17 ある都市での隠れた会話
白を基調とした、とある豪華ながらも気品のある大部屋で、一人の白い髭の男がいた。
その男は正面の上向きの段差を挟んで、女性へと頭を下げていた。
「ごきげんうるわしいでしょうか? ロカリア王女」
白い髭を綺麗に生やしたその男は女性に挨拶をした。
女性は気品よく椅子に座っている。
男の名はエイローン・ヴォルガント、商人としての名は周囲の都市にそこそこ知られている男である。
周辺都市の経営のパイプも多くそろえて、土台も盤石な商人と知られている。
「機嫌は良い方ですわね。あと、別に王女の肩書は呼ばなくて結構よ」
「まあまあ、本当の肩書は市長と知ってのことですが、あなたもそういうように言っていますし」
「お世辞がうまいですわね」
エイローンのお世辞を受けて、ロカリアは褒める。
ロカリア王女、本名ロカリア・スルトベルツはこの都市のトップで、都市そのものの権限を握っている人物。
ロカリア本人が王女として振舞いたいと考えがあって、王女と呼ぶように言っていた。
都市の経営、発展も実績十分で、王女と呼び慕っている市民は多い。
現にその王女の傍には信頼できる護衛が二人付いていて、エイローンから離れたところには武器を持った兵が10人もいた。
若いながらもその実績と信頼に評価もしたい部分がある。
それこそ、エイローンの功績と比較すれば大きな差があるほどにだ。
「それはともかく、早速の要件ですがね。救済者さん、この都市、雷の都市に来るようですよ」
「あら、救済者が? この都市に来る用事なんてないでしょうに何を?」
「さあ? 分かりませんが、なんでも何日か前に新しく連れてこられた二人組だと聞きます」
「なんですって? また、救済者が増えたと?」
救済者のことを話すエイローン、その話に驚くロカリアがいた。
「目的は分かりませんが、意外とただ単に通過するだけかもしれません。この世界に来てそれほど日が経ってないわけですから」
「まあ、そうだといいのですわね。ん、二人組? 今回は二人一緒なのですか、救済者は?」
「そうです。二人とも見ない顔と聞いてまして、二人が連れてこられたと考えられます」
「普通なら一人だけで来ると言われているのに、このパターンは珍しいことではないですか」
救済者の説明をエイローンから受けて、ロカリアは珍しいとの印象である。
「私めは特に王女にしてほしいことはございませんので、あの救済者さん、どう扱っても構いません」
「あらそう」
「無論、食べてしまっても」
「お世辞の後は御冗談? 面白いことを……」
エイローンの言葉に冗談かとロカリアは返した。
彼女の言葉には少し嫌悪が混ざっていると見て取れる。
「一応名前を聞いておきますか? 救済者さんの」
「ええ、教えてもらうわ」
「男の方が柄池、女の方が愛川、と名乗っております」
「男女の組の救済者ね。しかし、あなたもそんな新鮮で貴重な情報をよく握っていられるわね?」
エイローンからの救済者の情報にロカリアはよくそんな情報を持っていると疑問を浮かべられる。
自身としてもこの情報経路を話すことはつまらなかった。
「情報収集が優秀な人材がいるのですよ」
「本当に優秀で、すごいですわ。あなたとのパイプも価値が出てくるくらいに」
「それでは私めからは以上で、下がりましょう」
「また何かあれば、知らせてもらうわよ」
エイローンが下がると、ロカリアはまた何かあったら来るよう伝える。
そして王女のいる大部屋からエイローンは出ていき、しばらく通路を歩いていた。
通路は窓もなく、清潔感の溢れる白色で、ごみらしいごみもない。
さらに通路に他の人は誰もいなかった。
「さあてと、王女への仕込みは済んだか。あのロカリア王女は黙ってみているわけはないからな、この件は」
エイローンは独り言を呟く。
ロカリアに聞かれれば懲罰物ではあったが、それも周りに人はいないことから気にする必要はない。
「救済者さんにはこの都市でトラブってもらうかね。まあ、何事も無かったらその時はその時だ」
エイローンは今回の救済者についてはまだ分かってないことも多いことから、何かしらの出来事を起こす火種が欲しかった。
その火種が今回のロカリアとなる。
「トラブってどうしようもなかったらここでおしまいだし、頑張ってもらおうかね! 救済者さんには!」
口から出す言葉がエイローンの気分をさらに掻き立てる。
「なにせ、この都市の王女は! あんな姿をしていてあんなだしな! ははは! 何が起こるか! どんなふうに転がっても、俺には面白くてしょうがないぜ!」
エイローンは笑いつつ通路を移動していた。
柄池達、そしてロカリアも含めてこの会話を知る者はいなかった。
そしてこれから起こることも。




