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踊る女神とタライは異世界に連れていくのか?

 オレンジ髪の大学生は考えていた。

 彼の名前は柄池(がらいけ)闘哉(とうや)

 状況は思考中、思考の内容はこれまでの経緯だ。


「俺は……大学へ行こうとしていて……」


 経緯を浮かべて柄池は呟く。

 サークルの仲間の女性といつもと同じ通学路を歩んでいたのだ。


「上からタライが落ちてきたんだよ。その後にかわせずにヒットして……」


 頭を触りつつ、呟く。

 柄池もまさかタライが落ちてくるとは思いもしなかった。


 自身の人生でこのようなことが起こったことは今までにはない、普通ではない出来事である。

 かといって、柄池が普通の大学生かと言われれば、違う。

 まず違うのは環境だ。


 柄池とその友人は普通では起きないことを日常の裏で解決する立場にあった。

 例えば、密かに狼男などのモンスターや雪女などの妖怪等に襲われた人を守る仕事。

 他にも人魚や天狗等、それらの抱える悩みを解決する仕事。

 戦うのは友人であったが、そのサポートや悩み解決の知恵出しなど裏方に回っていたのだ。

 モンスターの戦闘もあったが、基本は強い相手と戦うことがなかった。


「でもって、気が付いたら……こんな不思議空間にいた、しかも女神様付き」


 真っ白い空間の中、柄池の前には水色の髪の女神がいたのだ。

 周りには数多くの泡が浮いていて、その泡一つ一つにも泡が動き回ってもいた。

 その女神は目を閉じて、目に映らない何かを感じ取っているようである。


 女神としての断定はまだ早いかもしれない。

 だが、そのたたずまいは優しさや、慈愛、寛大さを感じ取れる、人間が出せる度量よりかけ離れたものを。

 それが理由で、目の前の女性を女神以外の何かとは思えなかった。


 その女神は目を開けて、しゃべろうと口を動かした。


「あれ、何も聞こえない……えっと、こっちは聞こえませんよ」


 柄池は首をかしげて聞こえないと伝える。

 それでも女神は口を動かしていた。

 こちらからの声も聞こえないようだ。


 女神がしゃべり終えると、こちらの様子を見る。

 柄池は手で罰を作って首を振る。


「聞こえてないんですが……って、こっちの様子にも気づいたのかな」


 聞こえないと柄池から話す。

 身振りで分かったのか、お互いに言葉が聞こえないと女神も戸惑った様子を見せた。


 女神も難しい顔だ。

 そこではっと彼女は明るい表情になる。

 天啓でも起きたのか。


 女神は柄池に指をさして、動きを続けた。


「指をさした後に……片腕を真上に掲げる、凛々しい表情でだ」


 女神のとった行動を柄池は頷きつつ、言葉に出した。

 言葉で出すと覚えやすいこともあってだ。


「次は少し離れたところまで歩いて、両手を挙げた。それで変な表情で大きく口も開けているね」


 女神の動作を実況するように柄池は言葉に置き換える。


「その次は……元の場所へと戻って姿勢を低くして、今度は頭を抱えた」


 女神の次の動作を再び柄池は言葉にした。

 覚えて損はないことと考えて、目を凝らして注視する。


「今度は俺に指をさして、横に払った……あ、なんか期待している目だ」


 柄池は動作を言葉に置き換える。

 女神の動作を終えて少し黙った後、自身はその期待の意味を理解した。


「この動き……ああ、分かった! これと同じようにすれば、言葉が聞こえるんだな!」


 柄池の理解を言葉に出した。

 そうと分かれば、女神と同じ行動をするしかない。

 柄池は覚えた彼女の動作を同じように繰り返した、同じ表情でも。


「これで行けるか……!」


 まねを終えて、どうかと呟く。

 動きは女神のやった動作を完全にまねていた。


 念のためと動作を覚えて正解だ。

 また、同じようにまねをやる必要があれば、またできるくらいに柄池は動作をコピーできていた。


「これで言葉が話せる……のかな?」


 柄池の言葉、しかしそれを聞いて理解している様子はない。

 むしろ、女神の期待の目はまだ変わらなかった。

 自分としても、突拍子のない思いつきで話せると思っていたが、これは失敗と見ていいだろう。


「ダメっぽかった……そっか……」


 残念を柄池は言葉にする。

 女神もまた期待の目が残念色に染まっていた。

 そして、彼女は下に両手をつけて、落胆したことを体で表現していた。


 その言葉の後に柄池は徐々に光に包まれていく。


「え? 何!? 何も分かってないのに終わりなの? そんな?」


 そして柄池は戸惑いを見せつつ光に包まれて宙に浮き始める。


「何か、何か言ってください! 女神様!」


 その柄池の言葉に女神は落胆した様子のまま、反応しなかった。

 柄池の視界は白に包まれた。




 その後に柄池が見た光景は緑や青空が覆う光景であった。

 その光景は科学の発展とコンクリートの造形物で覆う現代とは違う世界である。


 田舎へと飛ばされたのかもしれない。

 だが、田舎とは違っていた。

 柄池の正面をある生物が横切って飛ぶ。


 その生物は柄池が見たことのない生き物で羽が二組の鷹のようなドラゴンにも見える生物であった。

 まるでここは。


「異世界、ファンタジー……の光景だよな」


 急な変わりように、柄池の内心をそのまま呟いた。

 視線が吊られるように横切った生物を見続ける。

 それと同時に自身に起きたことに気づく。


「神隠し……いや、異世界転移か、これ」


 柄池は起こったことを口にする。

 驚きはなかった。

 自身の置く環境はやや特殊なもので、神隠しが起こったことはたまに聞く。

 最近では神隠しではなく、異世界転移ではとも噂されているのは余談である。


「転生ではないと思いたいな、タライで死んで転生なんてな……ん? あれは?」


 柄池は目に飛んでくる光景に疑問を抱く。

 ある人物がピンク色の長い髪と長いスカートをなびかせて、走ってきたのだ。

 人物が近づくにつれて、その疑問は霧となって消える。


「愛川さん! 愛川さんもこの世界に来ていたのか!?」


 柄池が言葉にした名前。

 名は愛川(あいかわ)愛理栖(ありす)

 柄池と同じサークルに所属している女性であり、今日、一緒に通学していた人物だ。


 愛川は柄池に近づいて、話しかける。


「柄池君! ねえ? タライが落ちてきたところは分かるけど、ここって何なの?」


 愛川が一息を吐いた後、聞く。

 疑問も分かるが、柄池にも分からないのが現状だ。


「この世界はさっぱり分からないな。でも、それを理解するためにここから移動しよう」


「はーい」


「大丈夫? 走ってきたようだし、疲れてない?」


「大丈夫! そんな距離は走ってないから」


 柄池から疲れはないかと聞くと、愛川は大丈夫と答える。

 彼女はサークルの中でも体力が不安な方であった。

 それも改善の傾向はあるのだが、聞いておきたかった。


「分かった。じゃあ行こう」


 柄池は移動を始め、愛川は柄池の後について行く。


 その中で柄池に聞こえないように彼女はこうも呟いた。


「なんだかよくわかんないところに来ちゃったのは分かるけど……」


「心配事もあるにはあるけど、柄池君いるし、何とかしてくれるよね!」

見て頂きありがとうございます。

異世界転移ファンタジーですが、コメディ要素も含んだ物語にしていきたいと思います。


それと、評価やブックマークをして頂けると、作者としてもこの小説を続けられる力となりますので、気に入って頂けたらお願いします。

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