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9 怪しき女性

 そして、柄池の方。

 柄池達は今ある部屋の様子を探ろうと慎重に近づいていた。

 壁を伝ってゆっくりとだ。

 その部屋は通路の角から明かりが漏れて、何やら物音もしていた。

 柄池が判断するに、何者かが動いている。


(他のオークの仲間か? いや、オークだけでなく他の種族もいるってことも……)


 柄池は心の言葉で状況を整理していた。

 更には念のためと、小声で確認をとる。


「大丈夫かい、愛川さん? 周りは?」


「うん、大丈夫。敵は誰もいないよ」


「ならよし、行こう」


 愛川の安全の言葉に柄池は移動の決断をする。


 慎重に足音を潜ませて移動し、角も超えていく。

 角の先には少し壁があって、その壁の先から光が漏れていた。

 入口は光のところにあるようだ。


 そこも慎重に移動して、柄池は光の漏れた先を恐る恐る覗く。

 そこには背を向けた女性が何かをしている様子で、さらにその女性の足元には倒れた人の腕が覗かせる。


(人……? なにをしているんだ?)


 柄池は心の中で考えていた。

 オークの集団の中で人間が何をしているのかと。

 女性はふと腕の動きを止めた。


「あら? そう警戒しないで話さない? 柄池君」


 そして体の向きを変えずに女性は話しかける。

 柄池がそこにいると確信をもって。


(な!? なんで、俺の名前を?)


 柄池は驚いていた。

 振り返らずにこちらへと話しかけたのもあるが、何より初見の相手に柄池の名前を知られていたからだ。

 すぐさま剣を取り出して構えつつ、後方へと下がる。


「柄池殿……戦いますか?」


 ライオロスもポーションビンから出て、憑依の準備を整えた。

 愛川もまた柄池の元へと寄っていく。

 しかし、それでも女性は何も反応がなかった。


「あら、戦うつもりはないわよ? 戦う目的がないから」


 その言葉と共に女性はこちらへと振り向く。

 女性は黒い髪で片方の横に深いスリットが入ったスカートをはいていた。

 その女性を見て愛川は険しい視線を送っている。


「いかがわしい女……!」


 愛川が警戒のまなざしと共に女性に向けて言葉を送る。

 不可解なことは多いが、女性もまた何かを探っていたのか。


「戦う気がないならそうしたいね。でも、オークのフェストスさんが誘拐されたことで関係ありそうじゃないかい?」


「いえ、柄池殿。それはやめた方が無難です」


 戦うつもりはあると柄池は伝えると、ライオロスから制止の言葉が来た。

 そう来るとは意外で、言葉もライオロスから続く。


「あの女性の陰に底が見えない深い闇が見えます。戦わない方が絶対にいいです」


「そうよ、襲ってきたら食べちゃうかも。でも、愛川さんが困るでしょうし、それに人から物を奪うのも趣味でないもの。安心して頂戴」


 ライオロスの補足に女性も同意をして、さらに笑顔で愛川を見る。

 食べられるというのは女性の深い闇にか。

 柄池のみならず愛川の名前を知っていることに、柄池の心を不気味が入り込んでいく。


「分かった。止むを無いけど、ここは引く方が正解だ」


「おりこうさんね。柄池君と愛川さんとは敵でないアピールしたいから、この巻物をあげる。水の都市で愛川さんの役に立つものだから、ぜひ使って」


 剣の構えを解いた柄池に女性は評価しつつ、さらに後ろから飛び出してきた巻物を手に収める。

 そして敵ではないアピールとして、しゃがんで巻物を下へと伏せさせる。

 さらに、女性は言葉を続ける。


「それと、私はウツミと名乗るわ。また会えるかもしれないから覚えてね」


「え? ウツミ!? まさか、あなたも別の世界から?」


 女性の名乗りに柄池は驚く。

 ウツミという名の女性は知り合いにいないが、元の世界の日本でも呼ばれている名前であれば、反応せざるを得ない。

 しかしウツミは柄池の言葉を聞かずに部屋から急いで出た。


「え、ちょっと待って!」


「あと、ライオロス。今日は油断をしないことを勧めるわよ」


 柄池の制止にウツミは耳を貸さずに移動して、ライオロスに忠告をする。

 柄池が後を追うも、角を曲がるとすでにウツミはいなかった。


「な、なんだったんだ、あのウツミって人は……」


「分かんないけど、絶対に関わったらいけないって人は分かる。特に柄池君! あの人の言うことは絶対に乗っちゃだめよ!」


「ま、まあ、気持ちは分かるけど、ちょっといい?」


「どうかしたの?」


 忠告に気持ちは分かると付け加えて愛川に確認を入れると、愛川は何かと聞く。

 気付いて無いようだ、柄池の片腕ごと胴を愛川が腕でしがみついていることに。


「随分ときつく締めつけているんで、そろそろ解いてくれないかな?」


「え? あ、ごめん」


 柄池はしがみつきを解いてくれるよう話すと、愛川はすぐに謝って離す。

 また、気になることとして、ウツミの下にいた人の状態も確認したかった。


 柄池は倒れていた人のそばに行く。

 倒れていた人は男性で、特に外傷もないが、目の方向が明後日の方へと向いていた。


「生きてはいるようだけど、なんだ……? どこか別の世界に連れていかれた感じだな」


「意識もちゃんとあるみたいだけど、これはたぶん、ほっておけば戻る感じだと思うよ」


「愛川さんがそういうなら、大丈夫かな?」


「分かんないけど、きっときぐるみの動物たちがあの人を迎えてくれると思うよ。夢の世界に絶対行ったと思う」


「そうなの? それはそれで不安な気が……」


 愛川は問題はないと話すも、根拠のない話にどことなく柄池は不安を感じた。

 柄池は改めてと言葉を続ける。


「とにかく、もう行こう。なんだか不安だけど、巻物は貰っておこう」


 柄池は巻物を回収してから部屋を後にする。

 男性については潜入している身分なので、今できることはないと、放置することにした。

 ちなみに男性は顔を叩こうが、愛川が顔を四方八方に引っ張っても、にゅるじを置いても起きなかった。

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