11 まさかの乱入者
金属音が鳴り響く、刃物と刃物がぶつかった音。
柄池は無意識に剣を取り出して、背後に構えていた。
否、無意識とは言えないか。
(油断せぬようとの忠告。こんなところで役立つとは……)
ライオロスは柄池の体の中で呟く。
彼が瞬時に憑依して、剣を構えさせてくれたというのが正しい。
柄池が後ろを振り向くと、刃物を持った人物が後ろに飛んで距離を開ける。
「まさか、あなたが……なぜです?」
「あれ、あれ? どういうこと?」
柄池、愛川の順に驚きの言葉を放つ。
刃物を持った人物にまさかの感想が出ていた。
「なぜ俺に刃物を向けたんですか? ドルトスさん」
柄池は刺そうとしていた相手、ドルトスに疑問を投げた。
彼はナイフを持って何食わぬ顔をしている。
「ああ、別に殺すつもりはなかったんだ。俺っち、このマヒ毒のあるナイフでチクリとやるだけなんよ」
「違うんだ。それをやる理由が聞きたいんだよ」
「だってね。救済者が邪魔しに来たんで、このまま俺がのんのんびりびり生活しているわけにはいかないんだな」
「邪魔しに来たって、あなたも俺と……まさか、おまえは!」
「お、察してくれて有り難いな。それじゃ、正体ばらばらタイミングってとこか」
ドルトスは両手を真横に延ばすと急に筋肉が隆起していく。
そして人間でなくオークに近い筋肉と体、そして顔つきになっていく。
「化けた……オークに」
「ドルトスさん、オークのモンスター、敵だったんだ……」
柄池は化けたことに、愛川は敵だったということにそれぞれ驚く。
ドルトスには完全に裏切られたわけだ。
こちらも完全に味方だと思っていたため、彼がこういう手段に出るとは思ってもいなかった。
ライオロスがいなければ、間違いなくマヒさせられて愛川も捕まっていたのは想像に難くない。
「そういう訳よ。俺っちも人間に変われるからよ、試しに人間の姿で密偵の職につけるか試したわけだ。結果は成功さ」
「な!? モンスターも職につけるのか?」
「そうそう、びっくりするよね。俺っちもうまくいったときはその表情だったよ。人間の時は職の恩恵も受けられるし、モンスターの時はないけど、密偵として身に付けた技術は頭に残るから、そこはモンスターであろうと関係ないんだ」
「職を付けたモンスター相手か……」
「ちょっとしゃべりが過ぎたかな。驚きも共有したかったし、まあいいもんよ」
柄池は職を付けた相手について驚きを話すと、ドルトスはそれについて解説をした。
そうして、刃物を構えて彼は脚を踏み込む。
「そういうわけで……マヒマヒしてくれよな!」
言葉と共にドルトスは柄池に突っ込み、刃物を突き出す。
それを剣で受け止めた。
(柄池殿も気を付けてください。マヒ毒ですから、一発でも貰えばしばらく動けなくなります)
「そうだね。動きは任せるけど、俺も気を付けないと」
ライオロスからの詳しい注意に柄池は肯定と警戒するとも話す。
剣でドルトスの刃物を押し弾くと、その刃物から液体がしたたり落ちる。
刃物も黄色い液が付着して、マヒ毒の付加を想起させていた。
共に部屋からかすかにきしむ音が聞こえる。
気にはなったが、まずは目の前のドルトスを優先した。
「ほほう。この攻撃はどうよ?」
ドルトスは言葉と共に刃物の突きを素早く連続させる。
「身軽だし密偵って職のせいか、動きが早いな」
柄池は見切りつつ、避けることと剣での防御を混ぜていく。
ライオロスもいるからだが、避ける動作にも余裕はあった。
「だったらよ。これはどうよ?」
ドルトスは再度攻撃へと移り、刃物の連続突きの他に拳も混ぜてきた。
次に下からの彼の拳に柄池はチャンスと判断して足を出す。
「避けてばっかりは……つまらないだろ!?」
柄池は斜め下へと押し返すように、足の裏でドルトスの拳を蹴り飛ばした。
「おっと、痛ってえな」
拳を押し戻された反動を利用してドルトスは、回転しつつ次は蹴りを入れた。
次も素手での防御で対応。
そう思っていた矢先だ。
彼の足の先から急に刃物が出てきたのだ。
(足の先に刃物が!)
「な? これもまさか!」
ライオロスは驚きの言葉を出して、柄池は刃物に不安を感じ取る。
柄池はその刃物を片足で後方に跳んでかわした。
少し無理な跳躍であったことから、着地と共に少しバランスを崩してしまう。
「特特の別別だったんだがよ。やるよね、救済者様は。これもマヒマヒすっから気を付けなよ」
足の刃物を揺らしてドルトスはマヒ毒をアピールする。
ここで再び部屋からきしむ音が聞こえる、先ほどより大きな音が。
それを聞いているか気にしてないのか、ドルトスは続けて言葉を出す。
「おっとおっと。俺っちさえ倒せばと考えたら甘々だからよ。このアジトには親方も向かっているからよ」
「くっ……まだ大物がいるということか、なら早く助けて逃げないと」
「それは俺っちさせないよ? のびのびのんのんと戦おうぜ、よ!」
柄池の焦りに対してドルトスはそう言うなと言葉を返した。
同時に手の刃物で突きを繰り出して、接近する。
「う……敵としては当然か。今の状況で二対一なんてどうなるか……」
その突きを防いで、柄池は状況に対して不味いと呟く。
親方の強さもドルトスより上と予想されるが、親方の加勢は防ぎたい。
彼の撃破を急ぎたかった。
ただ、愛川はその言葉を察して、静かにフェストスの元へと行こうと動いてもいた。
ドルトスの方は柄池を見て、言葉を出そうとする。
「おやおや? 急かしちまったかよ? こっちは急ぐ必要はないんだが?」
「丁寧な気遣いだけど、感謝する気にはなれないな」
ドルトスからのいらない気遣いに感謝はしたくないと率直に柄池は言葉を返した。
「そっかよ。なら特特の別別の俺の気遣いをさらに受け取ってくれよ!」
ドルトスはさらにと手の刃物で突きの攻撃をする。
その瞬間だ。
轟音と共にこの部屋の壁の破片が飛んできた。
ドルトスは壁の方へ視線を向けて、言葉も出す。
「親方! いつも派手な登場が好き……」
ドルトスの言葉。
その後に彼が振り向くと、破片に混ざってオークが彼の前から飛んできた。
「うごあ!!」
突然ドルトスよりも大きいオークに当たり、巻き込まれて床を同時に転がっていく。
柄池は後方に下がって破片とオークを避けた。
声を出したのは愛川だ。
「え? なになに? ハンニャルモが来たの!?」
「それは違う気がする。嘘の存在だし」
愛川の言葉に柄池は突っ込む。
柄池は状況の確認として轟音の方向を見る。
壁は突然壊されて、大きな穴が開いている。
そして、その穴には誰かがいた。
フェストスは震えていた。
それは脅えのための震え。
「あああ……」
更には縛られたフェストスは塞がれた口を解いて、その穴を見てもいた。
その穴の人物はようやく言葉を出す。
「あんた!! ようやく見つけたよ! 亭主のくせに家ほっぽり出してどこ行ってたんだ!?」
「か、母ちゃん……!」
女性のオークらしき怒声にフェストスは震えた声を出す。
どうも、この女性はフェストスの妻のようだ。




