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10 愛川戦闘中、ロカリア王女戦闘中、柄池棒立ち中

 戦闘が始まり、ハンマーが風を切る音と、女性たちの声が響く。

 その女性たちの動きはロカリア王女が片手でハンマーを振るいつつ、愛川はナイフを持ってそれを避ける。

 愛川が不利の状況と言えよう。


(道理で動じないわけね。サキュバスとの戦い方をうまくこなしている)


 ロカリア王女の戦いに愛川は心の中で苦言を押し留める。

 現に彼女を見ていても愛川の目を見ることなく、足や腕だけを見て対応していることが分かる。


 更にはリーチの長いハンマーを軽々と振り回すため、うかつに近寄ることもできず、接近しての行動もとれない。

 現に愛川の行動はほとんど避けるだけしかなかった。


「もう、全然近寄れないのは困る!」


「近寄られたらこっちが負けるのは目に見えているわよ。それに目を見られて負けになることも、ですわ」


「むむー!」


 ロカリア王女がハンマーを振るいながらも状況を話して、愛川は不平を語る。

 再度彼女は縦にハンマーを振り下ろすと、それを愛川は避けるも、ハンマーは床に深く振るった後を残す。

 絨毯が裂けて、その裏から床の破片が大なり小なり出てきていた。


(あんなの受けたら一発でも負け決定よ! 本当に!)


 ハンマーの破壊力から、愛川は下手に近づけないと心で呟く。

 ただ、何も打てる手がないという訳ではない、愛川だけであれば。


 状況の陰で、にゅるじは密かに移動を始めていた。

 にゅるじは絨毯の裏に潜んでいるので、ロカリア王女の目からにゅるじの存在は気付かれてもいないのだ。

 そこで彼女が絨毯からハンマーを離すのに力を籠めすぎたのか、やや次の攻撃に手間取る様子を見せる。

 好機と判断した。


「今なら!」


 その判断と共に愛川は鼻を広げてロカリア王女へと突っ込む。

 だが、その判断は間違っていたとすぐに知る。


「甘い……ですわよ!」


 ロカリア王女はハンマーで攻撃こそ出来なかったが、片方の握り拳での攻撃はしてきたのだ。


「うわあっ! ダメだ!」


 ダメだと悟った愛川は攻撃を避ける。

 続けて横薙ぎのハンマーの攻撃も愛川は羽ばたいて上に避けた。

 人間の状態であれば、先ほどの攻撃も避けれなかったであろう。


「安易な行動ですわよ、その接近は」


「ちょっと近づいても、うまく戦えないわね……ここは距離を置くしか」


 ロカリア王女の注意に、愛川は彼女から距離を離す。

 彼女は接近戦でも戦えることから、あのまま近づいていても分が悪いと判断したためだ。


 だが、機会は来た。

 彼女の隙ではなく、別方面での、だ。

 ポーションビンからひびが入る音が聞こえる。


「な、ポーションビンが……」


 ロカリア王女がライオロスが入ったポーションビンを見ると、ひびが入っていた。

 そのひびは密かに動いていたにゅるじが巻き付いて絞めていたからだ。

 にゅるじはさらに締め付けてポーションビンをついに割る。


「私だけじゃないのよ。戦っているのは!」


「スライムめ、なんてことを……」


 愛川の言葉にロカリア王女は苦言を示した。

 割れたポーションビンからライオロスがこちらへと向かう。


 そう、ライオロスが愛川へと憑依する作戦であった。


「へいへい、ライオロス! かもん!」


 愛川は手招きしてライオロスを招く。

 それを許さじはロカリア王女。


「ならば、憑依する暇もなくせばいいことですわね!」


 ロカリア王女はこちらを向いて、ハンマーで突くようにこちらへ突進する。

 それを愛川は横にかわすも、すぐさま彼女は横に薙ぎ払って、こちらは上に飛んだ。

 ライオロスは表できる用意はできていたもの、こちらはこの通り動き回らないといけない状態だ。

 憑依は確かに封じられている。


 しかし、その封じられた時間もすぐに解けた。


「にゅるじ、ありがとう!」


 愛川のお礼。

 にゅるじはロカリア王女の背後へと飛び掛かっていたのだ。


「な? スライムが……ですが、この程度で私の動きを阻もうなど!」


 にゅるじに触れたロカリア王女は動きを拘束されてしまう。

 手首同士を密着させて拘束自体は出来ていたが、彼女は腕の拘束を解こうと力を籠める。

 徐々に手首の距離も開いていった。


「うわあ! 私だってあんなこと出来ないよ!」


 愛川の突っ込み言葉の後に、ロカリア王女は拘束を完全に解いてしまった。

 結果、にゅるじは二つに分かれてしまう。

 拘束の時間は短く、その時間でこちらが目を見ることも難しいかもしれない。


 その時間でできたことはあるのだ。


「……ふう、私の阻みは結局無駄というわけかしらね」


 ロカリア王女は愛川の様子に大きく動じることなく呟いた。


(初めてでしたが、うまくいって何よりです)


「これが憑依ね……不思議な感じ」


 心の中でライオロスの声が響き、愛川は体の中の感触を不思議と表現する。

 あの拘束した時間で愛川は彼の憑依を成功させたのだ。

 彼の癖であるスナップも同時に行う。


(モンスターの、しかも女性の体で動かすのは初めてですが、この際、多少の不都合は止むをえません)


「ともかく、この体預けるから。後はうまく戦ってほしいの」


(了解です。あとはうまくやってみましょう)


 動きは任せると愛川はライオロスへと託し、彼も了承する。

 そして、愛川の体は持っていたナイフを再度構えた。


 愛川はロカリア王女へと再度攻め込んだのだ。

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