた。
テイガはその場で拘束されて、移動が出来ない。
「お前が恵まれてないと言った俺の! 一撃だ!」
「ほざけ! 俺様の雷で撃ち落してやる!」
柄池の言葉に負けじとテイガの言葉。
彼も再度こちらに向けて横に剣を構えた。
柄池も剣を後方へと引っ張る。
「俺の……竜殺槍!!」
「黒の雷よ!」
柄池は突きを、テイガは黒い稲妻をお互いに向けた。
先に柄池の方へと黒い稲妻が近づく。
しかし、その黒い稲妻は柄池には当たらなかった。
にゅるじが彼の足を引っ張って、稲妻の発射にずれを与えたのだ。
テイガはにゅるじの方へと顔を向ける。
そして、柄池の剣が彼の鎧に向かっていく。
その剣は竜殺槍ほどの威力はないが、鎧にダメージを与えるには十分であった。
「そんな、そんな……」
テイガは攻撃を受けて嘆く。
鎧のひびがさらに広がる。
「鎧が、鎧が壊れるとは……」
テイガの言葉と共に鎧は破砕の音を響かせたのだ。




