1 雷の都市を発ちて
雷の都市を発ち、柄池と愛川は水の都市へと向かう。
今柄池は歩きで移動して、めぬえもんに乗る愛川に視線を送る。
「めぬえもんもそろそろ二人を乗せられるようになりそうかい?」
「うん、馬での行動にも慣れたから、そろそろ二人を乗せられそうだって」
「それはいい。二人で乗れれば移動も早いからね」
愛川を通じためぬえもんの言葉に、柄池は良好を呟く。
現状、愛川を乗せることが大半だが、めぬえもんに乗る人を交代しつつ、移動していた。
ただ、馬としてのめぬえもんも慣れてきたことから、柄池と愛川を乗せて移動ということにそろそろ移れそうだ。
焦る必要はないのも事実だが、速い移動手段が確立するのは早い方がいい。
時間を短縮できれば、それだけ後に余裕も生まれるためだ。
ここで、スマホからの着信音が響く。
「あれ、スマホ鳴ってない? 柄池君の」
「誰だろうか? アイゼさん……かな?」
愛川はこのことで呟くと、柄池は電話の連絡主について話しつつ、スマホをとる。
アイゼであればと考えれば、少し嫌だというのが正直な感想である。
連絡してきたのはロカリア王女で、電話からの第一声からすぐに分かった。
「柄池さん。旅は順調でしょうか?」
「ロカリア王女でしたか。電話手段もあったのですか」
「ええ、こうして電話も出来ますし、そちらの光景も見れますわね」
「え? そんなことまで出来るなんて、意外なところまで改良されていたんだ」
「それと、柄池さんの言葉で気になったことがありまして」
柄池がスマホの機能で驚くと、ロカリア王女から柄池の言葉について話が来る。
この世界にはスマホ以外にも無線での電話手段が確立しているようであった。
「え、私の言葉がですか?」
「そこですわよ。私に対して謙遜した物言いはもうやめてもらいたいですわ」
「そんな、あなたは王女ですよ。礼儀は払わないと」
「もう、私たちは仲間では? ならば、気の苦しくなるような間柄は取っ払っても問題ないですわよね?」
礼儀は必要と柄池は話し、ロカリア王女は仲間だという理由を盾に反論をする。
彼女の言い分も聞いてみれば確かにと頷ける。
おそらく戦闘でも頼ることになるであろうから、仲間としてこれから付き合うことが多くなるはずだ。
「確かに……分かりました。これからは同じ仲間として扱うことにします」
「ええ、それで構いませんわよ。なので、私のことは」
「では、ロカリアさんとこれから呼ぶから」
「えっと……呼び捨てで構いませんわよ?」
「俺はさん付けの方がしっくりくるし、それでお願いします」
「……まあ、分かりました。それで結構ですわよ」
さん付けはしたいとの柄池の言葉に、ロカリア王女は一応の納得を話す。
その時に柄池の視界は小さい人型の生き物がこちらに向かうところを目撃する。
愛川は上半身を前に出して声を出した。
「あれ、誰だろう? こっちに小さい子供が来るよ」
愛川からも誰かと疑問を浮かべていた。
「こっちに用がある感じかな。ごめんね、ロカリアさん。電話を切るよ」
「そうですか。ならば、仕方ありませんわね」
「また、気軽に電話して構わないから」
柄池はロカリア王女に電話を切ると話す。
その直後にライオロスがポーションビンから出てきた。
「あれは……オークの子供ですかね」
「オーク? 豚に近いモンスターのあれ?」
「はい。ただ、知能は高いですし、近年のオークは無暗に争うことはしないですので」
「じゃあ、接触しても大丈夫か」
ライオロスの解説もあって、接触も安全と柄池は判断する。
会話で遅れてしまったため、このタイミングでロカリアとの連絡を切った。
近くで見ると、オークの子供は緑色の肌で、鼻もどこか豚に近い。
服も原始的な物ではなくて、柄池の世界の人間の子供も着るような現代的な服であった。
オークの子供は目を輝かせてこちらへ視界を向けていて、その対応に先に行ったのは愛川であった。
「えっと救済者様だよね?」
「そうだよ。どうしたの、君?」
「近くに来たって言うから、ここまで来たんだけど、会いに行こうって思ったんだ」
「おお! なんだか、有名人がされる反応みたいだね!」
オークの子供の目的に、愛川が感激を話す。
有名人と言われると、自身のやってきたことが知名度として高まってきているのかと感じてもいた。
愛川の手にはスマホがいつの間にか握られていた。
「ねえ? 近くのオークの村に来ない? 歓迎するから」
「行ってもいいんじゃない? ねえ?」
誘いに愛川はスマホを振りつつ、柄池に訴える。
愛川からも契約したいという訴えだ。
「愛川さん落ち着いてね。ともかく、どうするかな? どれくらいで着きそうなの? オークの村って」
「あれ? えっと……そんなに遠くはないし、一時間もせずにつくよ」
「まあ、村に顔見せ程度なら寄り道してもいいかな」
オークの子供は疑問を浮かべてから話し、柄池はその時間ならばと判断する。
疑問について引っかかったが、時間の把握に時間がかかったためみたいだ。
「じゃあ、寄ってくれるんだね?」
「ああ、村に行くよ」
「やった! 俺はマトスって言うんだ。お茶飲むのが趣味なんだ、よろしくね」
柄池の決断にオークの子供、マトスは一飛びして喜ぶ。
柄池達はオークの村へと寄り道をすることになる。




