6 地味だけど、必ずこける呪いは王女に致命的です
会食を終えて柄池と愛川は城内の通路を歩く。
その柄池が歩く通路から愛川の声が響く。
「んー、私があの時触れれば、心を読めて解決だったのに」
「それはさすがに無理だね。兵士もいた上に触るようなことをすれば、阻止されるよ。これでも俺たち部外者だよ」
「うー、触れれば、触れればー」
柄池の話に触れればと後悔の言葉を愛川は呟く。
触れることで心の読める彼女であれば解決は出来たが、それは無理であったろう。
部外者に急に触れられるなんて、王女が許しても兵士は許さない。
強引に触れればさすがに戦闘、そしてこちらが捕まるという未来は見えていた。
「あと収穫はあったね、会食で。当然と言われればそうだけど、俺たち以外にも救済者はいるってことは」
「そうだね。会えるかな、私たち以外の救済者に」
「その人たちが生きているって話はしているようだし、旅していれば会えるかもしれないよ」
愛川からの願望に柄池は会えるかもと話す。
心を読んで大騒ぎになればその収穫もなかっただろうし、その収穫に限れば心を読まなくて正解とも言えよう。
すると、通路からロカリア王女が現れ、柄池は口を開く。
「ロカリア王女、どうかなさいましたか?」
柄池の疑問にロカリア王女は周りを見渡す。
確認をした後に彼女はこちらに近づく。
そして、こう小さく呟いたのだ。
「私、命を狙われているの。話をしたいのですわ」
「え? なんてこと……!?」
ロカリア王女の告白に柄池は驚く。
その告白した顔は心細そうな顔をしていた。
王女ともなれば、着け狙われることもあるだろう。
その話に柄池はすぐさま行動をする。
愛川へ向け足早へと移動を始める。
「愛川さん。ロカリア王女は命を狙われているって」
「え? じゃあ、助けないといけないわ、私たちで」
柄池から小さい声で報告して、愛川は助けようと意思を示す。
その様子を見ていたロカリア王女は何故か心細い顔から驚き顔へと変わっていた。
「先ほどの話の提案、これを隠れて言うためでしたか。気付かないですいません」
「え、っと……そう、その話をしたいからついてきてくれるかしら?」
「はい、そういう話であれば仰せの通りに。愛川さんも一緒に行こう」
戸惑いを見せつつロカリア王女は話して柄池は了承するとともに、愛川も頷く。
彼女が愛川を先ほどの話で除外したのは、もしかすると頼りにならないから判断したのだろう。
だが、愛川の心を読む力は大いに力になるため、話に同行させれば心強い。
命を狙う相手を探ることもすぐさま可能となるためでもある。
「では、私が部屋へと連れていきますわ」
ロカリア王女は小さい声で移動をすると話す。
そして、柄池の手を掴んで移動を始めた。
強く手を引っ張る荒々しい動作に急いでいる様子が見える。
しばらく走るとロカリア王女は壁に手を付けて、壁を押す。
その壁は隠し扉であったようで、縦に回転して奥への通路が開かれた。
「ここを通れば部屋ですか」
「ええ。通りましょう、そこで」
柄池からの確認に、ロカリア王女の通るとの指示をする。
彼女が通り、続いて柄池も通り、愛川もその通路を通る
のだが
「え?」
驚きが愛川から出る。
ロカリア王女は扉を閉めてしまったのだ、愛川を残して。
「ロカリア王女、愛川さんがまだ残ってます! 愛川さんは力になるので、開けてください!」
「いえ、急いでますので! 今は二人で行きますわよ」
「待ってください! 命が狙われているなら、愛川さんを人質にされることもありえます! ロカリア王女にも良くないことです!」
「……大丈夫です。きっと、兵士が手厚く保護してくれます」
柄池の強い提案にもロカリア王女は受け入れず、愛川の保護を約束すると話す。
彼女の視線はこちらを向いていなかった。
壁に挟まれた愛川は壁を叩く。
「開けて! 開けて!」
「そんな……」
「もう、開けなさい! そんなことすると、怨霊になって一日一回必ずこける呪いを王女にかけてやるわよ!」
柄池の声を出すも愛川の声はロカリア王女の耳には届かない。
自身が壁に手を付けて扉を開けようとするも、扉は微動もしない。
「あの扉は大丈夫ですわよ。この都市一の力自慢の兵士と私だけしか開けられませんので、ここからは歩きましょう」
「な、なぜこんなことを……?」
扉についてロカリア王女が語ると柄池は一連の行動への疑問を呟く。
それにも耳を貸さず、彼女はこちらの手を掴んで引っ張る。
その力は移動するよりも強く、柄池は成すすべなく連れていかれる。
「ごめんなさいね、命を狙われているというのも嘘なの。この部屋にどうしても救済者様を連れていきたかったからですわ」
「嘘……? 嘘だったのですか……?」
ロカリア王女からの嘘に柄池は驚く。
手を引っ張られて、部屋に連れていかれていく。
「それと、一ついいですか?」
「待ってください。なぜこのようなことをするか話を」
「すぐに分かりますわ」
柄池の話を聞かずに背を向けつつ、ロカリア王女は話を続ける。
こちらへと向いたと思えば、すぐにピンク色のステッキで柄池の頭に触れた。
すると、柄池の意識が真上にすっと抜けていくことを感じた。
立つ意識さえもなくなってきたのか、支える腰が砕けてしまう。
ここで完全に意識を失ってしまえば、まずい。
何をされるかも想像がつかない。
「な、何を……?」
「このステッキはね。男を簡単に操り人形にできる便利な道具ですわね」
「な、まずい……」
ロカリア王女の説明を聞く余裕もなく、柄池は這って逃げようとする。
しかしそれも許さずと、彼女はこちらの前へと移動してしゃがむ。
退路が断たれたが、まだ他にあるはずと希望を捨てはしなかった。
「このステッキは一度触れるだけで操り人形にできるのですが、あなたは精神的にも強い方なのですわね」
「にげ、ないと……」
「流石の救済者様ですが、これでもうあなたは操り人形ですわね。柄池さん」
それでも逃げる意思を示して柄池は行動をするも、ロカリア王女はそれをも軽く踏みつぶすように言葉と共にステッキを振った。
再度、意識が真上に抜けていく感覚。
柄池の意識は完全に消失した。
*補足
パワー
この都市一の力自慢の兵士 = ロカリア王女




