8 愛川のおこゲージ上昇中
愛川と柄池は強制的に分断された。
愛川自身は薄暗い通路に取り残されたと言えよう。
通路には忙しない足音しか聞こえなかった。
その頃の愛川は連れていかれた柄池の行方を探ろうと、周囲を動いていた。
「あの王女め……! 柄池君に何をしているのかしら?」
強引な分断に愛川は怒り交じりの疑問をぶつける。
あんな強引なことをして柄池を奪うことを許したくはなかった。
そして、ある部屋のドアへと当たる。
そのドアには二人の護衛が付いていた。
部屋自体に特別な装飾はないも、護衛がいるというだけで特別扱いが分かる。
護衛二人は緑の鎧と黄色の鎧を纏う。
「間違いない。王女は絶対にここにいるはず。根拠はないけど!」
愛川はドアの奥に王女がいることを確信して、ドアの方へと向かう。
そこで護衛に阻まれる。
「ここから先は救済者様でもお通しはできません」
「柄池君が王女にさらわれたのよ。探しているから通してよ」
「その方はいません。それに無暗に探されるのも私たちは困ります」
柄池を探していると愛川の言葉は黄色護衛から通さず、おらずと拒否される。
「絶対にいる気がするから通して!」
「ダメです。無理に通ろうとすれば、こちらも押し返させていただきます」
「むー……確認ぐらいいいでしょ? 部屋を見たいのよ、どうしても」
黄色護衛が再度ダメと話すも、愛川はそれでも引き下がらない様子を言葉でも見せる。
「ならば止むをえません。こちらも力で強引にことを進めるしかないようです」
「ん? 本当に戦うの?」
「無駄に足掻かなければ、怪我はさせませんよ。おとなしく捕まることです」
愛川は戦闘の意思を聞くと、おとなしくすれば問題ないと黄色護衛は話した。
護衛二人は武器を構えて戦闘の意思を見せる。
「そんなおとなしく捕まるわけないでしょ? でも、二人がかりだと負けるし、ここはこうする」
「な!? 逃げるか? 待て!」
そういいつつ、愛川はこの場から逃げて、黄色護衛が声とともに追うと緑護衛もそれに続く。
護衛は鎧を纏っているためか、こちらよりも走る速度が遅かった。
だが、自身に体力の問題があるので、早めの対処は必要である。
しばらく愛川が通路を走ると、像が並ぶ場所へと入ることになる。
三つの像は台座の上に置かれていたが、一つだけ台座のみが置かれていた。
「これならいける!」
愛川は像が置かれていない台座を見て一つの確信をする。
もし、戦闘が避けられなければ、ポーションビンにはにゅるじもいるため、二人でいく心づもりでもあった。
しばらくして、追ってきた護衛二人がこの通路へと入っていく。
愛川もそこにいたが、今回はバレない策を凝らしたので、ここを素通りしてくれるはずと予想する。
護衛二人は会話をしていて、先に緑護衛の声から聞こえてきた。
「どこへ行ったのか、あの救済者様は?」
「俺も行ってしまったし、早く俺だけでも持ち場に戻らないとな」
「なに、すぐ見つかるだろうから気にするな。ここで見つからなかったら、その時は戻ればいい」
黄色護衛が持ち場への心配を語りつつ、緑護衛は気にするなと語る。
護衛達は像が置かれた道を素通りしていく。
「しかし、この像もよく出来ているな。まるで生きているかのようだ」
「そうだな。どれもこれもはく製と見間違わんばかりの出来具合だ」
「ん? ところでこの像はなんだ?」
黄色護衛はある像を見て、声を出した。
その像は紫色の髪で黒い翼と尾を生やし、露出の高い服を纏いつつ、独特のポーズをとっている。
「ああ、あれはサキュバス像だ」
「サキュバス像?」
「あの像は誰かがあの姿のサキュバスを打倒したから、その栄光をたたえるためと作ったんだよ。俺の知らない誰かの栄光のあかしだと」
「そんな栄光か……俺にはよく分からんな」
緑護衛はサキュバス像について語り、黄色護衛は栄光について語る。
そして、その像の横を二人の護衛は通っていくのであった。
しばらく沈黙が流れる。
「って、そんな像があるか!」
緑護衛は振り返って走りつつ、サキュバス像に対して突っ込む。
「腕輪もしてたな! やはり、救済者様の化けた姿か!」
黄色護衛も同様にこちらに向けて走っていた。
愛川の像の振りをしてやり過ごす作戦、それは失敗に終わる。
「ええ!? 自信あったのにい!」
看破された愛川は空を飛んで逃げる。
護衛にもサキュバスの姿は見せていない、ならばこの姿で愛川だということはバレもしない。
その判断で行動したものの無駄であったようだ。
やはり、ここは正面から戦うべきか。
そう思った時であった。
「「なに!?」」
急に後ろから驚きの声を出すとともに、護衛二人は脚をつまづかせる。
その足には紐になったにゅるじが護衛二人の足に障害となってつまづかせていたのだ。
「嘘!? にゅるじ、すごい!」
にゅるじのファインプレーに愛川は驚く。
更にとにゅるじは倒れた護衛の体を紐として縛り付けて、拘束までしていた。
「な? スライムが!? さっきまではいなかったはずなのに」
黄色護衛がにゅるじの存在に意表を突かれたと話す。
愛川としても、この行動を聞いてもいなかったので、誤算であった。
「こうなれば、こちらも本当の姿を」
「よく分からないけど、それはダメ!」
顔を上げた緑護衛の言葉の途中に愛川は制止を釘として刺す
そして、愛川の目が光る。
その光を護衛二人は見てしまった。
「「うわあ!」」
護衛二人は声を挙げた。
サキュバスは目を光らせて、幻覚や軽いめまいを見せることも可能なのだ。
護衛二人の声はめまいを起こしての声だろう。
そして、それだけではない。
「こうして二人並んでいるレアケースだし、今回は二人の意識の中へと入っちゃうわよ」
愛川の宣言。
サキュバスは夢の中に入るモンスター。
その夢とは無意識でもあり、こうして意識がある状態でもこちらの目を見た生物は無意識へと潜入されるのだ。
「「や、やめ……」」
護衛二人の声はむなしく、愛川は近づくとともに透明になっていく。
愛川は二人の無意識へと潜入した。




