13 勝機はあるか
テイガが立ち上がると、鎧にはひびが見えていた。
彼にかけられた言葉に柄池はとりあえずの気持ちで返す。
「そっか。ところで強者の余裕ってどこいったんだ?」
「弱小のくせに……が、その手にはもう乗らんぞ」
柄池のとりあえずの質問にその手に乗らないとテイガは返す。
冷静を保てる状況ではあるようで、言葉もテイガから続く。
「俺様の攻撃があれだけと思うなよ」
テイガからの言葉の後に剣を上に突き出して、黒い稲妻を発生させる。
上へと向かった黒い稲妻は大きな雷雲へと変化する。
「何か来るのか?」
(先ほどまでの攻撃とは違う何かでしょうが、何か……)
雷雲を見た柄池は疑問を浮かべて、ライオロスもまた疑問を浮かべていた。
「そっちばかりに見とれるなよ!」
「おっと、そうだ」
テイガの言葉に柄池は視線をテイガへと戻す。
彼はこちらへと距離を詰めていて、こちらも剣で迎え撃つ。
剣がかち合って金属音が響く。
そこで、柄池はある変化に気付く。
「雲から何かが……」
雲から現れた馬をかたどった電気の固まり、それを柄池は見つける。
その電気の馬はこちらに向かってきた。
予想される経路は、柄池の横に突撃する形だ。
「うわあ!」
柄池は後方に下がって、馬の突撃をよける。
馬は通り抜けると、ある程度のところで方向転換をする。
当然、こちらへ通る経路に。
ライオロスからの声が心の中から響く。
(なんと厄介な。邪魔されるとこちらも自由に動けないです)
(ただ、こっちにしか向かないならやりようはある。むしろ、好都合かも)
ライオロスの不都合の言葉に、柄池は心の言葉で好都合と返した。
長く残る稲妻と考えれば厄介なこともあるが、それはこちらだけではない。
テイガは再度剣を構えて、距離を詰めに来た。
「状況は弱小救済者の方が不利だ!」
テイガの剣の振り下し、それを柄池は剣で受け止める。
それと同時に馬も横からの突撃を仕掛ける。
好都合の最大の瞬間が来た。
「そら!」
柄池はテイガの片手を掴み、引っ張る。
片手に鎧の恩恵はないことは分かった。
「何!?」
驚きつつ、テイガは姿勢を崩す。
そして、柄池は彼を奥へと押し飛ばした。
その奥とは、電気の馬の方へとだ。
「自分の馬のしつけぐらいは、自分がしとくんだ!」
柄池が馬をテイガに押し付ける。
馬は柄池に向かうも、その経路には先にテイガにぶつかる。
「ぐあぁ!」
テイガは自分の電気の馬にぶつかったことで、帯電してしまった。
その場でしびれる彼から柄池は距離をとる。
「そして、この隙を十分に活用しないとだ」
その言葉と共に柄池は腕を伸ばして剣を構える。
絶好の隙にこれを決めない他なかった、竜殺槍を。
「竜殺槍! 受けよ!」
柄池から竜殺槍が放たれた。
未だにしびれているテイガは無防備。
避けるすべはない
はずだった。
「え?」
しかし、柄池の期待は裏切られる。
衝撃波の命中の前にテイガは横にずれたように回避したのだ。
その一連の出来事に愛川も驚きの声が出る。
「嘘? 命中したはずだよね?」
愛川の驚きの声。
その後にテイガからの声がどこからともなく聞こえてくる。
「まさか、俺様もあれを回避できるとは思わなかったぞ」
テイガからの声は柄池の横から聞こえる。
しかも、手でこちらを掴める位置にだ。
「どうしてだ? どうしてあんなことに……」
「俺様も自分の攻撃をああして受けたのは初めてだが、こうしてパワーアップするとは思いもしなかったな。今では手足に力がみなぎる」
柄池の疑問にテイガは答えた。
まさか、あの手が逆効果とは思いもしなかった。
テイガはパワーアップの象徴のように黒い電気を放ち、声を掛けようとする。
「せっかくだ。俺様のパワーアップの祝いとして、これを受け取れ」
言葉と共にテイガは横に剣を構え、横薙ぎを祝いとしてプレゼントしようとした。
「これはかわさなきゃ……」
「……」
かわそうと柄池は距離を離そうとすると、ライオロスから判別できない声を聴く。
それでも動こうとするが、どこか体が鈍い。
何かがおかしかった。
「あれ……なんで、憑依した感じがないんだ?」
「……」
違和感を柄池は呟き、ライオロスも声をかけるがよく聞き取れない。
彼が憑依したときはもっと機敏に動けたはずだが、その機敏さがない。
それどころか柄池が普通に動くよりも動きに鈍さがあった。
「これで終わりだがな」
終わりを告げて、テイガは剣で横薙ぎをする。
その横薙ぎの軌跡は黒い稲妻をまとう。
柄池はかわせずに傷を負い、奥へと飛ばされてしまった。
柄池は飛ばされて奥へと転がる。
回転が落ち着いたころには、胴体から光玉が出てきてしまった。
「そんな、憑依までもが切れてしまうとは……これも竜殺槍を三回やった弊害か……」
「痛っい……でも、なんとか、大丈夫だ……まだ、戦うから」
ライオロスからの言葉の後に、まだ戦えると柄池は話す。
今更ながら分かったが、竜殺槍を三回やった負担が出てきた結果なのだろう。
更にテイガは当然とばかりに次の行動へと移る。
「まだ戦うか、もう終わりだというのに。ならば、俺様はこうするか」
言葉と共にテイガは剣を上に掲げる。
黒い雲が柄池の上に現れる。
「あー……これは、不味いな……」
「柄池殿! 剣を握ってください! 一か八かやってみます!」
不味いとの柄池の言葉に、ライオロスの指示。
何とか挽回したいと、指示通りに柄池は剣を握った。
その直後に愛川が見守る中、黒い稲妻が落ちたのであった。
「柄池君!!」
不安な愛川の言葉の後に、空気を割くような轟音が響いた。




