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異世界で家政婦はじめました  作者: kiki
1st Chapter
5/20

Story 04

本日2話連続投稿。

説明回です。

 選択肢を失った私は、正直に話した。


 ここではない世界の人間であること。

 その世界で自分は天使の手違いで一度死んでいること。

 神様の計らいで第二の人生を異世界で送ることになったこと。

 そしてその異世界がここで、気付いたら森の中にいたこと。


 言葉が片言な分、伝わるまで時間が掛かったが、彼等は辛抱強く聞いてくれた。

 時にジェスチャーをしながら、分からない単語は本を開いて近い言葉を探して話した。

 だんだんジェスチャーゲームのようになり、シュロイズ副団長とアン先生が盛り上がった時はヴァン団長の「真面目にやれ」の一言で場が再び引き締まった。鶴の一声である。


 エイルの名誉の為にも、手違いの件は話さない方が良かったのかもしれないが、眼光鋭いヴァン団長を前に嘘や誤魔化しは通用しなさそうで、内心エイルに謝りながら結局話した。


 ちなみに精神年齢二十五歳で体は十七歳だということは、話してはいない。

 年齢の話にならなかったのと、精神年齢云々を説明するのが難しかった、とでも言い訳しておく。女は実年齢よりも若く見られたい生き物なのだ。


「なるほどね……」


「話、信じる?」


 話したものの、信じてくれるか不安だった。

 もし私が日本にいて、会ったばかりの赤の他人に「実は別な世界で死んじゃったんだけど、神様がこっちの世界でセカンドライフ送って良いよって言うから来たんだよね」と言われたら頭がちょっとあれな人か、危ない宗教の勧誘としか思わないだろう。


 でも、彼等は私の話を信じてくれた。


「俄かには信じがたい話だけど、異界人なら全て説明がつくわ。それに、嘘だと思ったら早々に話を切り上げて皆今頃寝てるわよ」


 空が白み始める頃に到着した砦の窓は、話が終わる時には陽の光を浴びて寝不足の目に染みた。

 最初は立って話を聞いていた三人は、今やベット近くに椅子を持ってきて座っている。


黎明の森(オロール・フォレ)の結界は対人間用に張られた魔術よ。人のもつ魔力に反応して、限られた人間以外は強制的に森の外に弾かれるように作られているの」


 だから魔力を持たない私は弾かれる事はなかったのだという。


「異界人で魔力がないなら私の光魔法が効かないのも当然よね」


「敵、違う、信じた?」


 荒唐無稽な私の話を信じてくれたのは嬉しい。が、イコール敵ではない事の証明にはならない。

 私はこの世界では異端なのだ。この世界の人が持つ魔力を一切持たない私は、この世界の人々にどう見えるだろうか。


 日本で生きていた頃、施設で暮らしているという事実だけで私は虐めに合った。未婚で私を産んだというだけで、母は周りから孤立した。全ての人が当て嵌まるわけではないが、常識や普通の枠をはみ出ると良くも悪くも目立つのだ。奇異の目で見るか、距離を置くか、明らかな嫌悪を向けるか。


 私という異端の存在が、彼等にどう捉えられるかは分からない。ましては、彼等は騎士だ。国にとって私が()()と判断されれば、敵と見なされるだろう。いくら私に魔力がなく普通の人間だとしても、この世界にとって私は未知の生物なのだ。


 だからこの後、自分はどうなるのか。その意味を込めて、この中で一番権力があるだろう人物ーーーヴァン団長を見つめた。


「……少なくともこの場にいる者は、お前を敵とは思わない」


 ヴァン団長は片言の言葉でも私の意図を汲み取ってくれた。安堵の溜息を溢したのも束の間に「だが……」と続ける。


「俺の一存では今後の処遇を決められない。この事は陛下に報告する」


 陛下ってことはヴェルフェイム王国の国王様?

彼等の主なのだから、当たり前と言えば当たり前だ。イレギュラーな事柄は上への報告が日本社会でも必須だ。ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)大事。

 ただ国王様という雲のような存在に、一般市民の私は正直ビビってしまう。


「怖がらなくても大丈夫だよー。陛下は温厚な方だから君の事は悪いようにはしないよ」


 ポンポン、とシュロイズ副団長は優しく私の頭を撫でた。ヴァン団長と比べたら細身の体だが、手は武人らしくゴツゴツしている。


「そう言えば、君の名前を聞いても良い?」


 シュロイズ副団長に言われるまで名乗っていなかったことに気付く。

森にいた時も砦に着いてからも、名乗る状態ではなかった。怪しい者ではないと信じてもらい、ようやく人心地ついて、お互い話のできる雰囲気になった感じがある。


「新菜……新菜・安藤」


「ニーナ・アンドゥー。変わった発音だねー」


 名と名字を逆にして言うと伝わったが、安藤は言い辛いらしい。なにやら名字が学生時代に呼ばれていたあだ名“あんどぅー”に聞こえてしまう。


「俺はシュロイズ・ヴィンセント。宜しくね、ニーナちゃん」


「シュロイズ、副団長」


「副団長は堅苦しいから、俺の事はシュロイズって呼んでー?」


「シュロイズさん」


 見たところ年上のようだし、副団長という立場的にも私より目上の方を呼び捨てには出来なかった。

 呼び捨てにしてくれない私に少し不服そうにしていたが、シュロイズさんの顔を押しのけてアン先生がベット近くにきた。


「名乗らなくてごめんなさいね?中には名前を使って呪いを発動させる術者もいるから、安易に名乗れないのよ」


 呪いと聞いて脳裏に浮かんできたのは、名前が書かれた紙を貼り心臓部分に太い釘を打ち刺した藁人形だ。きっとそういう類の呪いではなさそうだが、怖い事には違いない。


「私はアン・トンプソンよ。騎士団の医官をしているの」


「アン先生」


 出迎えた騎士のようにアン先生と呼ぶと彼女はにっこりと微笑んだ。


「で、こっちの怖い顔をしたおっさんが……」


「ヴァン・サイライドだ」


 ピクリと眉を上げ、アン先生を睨むヴァン団長は言うほどおっさんではない、と私は思う。

 彼等三人は皆、顔の彫りが深く西洋人に近い顔をしている。精悍な顔立ちをしたワイルドなヴァン団長は私の中の“おっさん”には当て嵌まらない。青年と壮年の間だろうか。


「シュロイズさん、アン先生、ヴァン団長」


 それぞれ名前を呼びながら、彼等の顔を見る。時間が経ってようやく動くようになった頭を下げられるだけ下げた。


「ありがとう」


 助けてくれて

 怪我を治療してくれて

 話を聞いてくれて

 信じてくれて


 ありがとうございます。


 ゆっくり顔を上げると、バーガンディ色の鋭い瞳が和らいでるように見えた。


「出立は明日だ。それまで休むと良い」


 ふいっと視線を逸らすと、それだけ言ってヴァン団長は部屋を出て行った。

 彼は言葉は少ないし眼光だけで人を殺せそうなほど鋭い目つきをしているけど、冷たい人間ではないと私は思う。


「私達も一度、仮眠をとってくるからニーナも少し寝てね。起きる頃には体の痺れも取れていると思うから、そうしたらシャワーを浴びて着替えましょう?」


「シャワー!!」


 森を全力疾走して汗を掻いた体はベタついてるうえ、ずっとウェディングドレスで窮屈だったから願ってもない申し出に急にテンションが高くなる。

 そんな私にアン先生とシュロイドさんはくすくすと面白そうに笑うと、二人も部屋を出て行った。


 ひとりになった部屋は思いのほか静かだ。

 日本でひとり暮らしをしていた時は、外から車の走る音や道路工事の音、隣の家からはテレビの音が聞こえていた。それがここでは当たり前だが聞こえない。

 この世界がどんなところなのか、分からないことがまだ山のように残っていて不安はあるものの、疲労が溜まっていたようで、いつの間にか私はうとうとしていた。



 ***



 目が覚めたあと、アン先生の言葉通り体の痺れが取れていたので、シャワーと着替えをすることが出来た。気分も体もリフレッシュできたが、ハプニングがふたつ起こった。


 この世界のほとんどの物は魔力を原動力としているらしい。

 異世界に来るまで当たり前の様に使っていた電力は、ここにはない。テクノロジーが発達する代わりに、魔力を原動力とした各種道具が発達したようだ。


 例えばトイレ。個室に蓋のない洋式トイレがあり、用を足した後にレバーを引くと流れていく。ここまでは現代となんら変わりない。違うところはレバーにブラックオパールに似た石が埋め込まれていて、それが魔力を感知し水が流れていく仕組みらしい。この世界のトイレは排水管がなく、排泄物を流す穴が便座の底にないため魔力を感知すると水が渦を巻き、水ごと消える。貯水タンクもないのでトイレの横に置いてあるジョーロのような瓶で水を足さなければならない。ちなみにトイレットペーパーはなく、少し硬さのある藁半紙が詰まれていて、それを使用するようだ。


 それらを知らずに普通にシャワーを使用しようと、赤く縁どられたブラックオパール似の石が埋め込まれた蛇口を捻ったら水が出てきた。現代と同じくお湯が出るだろうと思っていた私は、水を頭から被り驚きのあまり奇声をあげてしまったのだ。しかも日本語で。

 意味不明な奇声をあげた私を心配したアン先生が駆け付けてくれたが、その後騒ぎを聞きつけたヴァン団長とシュロイズさんまで部屋まで来てしまい、余計に焦ってしまった。こちらは素っ裸で、扉の先は部屋に備え付けられた脱衣所。その脱衣所に三人がいるのだ。いち早くアン先生が状況に察してくれて、ヴァン団長とシュロイズさんを丁重に追い返してくれた後、彼女は私に平謝りした。気付けなくてごめんなさい、と。


 現代で生きてきた私が当たり前のように使用していた電力、ガス、水道といったライフラインと、こちらの世界で当たり前に使用されてる魔力を原動力とした道具ーー後に魔道具と教えてもらったーーは、同じ“当たり前”でも勝手が違うのだ。当たり前という認識を変えなければと、改めた瞬間でもあった。


 では魔力のない私がどうやってシャワーを浴びたか。

 魔力を感知しなければお湯にならない蛇口は私では使う事が出来ず、かといって蛇口を捻るためだけにアン先生に浴室に入って来てもらうのは忍びないーーアン先生は気にするなと言ってくれたけど。


「じゃあ、一緒に入っちゃいましょ!」と、あれよあれよという間にアン先生は服を脱ぎ捨て、私は異世界転移半日後にして、裸のお付き合いをすることになったのである。


 シャワーで体と髪を洗っている間、水を被って体が冷えた私を心配してアン先生は湯船にお湯を張ってくれた。こちらの世界にはシャンプーとリンスはなく、固形石鹸で洗い髪を乾かした後に香油を塗るのだそうだ。固形石鹸も香油も仄かに香るベルガモットに近い匂いで、きつい香りが苦手な私でも問題なく使えた。


 入浴後、第二のハプニングが起きた。

 着替えをアン先生が用意してくれたのだが、サイズ感が全く合わなかったのだ。この世界の人は皆総じて背が高い。細身のシュロイズさんも180cm以上はあると思われる。女性のアン先生はシュロイズさんより10cmほど低いが同じ女である私から見たら高い方だ。ヴァン団長はその二人よりも大きい。恐らく190cmはありそうだ。片や純日本人の私は153cmと平均身長よりも低めで小柄な方。


 アン先生が持ってきてくれたのは彼女の替えの服で、買いに行くとなると一番近い街まで馬で三日はかかるらしい。私は窮屈なウェディングドレスから解放されるなら何だって良かったので、喜んで着替えを受け取った。嬉々として着替え、そして絶望した。


 胸が、足りない……


 入浴中も思ったが、アン先生のお胸はたわわというか豊かというか、とにかく女の私でも思わず凝視してしまうほど立派なお胸の持ち主で。一方の私は肩こりに悩まされる程にはあると認識していたが、洋服と自分の胸の間に出来た大きな隙間を見て落胆せずにはいられなかった。


 アン先生の用意してくれた洋服は白いクルーネックのミニ丈ワンピースだったが、私が着ると膝丈になった。足の長さが……いや、もう、何も言うまい。

 ゆるゆるの胸元はショールを肩から羽織り、その上から胸下の位置で革紐を使って結び、なんとかカバーした。


 そんなハプニングもありつつ、アン先生は私にこの世界のことを懇切丁寧に教えてくれた。


 この世界の人たちは魔力の他に“属性”というものを持っているそうだ。

 赤子が産まれて初めての夜を迎えると、精霊が祝福してくれるという。精霊は火、水、風、土、雷、氷の六大精霊と、光と闇の(そう)の精霊がいて、主に六大精霊からの祝福が多く、火の精霊から祝福を受けた者は火の魔法を、水の精霊から祝福を受けた者は水の魔法を、祝福を授けた精霊と同じ属性の魔法を扱えるようになる。

 ただ、精霊はとても気まぐれで、たき火程の火力しか扱えない力だったり、逆に炎の龍を作り出すほどの力を与える時もあるのだそうだ。両親が強い属性の力を持っていたとしても、必ずその子供も同じく強い力の属性が持てるとは限らず、遺伝や家系は全く関係ない。


 その祝福を受けた精霊の力を利用する魔法を“精霊魔法”といい、使用できる精霊魔法は術者の受けた祝福ーー属性力によって変わる。こちらは精霊の力を借りる為、自らの魔力が消費されることはない。


 一方で、自らの魔力を消費して詠唱や術式を組み発動させるのを“魔術”といい、こちらは難しい術式を扱おうとすると持っている魔力量も多くなければ扱えない。


 その魔力も人によって量は違うが、魔力が全くない、という人間はいないーー私、以外だが。

 数値で言うならば、この世界の人間は最低でも10の魔力は持っていて、それは魔道具を使って生活するうえで困らない程度の魔力量なのだそうだ。10の魔力の人間が朝起きて寝るまでに使用する魔力はたったの2程度らしい。


 魔力と属性力は全くの別物だが、例外がいる。

 (そう)の精霊から祝福を受けた者は六大精霊の比ではない属性力を受け、魔力も比例するかのように増幅するそうだ。なんでも、属性力があまりにも強大過ぎる故、身体が持たず魔力が増幅するのでは?と言われている。(そう)の精霊から祝福される者は少なく、稀少な存在で魔力は50以上らしい。


 その稀少な属性を持つのが、ヴァン団長、シュロイズさん、アン先生。

 アン先生の属性は光で、光属性は癒し、治癒、再生、回復の精霊魔法を扱う事ができ、アン先生のように医療の仕事の他、教会に携わる仕事に就く者が多いそうだ。


 ヴァン団長とシュロイズさんの属性は闇で、闇属性は破壊、安息、眠りの精霊魔法を扱う事が出来る。そして唯一、魔獣に対抗出来る力の持ち主だ。

 私を黎明の森(オロール・フォレ)で追い掛けた異形の獣を魔獣と言い、怨みや憎しみ哀しみといった負の集合体でできているそれは、闇属性以外の精霊魔法が効かないそうだ。

魔獣は獲物を喰らう際、瘴気(しょうき)という毒ガスを吐き、獲物の体を麻痺させ、動けなくなったところを喰らう。しかもその瘴気(しょうき)は体は麻痺するが痛覚は残るらしい。なんてエグイ……


 そんな脅威に対抗できる属性を持つヴァン団長とシュロイズさんは、騎士団の中でも魔獣討伐部隊という特殊部隊に所属して、その部隊の団長と副団長だったのである。

 黎明の森(オロール・フォレ)に出没した魔獣は二体いて、二人はその討伐任務にあたっていたところ、私を見付けたそうだ。



 神様、本当に私に加護を授けてくれたんですか?なんて疑って申し訳ありませんでした。



 そうしてアン先生が「今日はもう寝ましょう」と言うまで話は続き、私の異世界転移生活一日目は終わった。











ニーナとアン先生のお胸のサイズはご想像におまかせします。

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