9 約束の勝負、行方
戦闘の途中、黒に近い紫の煙が湧き始める。
自身は体を動かそうにも全く動きがない。
動かないうえにまずそうな状況、柄池は推測した。
(これはもしや、怨霊になろうと!? こんなときにか!)
柄池は身動きが出来ない状況で、カイゼルもその様子を見て動きを止めた。
その様子から先に愛川の声が出てくる。
「柄池君!」
「分かんねけど、これやべえやっちゃあ?」
愛川、石垣の順に不味いと話す。
(怨霊になった理由を考えれば、考えられる理由は……があ!!)
思考する柄池に電流の如き痺れが来る。
このままであれば、怨霊に憑りつかれた状態になるであろう。
最悪な状況として、自身の体が怨霊に憑りつかれて暴れる可能性、それも考えられた。
この状況にカイゼルからも言葉が出る。
「どうした!? なんとかならないのか?」
カイゼルは剣の構えを解いて、話しつつこちらによる。
(……ライオロスさん、もう一度、思い出して……ください。なぜ、この場で戦うのか?)
「……」
柄池が心の中から、ライオロスの説得を試みる。
彼は無言を貫いていた。
考えられた理由が正解ならこの説得が一番効くはず。
それを信じて、柄池は説得を続けた。
(怨霊になる道から……逃れるためでしょ? こんなところで……怨霊になるなんて、不本意では?)
「……」
(この方法で無理ではないです、意志を強く持ってください。まだあるんですよ、やってないことは)
柄池は沈黙のライオロスに優しい口調で説く、まだ駄目ではないと。
説得はまだ柄池の口から続く。
(きっと、俺の体ではうまく動けなくて、この戦いに満足いかなかったからでは? 怨霊になった理由は)
「……」
柄池は話す。
この理由は憶測だが、ライオロスは柄池の体に慣れていないことからこの理由が最初に思い浮かぶ。
柄池としてはかなり動けているだろうが、憑依しての動きは回数として判断しても慣れない事は分かる。
まだ彼は沈黙していたが、紫の煙はすでに湧くこともなかった。
この説得は効果がある。
(でも、まだ必殺技とか得意技を放ってないのでは? 俺の体に遠慮なんかせずに存分に力を出し切っていいんですよ)
「……」
(俺の体はケガするようなことでも大丈夫ですから、やってみましょう)
黙るライオロスに得意技を出す提案を柄池は話す。
そして、黙っていた彼は自らの意思で柄池の口を動かした。
「了解しました、それと迷惑をかけてすいません」
(なに、大丈夫さ)
ライオロスは了解と伝えて、柄池は大丈夫と話す。
カイゼルは安心の表情へと変わった。
「危ない状況は脱したようで良かったです。戦いを再開して構わないようですね」
カイゼルは言葉と共にこちらとの距離を開ける。
愛川と石垣も安心の様子を見せていた。
(……そうですか……分かりました、その得意技で行きましょう。俺は少しも力を入れないので、全力で俺の体を使ってください)
「いいのですか? 本当にそこまでしてもらって」
(少しでも力を入れれば、得意技に狂いが出るでしょ? ならば、俺が寝たように力を抜けば、自由にできるはずです)
「了解しました」
目を閉じて柄池は眠るかのように楽にして、ライオロスは了解と話す。
これで柄池の体を彼は完全に操作できるようになった。
カイゼルは剣を構え、ライオロスが語ろうとする。
「カイゼル、あの技を出そう。受けてくれるか?」
「あの技か? ならば、全力で防御に徹する必要があるな。構わない」
ライオロスがあの技と名を出すと、カイゼルは防御に移る。
彼は柄池の体を自らのように、真正面に伸ばした腕と握った剣を構えた。
「いくぞ……!!」
剣を握った腕をライオロスは急速に真後ろに引き込む。
そして、極限まで腕を引っ張ってから、前に戻る力を利用して解放させる。
腕の力を、真正面に。
「受けよ! 竜殺槍を!!」
戻る力を全力の突きに乗せて、ライオロスは真正面に放った。
柄池が感じたことのない力を感じる。
その突きの衝撃は空気の遮りを無視して、前へ前へと突破していく。
衝撃はカイゼルへと命中した。
「ぐっ!!」
命中したカイゼルは衝撃に声を漏らす。
剣で衝撃を防いではいたが、防御の姿勢でカイゼルは大きく後方へと飛んで行く。
衝撃波はそれでも受け流せずである。
そして
「ぐほあっ!!」
カイゼルの背は後ろの壁へとぶつかり、大きな鈍い音を立てた。
壁との衝撃による苦痛を受ける
のだが、彼の顔は笑みを浮かべていた。
「この技……見事だ。あの時の威力に衰えが……ない」
そう呟く、カイゼル。
そして背後の壁からずれるように床へと落ちていった。




