17 意思強き道にライバルは必然と現れる
騒動が終わり、愛川と柄池は部屋へと戻る。
そして、就寝の時間を迎える。
今では日付が変わるかというくらいの暗闇が窓から漏れ出してもいた。
その中で明かりを付けて愛川は柄池と同じ部屋にいた。
「気持ちいいー、癒されるー」
愛川は治癒魔法を受けつつ感想を言葉にする。
「今日の使用分だけで傷は治りそうだ。やっぱり、女性に傷跡は良くないからね」
「ヤな気分になるか不安だったけど、これは何回でも使われたいわー」
柄池は治癒魔法セットで治癒しつつ、愛川は治癒を何度も受けたいと話す。
今、愛川自身は肩を露出させて、彼に肩の傷を治してもらっていたところだ。
これは愛川の要望で柄池が治癒魔法をかけていて、彼も最初は悪いと言っていたが、どうしてもとの一押しで柄池が使用するに至る。
「好評で何よりだ。改めてカイゼルさんにも感謝したいね」
「本当に」
「よし、傷跡も全くないし、これにて肩の傷は完治だ」
柄池は完治を確認する。
それを聞いて愛川は露出した部分を服で隠した。
他の男性なら肌を見られるのは嫌だっただろう。
しかし、柄池から見られるのは不思議と嫌ではなかった。
「後は寝るだけだね」
「まあ、そうだね。明日はもらう物についての話と、あとスマホの機能でも聞いておきたいことを考えないとだ」
「そっか、私はもう休んでもいいよね」
「俺も後は寝ようかと思っていたし、それじゃあ、後はお休みで」
明日の予定を聞いて、一応と愛川は確認をすると、柄池は肯定の意で答えた。
その時、部屋をノックする音が聞こえる。
「はーい。今出まーす」
そう言って愛川がドアを開けると、そこにいたのはロカリア王女であった。
「失礼いたします。愛川さん、でしたわよね? 今お話ししても大丈夫かしら?」
「あなたが、私に?」
ロカリア王女の言葉に愛川は確認を取る。
彼女から話を持ち掛けるとは意外であった。
「ええ、二人でお話ししたいのですが?」
ロカリア王女の提案に先に反応したのは柄池だ。
「そっか、にゅるじも一緒ならいいんじゃないかな?」
「にゅるじ……? えっと、その方はどなたでしょうか?」
柄池はにゅるじ同伴ならというと、ロカリア王女はその名前に疑問を浮かべる。
すると、ポーションビンから体を伸ばしてにゅるじはアピールをした。
「にゅるじはね。一緒に戦っていたスライムなのよ」
「あ……そうでしたか。そんな名前を……」
愛川の説明にロカリア王女は苦笑いを浮かべて話していた。
柄池と二人きりであれば問題だが、にゅるじが一緒であればいざこざが起きても問題はないだろう。
「まあ、私との話ならいいけど。じゃあ、行きましょう」
「ええ、それでは」
愛川は了承を伝えつつ部屋から出て、ロカリア王女について行く。
ロカリア王女について行き、たどり着いた先はある部屋であった。
そこには特に武器もなく、戦闘するにも狭い部屋である。
「では早速、切り出しましょう。あなたと柄池さんの関係についてですわ」
「え? 柄池君との……?」
ロカリア王女が聞くのは関係について、それに愛川は言葉を出す。
争いごとになるかとも少しの警戒はあったが、ただの話し合いで済むなら何よりだ。
部屋から見ても、彼女からの闇討ちはない、そう判断は出来た。
「ええ。私は言った通り、柄池さんの子供を宿すつもりですわよ。あなたが柄池さんから引いてくれるといいのですが……」
「引くわけないでしょ? そんなのお断りよ」
「そうですか」
引かないと愛川からの言葉、それにロカリア王女は理解を示す。
「私だってね、柄池君のこと好きだし。柄池君と他の女性が子作りするなんて嫌なの」
「ということは、あなたも柄池さんと子供を作る気で?」
「そうよ! 私だって、柄池君と子作りして、幸せな家庭を築きたいのよ!」
ロカリア王女の確認に、愛川は強く願いをぶつける。
愛川が幸せな家庭を築きたいと願うのは、男をとっかえひっかえする母がいたからだ。
元の世界に姉が二人いるが、それは全部父親が違う上に、母は子供の時の愛川の世話を完全に姉たちに押し付けたのだ。
そんな母を反面教師として育ったがゆえに、愛川は子供に愛情を注いで幸せにしたいという願いがある。
「分かりましたわ。あなたが引くつもりがないということは」
「そうよ」
「ならば……これからは仲間であり、柄池さんをめぐる敵としてあなたとはぶつかることになりますわね」
「まあ、私はあなたと会った時からそんな気はしてたし」
「私はこの都市で王の血統を持つたった一人の女ですわよ。それでも?」
「関係ないわよ。あなたがどんな大きいものを背負ったとしても、それで私が身を引く理由にはならないから」
ロカリア王女は身分の違いを話に出すと、それでも関係ないと愛川は言葉で押し返す。
「そうですわね。あなたは予想以上に大きな敵ですわ」
ロカリアは認めの言葉を出して、さらに言葉を出そうとする。
「ならば、敵でもあり味方でもある私ですが、よろしくお願いいたしますわね」
そう言ってロカリア王女は愛川の前に手を出す。
握手の提案。
それは愛川にも分かった。
「分かった。これからもよろしく」
その提案に愛川は乗り、手を同じように伸ばす。
ロカリア王女は味方として最低限の挨拶を握手で済ませた。
彼女はきっと強い存在となる。
敵としても味方としても。
その改めの挨拶の意味でも、握手は必要だった。




