11 ロカリアが繋いだ勝機の道
にゅるじへの話をしてから、柄池は暗黒騎士のテイガに接近をしつつ後に離れる戦法をとっていた。
俗にいうヒットアンドアウェイの戦法。
攻撃は効かないが、もしかしたら効く場所があるかもとの思いで、確認のために攻撃をしていた。
その戦法を取りつつ、柄池はライオロスと心の中で会話を進める。
(ライオロス、あの時の暗黒騎士の行動だけどさ、変じゃなかった)
(あの時の? もしや、柄池殿も違和感があってですか?)
(ああ。あの時さ、三分経ったように見えたか?)
ライオロスも違和感があると心の中で語り、柄池は待っていた三分間について質問する。
違和感があったのだ、本当に三分間待ったのかと。
(いえ。二分と三十秒だったと思います)
(だよな。となるとだ、あの暗黒騎士はさばかないといけないと判断したわけだ。あのロカリアさんの攻撃を)
(ですね。回転で力を増したあの攻撃を)
柄池の考えを伝えて、その考えにライオロスは同意する。
テイガは時間を待たずにロカリアの攻撃をさばいた。
ならば、その攻撃はそのまま受ければ不味かったと柄池は考える。
距離も十分離れていたが、その会話の後に柄池はテイガから再度距離をとった。
(というわけで、俺はこの攻撃は通る可能性があるとみている)
その心の言葉の後に、柄池は腕を伸ばして剣をテイガに向ける。
「竜殺槍なら!」
柄池は腕を後方に下げて瞬時に突きを放つ、竜殺槍を。
テイガから見れば、奇怪な動きの後に瞬時に届く衝撃波。
避けるすべはなく、テイガに命中した。
「なぐっ!!」
攻撃を受けて、テイガは後ろに飛ばされる。
二歩下がるほどの距離に飛んだだけだが、それでも手ごたえは見ても分かるほどにあった。
(いけますね、竜殺槍なら!)
「ああ! 何もできないわけじゃないんだ!」
ライオロスも手ごたえを確信して、柄池も打開策への確信を言葉にした。
ただしと柄池は心の中で考える。
(ただ、あのタイミングが絶好だと言っても、あと二回か放てるのは)
(もっと威力がある技を事前に教えていれば……今ここで教授するのもリスクが……)
(大丈夫さ。この二回でけりを付けられる)
ライオロスは教えられなかったことを悔やみ、柄池はフォローを入れた。
そこで、体勢を整え切ったテイガから声が出される。
「この程度の攻撃で勝機を見出すなよ」
「そうかい? 嘘でも諦めた顔してた方がお前のためだったか?」
「誤解してるな。俺様の言葉を」
柄池の言葉と疑問に、テイガは誤解だと注意をした。
更にと彼は剣を後ろに引いて、言葉を続ける。
「遠距離攻撃がお前だけ出来るってわけではないことだ」
「ん? そりゃ、さっきの黒い稲妻で分かるけど」
テイガのさらなる忠告に、柄池は分かると返した。
彼は引いた剣を横に薙ぎ払う。
すると、その先から一直線に黒い稲妻が柄池に向かってきた。
(柄池殿、来ます! よけてください!)
「危な!」
ライオロスの忠告の後に柄池は声を出しつつ、体勢を崩してかわした。
何か来るとは考えていたが、突然の黒い稲妻にかわすのが精一杯であった。
柄池が手とひじを地面に付けているわずかな隙に、テイガはこちらへと距離を縮める。
「隙を見せるのは愚か者の象徴!」
テイガは言葉と共に剣を振ろうとする。
柄池はすぐに体勢を整えるも、テイガはすでにこちらとの距離を詰めていた。
武器を振れば当たる距離にまで。
「これはこうした方がいいか」
その言葉と共に柄池は後ろに下がる。
機動力はこちらに分があることから、無理に攻め込む必要はない。
その様子を見たテイガはこちらに詰め寄ることもなく、その場で声を出した。
「しかし、救済者という割には派手な力を見せるでもなければ、魔法を使うこともないな」
「それが何か? 派手な物を見たければ、魔法使いにでも頼んだ方がいいぞ。見世物やっている魔法使いとかに」
「愚かで知識もないのか。救済者としてお前は弱小だと言いたいのだ」
柄池からの反論にテイガはこちらへの非難を始める。
非難はテイガの口から続く。
「救済者はもっとすごい力を持っていると思っていたのだが、お前のやったことは衝撃波を出したことだけ。他にあるなら見せてもらいたいものだが、それも無いようだな」
「何を言っているんだよ。そんなこと言われたら、すごい力があっても隠したくなっちゃうんだけど」
「見栄を張るな、愚か者。俺様はお前の手の内をもう読んだぞ。結局はその衝撃波しか俺様を攻撃できないのだろう」
再度の柄池の反論に見栄を張るなとテイガは非難もした。
テイガの言う通り、確かに攻撃手段は竜殺槍しかない。
柄池は黙っていた。
「それに魔法も使えないうえに、戦闘職も就いてないと見受けられる。いや、お前はここまでくると職に就けないとも同じだろうな」
テイガの非難にすぐさま反応があった、愛川の声が。
「何をー! 柄池君は強いもん!」
愛川が治療しながら文句を出した。
「愚かな救済者よ。結局、お前は恵まれてないんだよ。力を授けてくれる都神にも見放されたのだろう」
恵まれてないとのテイガの言葉。
その言葉にエルラは何も言えなかった。
言い返す言葉がないのだろうか。
第三者から見れば、特にテイガのような人間から見れば、そうも見えるのだろう。
エルラの表情が予想出来た。
悔しさの色に染まった表情が。
「ちょっと待て」
待てとの柄池の言葉。
テイガはあまりにひどい誤解をしていた。
だからこそ、柄池は次にこう言いたかった。
「俺は恵まれてないって、ここにきてから思ったことはないぞ」




