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18 騒動の始末

 柄池達が移動している時間で別の物事が進行していた。

 ある商会の建物で物事は進んでいて、その建物の中でその黒いひげの男性は白いひげの男性と面と向かっている。

 白いひげの男性の伺いの声が聞こえた。


「さて、今回のことで聞きたいが、いいか?」


「……は、はい」


 白いひげを生やした男性、エイローンが報告を求めると、黒いひげのヒムントは了解を恐る恐る伝える。

 ヒムント・ロゲンクはエイローンの部下であり、今回指示を受けていた。

 今回、自身がオークのフェストスを捕らえれば、救済者が動き出すと考えていたため、部下を通じてオークの親分に入れ知恵をしたのだ。

 ロカリア王女ともつながりが出来たということで、そのうちに自身が彼女の方へと手を下そうとも考えてもいた。

 エイローンを裏切った相手を放置できない、その理由で。


 しかし、今回、救済者を倒す作戦は失敗に終わる。

 ヒムントはその弁明のため、エイローンの元へと来ていた。


「今回、オークの集団を使って救済者を襲わせましたが、失敗に終わりました」


「ああ、そうだな。ところで、気分悪くないか? 昨日は寝たのか?」


「いえ、寝れるわけが……」


「別に失敗ぐらいで気を落とすなよ。俺も失敗に一つはあるさ」


 ヒムントからの報告にエイローンは擁護をしてくれた。

 その擁護に安心を覚えた。


「そ、そう言っていただけると」


「でもなあ。やらかし方がひどいよなあ、ヒムント」


 感謝を述べたかったヒムントだが、でもと付け加えてエイローンは話す。


「俺はさ。様子見をしろとは言ったよ。でも、救済者を倒せなんて俺は言ったか?」


「そ、それは……」


 エイローンから救済者を倒せと言ってないとの言葉にヒムントは狼狽える。

 自分が救済者を倒すに至った理由、それはロカリア王女を寝返らせた根本を倒せば、彼女が戻って来ると考えたからだ。

 戻って来れば彼女は油断した姿を見せる、その隙を狙って倒す算段もある。

 最もエイローンはロカリア王女を仲間として接していたわけでなく、彼女が救済者について何も罰してないことにヒムントは驚いていた。


「良くないよなあ。確かに俺は様子見をしろとしか言ってないさ。それがここまで行動が発展するなんて良くないよなあ」


「あ、はい! そ、そうです……」


 エイローンからの言葉にヒムントはさらに後退りした。

 彼が近づいて来る。

 その片手には何やらきらめく物が収まっていた。


「これがお前に対する罰だ」


 エイローンがそう告げてナイフをヒムントに突き立てた。

 衝撃が自身の体に流れる。


「あ、そ……な……」


 ヒムントは倒れていった。

 ナイフを突きつけられた衝撃で、床に崩れていく。

 意識が暗くなっていった


 かと思っていた。


(……? この感触は死んだのでは……?)


 妙な感覚にヒムントは違和感を覚えた。

 刺された場所を触っても確かに液体の感触はあるが、妙であった。


「おい、起きろよ」


 エイローンからの気付けの言葉。

 そういえば、改めて気づいたが痛みがない。

 ヒムントは上体を起こす。


「わ、私は確かにナイフを突きつけられたのでは……?」


「これだよ、これ」


 ヒムントの疑問にエイローンは答える。

 彼はナイフの先端を押すとナイフが縮んでいく。

 持ち手だけの部分になるまで縮めると、その後に赤い液体が出てきた。


「これは一体……?」


「これは伸縮するおもちゃのナイフだ。殺傷力もないし、最大限に縮むと赤い色の液体が出るのさ」


「え? おもちゃ……?」


「そうだよ! お前、なかなかの演技だったぜ? 固いくせに面白いところあるもんだな」


「じゃ、じゃあ……私を殺そうと思っていたのでは?」


「そんなひどいこと俺はしないよ! ちょっとしたジョークのつもりだったのさ!」


 ヒムントからの疑問にエイローンは殺すつもりはないと答える。

 安堵の息が漏れた。


「た、助かった……」


「あ、でもヒムント。お前はミーファル村行きな、お前はあそこで例のばあちゃんの世話をしてもらう」


 安心の後にエイローンが移動の話を持ち出す。

 まさかの話だ、よりにもよってあそこの場所に行くなんて。


「あ、あそこですか!? あの痴ほう症の酷い御老体のエミーを……」


「そうだよ。お前の家族とともにあそこに飛ばすことにした、エミーばあちゃんは子供が好きだから喜ぶぜ」


「そ、それだけはご勘弁を……」


「はいだめー。家族サービスのついでに一緒に行ってきな。しばらくがんばりゃ、元の場所に戻っていいからよ」


 ヒムントの要望はエイローンにあっさり蹴られてしまう。

 老婆のエミー、それは世話をした人すべてが結果的に辞めたいと口にするほど酷い対応をしている老婆なのである。

 ヒムントの周りもエミーの世話はしたくないと口をそろえていた。


「そ、そんな……」


「ま、頑張んなよ。ヒムント」


 エイローンはヒムントの肩に手を置いて励ます。

 自身の両掌は床にいつの間にかついていたのだ。

 その様子の中、彼はこの部屋を出ていくのである。

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