16 平行線の意思たち
柄池達はオークの村での歓迎を受けて、夜までの時間を過ごす。
その歓迎で村長であるオルトス自作のジュースもいただいたが、それがなかなかいい味で、ジュースを瓶に入れて頂くことにもなった。
オルトス曰くは、必要な人に金銭売買でも誰かに無償でやってもいいし、皆で飲んでもいいということだ。
そして、歓迎を終えてから柄池は夜の村で、スマホをもって一人歩いていた。
今、ロカリアと二人で話したいと、外に出て話していた。
「今回は予定外だったからな、朝早めに出て急いでいくことにするよ」
「いよいよ水の都市、ですわね」
「オークの村でのこともやるべきことだったから、無駄ではないけどね」
ロカリアは次の目的地について語ると、予定外のことを引き受けたが無駄ではないと柄池は語る。
次に他に助けてほしい人がいても助けるだろうが、その時は手短に済ませていく予定だ。
「確かに、無駄ではないですわね。あのままのオークの村を放っておけば、最悪、柄池さんが偽物扱いされた状態で周りの都市や町に広まってしまいますから」
「まあ、それは否定しないけど、また偽物扱いされれば、また今回のように認めてもらうまでさ」
「そうですか。話を聞いていますと、偽物扱いもあまり抵抗なさそうに見えますわね。今回のミスカさんのことは認めてもらう以外に何かあったのですか?」
柄池から話すと、ロカリアは話を受け止めたようである。
偽物扱いされれば、その時はその時と考えていたのだ。
「うーん。正直言うと、偽物扱いされてもそれでもいいかとも思っていたんだ」
「え!? 偽物のままでも? 何故ですわ?」
柄池はそれに対して正直に語ると、ロカリアが驚いて理由を求める。
「単純にミスカさんが助けてほしかったから、それだけ。オルトスさんの意思もあそこまで行くと尊重したいから、別に偽物のままでもよかったんだ。とりあえず、うまい落としどころで認めてくれてよかったよ」
「そう、ですか……私としてはいまいちな落としどころですわね」
「ん? そっか……なんかロカリアさんに悪いことしちゃったかな?」
「あ、いえ! 柄池さんがそれでいいというのであれば……」
ただ助けたいと語った後に柄池から悪いことをしたかと聞くと、ロカリアはその疑問を否定する。
その後間を少し開けて、ロカリアから声を聴く。
「あと、一ついいでしょうか?」
「なんだい?」
改まってのロカリアの言葉に、何かと柄池は返す。
「その……私と付き合っていただきたいのですが。恋人として、行く行くは妻として……」
「……それは悪いけど、出来ない」
重い意志をロカリアは伝えると、柄池は不可能と返す。
「なぜですか? 理由が欲しいですわ」
「俺達はよその世界から来た人間だし、出来るだけ影響を及ぼさない方がいい。この世界はこの世界の人達だけで発展させて未来を創る。それこそがこの世界にとっていい方向へと向かう気がするんだ」
理由をロカリアから求められて、こう柄池は返した。
柄池は別の世界から来た人間、いわばこの世界とは違う色の持ち主。
あまり大きなことをすれば、この世界の色を大きく変えてしまう。
それはもともと変わるはずの未来を大きくゆがめることでもありうるため、それは避けたい。
ましてや、ロカリアの夫という道は選べなかった。
「そう……なのですか」
「まあ、今回のような救済業みたいなのはやるつもりだし、問題を取り除くぐらいはやっていこうと思うけどね」
「柄池さんの阻む理由、分かりましたわ。ならば、私の魅力で、柄池さんを惹きつけるまで」
加えて柄池は救済者として人を救っていくことはやると話すと、ロカリアはそれでも引き下がらない。
ロカリアの意思は想像以上に揺らいでいない。
その揺らぎない意志が不幸を招く未来が見えて、柄池は苦しかった。
「それはきっと……何も得られない選択だから、やめるべきだ。その選択した道も歩くだけで苦しくなるから」
「申し訳ありません。その忠告はありがたいですが、引き下がるわけにはいきません。それだけ……私の気持ちが大きいと分かってください」
柄池からやめた方がいいと話す、それでもロカリアは引き下がらないと意思を表す。
これ以上の忠告は無駄だと感じさせる、強い意志であった。
「……分かった。そこまで言うなら俺はこれ以上言わない。ただ、俺を惹きつけることは想像を何度も裏切ることは覚悟してくれ、いやな方に何度も、ね」
忠告もダメならばと柄池はせめてその道の苦しさを伝えた。
この言葉も無駄だとは思ったが、せめてもの説得のためだ。
「必ずや、柄池さん……あなたを引き込んで見せますわ」
ロカリアは引き下がることない意志を再度伝えた。
それから柄池は宿へと戻るのである。




