3 偽物認定
オルトスの偽物認定に柄池はすぐに反応した。
石垣から聞いた偽物の救済者の存在、そして、オルトスのまたという言葉、予想は出来ていた。
「そんな、俺と愛川さんは確かに救済者なんだ。別の世界から来たんだ」
「ああ、救済者は別の世界からくるってのも分かる。ただな、俺は見たんだ、少し前に別の世界から来たという別の救済者様を。同じ腕輪をしている人をあんたたちが来る前に」
「待ってください。その人と俺達も救済者ってことはダメなんですか?」
「ダメだ。基本的に救済者は一度に一人で、三人以上呼ばれることはないし、一度呼んでからすぐに別の救済者が呼ばれることも基本的にないんだ。それで基本的でない例なんて今まで一度もない」
柄池はどちらとも認められないかと話すも、オルトスは偽物だと判断した理由を語る。
その柄池の背後で愛川は何かをしていたようだ。
彼の対応は好ましくはないが、偽物と認定した割に丁寧に語ってくれることはありがたかった。
「ですが……俺達は」
「ともかくだ、あんた達はそこまで悪いことをすると思えない以上、すぐ立ち去るならこちらから何もしない。こっちに用はないんだろ? なら悪い話じゃないはずだ」
反論はしたいくても出来ない柄池の前に、オルトスはこちらへの対応を求めた。
結局こちらの救済者としての証拠は腕輪頼みであるため、こう畳まれると反論が出来なかった。
ならばこちらは去るしかない。
「分かりました。それで」
「あなた! オークのくせに救済者の真偽も分からないのですか!?」
柄池の諦めの言葉をはねのけるよう、後ろからロカリアの言葉が大きく響く。
自分とオルトス、マトスが驚く最中、愛川はロカリアの声が出たスマホを前に出していた。
「ロカリア王女様! 知り合いでしたか!?」
「そうですわよ! あなたが先に見た方が偽物だと判断できないのですか?」
「しかし、俺の見た方の救済者様は……」
「ならば、私の方が嘘を見抜けない愚か者と言いたいわけですわね? 今すぐそっちであなたをリフティングしながら、村を100周してもいいという訳ですわね?」
「いえ、それは困ります! またあんな目に合うなんて村長の立場が……」
ロカリア王女の声の前にオルトスは低い姿勢になって勢いを押し切られていた。
その横で愛川は柄池へ視線を送る。
「これでよかったでしょ? 柄池君」
「愛川さん、ありがとう。助かったよ」
愛川の確認に助かったと礼を柄池は述べる。
更に柄池はロカリアの方への言葉も続ける。
「ロカリアさんもありがとう。王女という地位に本当に助けられたよ」
「ふふふ、あなたの地位にあんなことを言われれば、こう言いたくはなりますわよ」
柄池は困難を救ってくれたロカリアに礼を言うと、喜んでくれた。
これで、オルトスは認めてくれる
と考えていたが。
「分かりました。引き返せという言葉は取り下げます。だが、それでも俺は偽物という認識は取り消せません」
「何を言いますか。この場に及んで……」
オルトスの認めないとの発言にロカリアは口を出す。
このままでは彼女が押し切ってしまいそうな気もして、柄池から言葉を出そうとする。
「ロカリアさん。まずは話を聞いても、ね」
「……そうですわね。話は聞きましょう」
柄池からの説得にロカリアは冷静になって話を受け入れた。
仮にも彼は偽物として柔らかい対応をしていたので、出来ればこちらも柔らかい対応をしたい。
オルトスから説明が始まる。
「あの救済者様はな、俺の母親を助けてくれたんだ。けがで苦しんでいるところをな。だからあの人達には恩があるんだ、でかい恩が」
「あの人を救済者と認めること、それが恩に対してせめてもの報いになるとの訳ですか?」
「そういう訳だ。いくら王女様でもあんたたちを本物と認めるわけにはいかないんだ」
柄池は自分の解釈を話すと、オルトスは肯定しつつ認められない理由を話す。
そして、オルトスはこう言葉をつなげる。
「だからよ、本物と認めればあの救済者様への裏切りになる。それはどうしても避けたいんだ」
強い意思を込めて、オルトスは柄池を見た。
それも、ちょっとのことでは曲がらないくらいの意思。
ロカリアはそれを見て反応を出した。
「なかなか確固な意思がありますわね。ですが、こちらを認める方法はあるのですか?」
「そうだな。方法がないわけではないな。確かこの村にエルフの女性が来ていて、その人が好きな人がさらわれたんだ。俺たちが出ようと対応していたんだが、そのエルフの女性を助けてくれるなら認めてもいい。まあ、救済者様の資格がある位には認める」
「資格がある位、ですか……? なんと中途半端ですが、助ければ認めてくれるわけですわよ、柄池さん」
ロカリア王女は中途半端な認定に不服を言いながらも、柄池に話を振る。
答えは決まっていた。
「分かった。助けてほしい人がいるというなら、俺は出ないわけにはいかない。その話、乗ります」
柄池は話に乗ることにした。




