3:孤児と特訓
今日は皆に伝える事を伝え、皆からも明日からの特訓に向けての思いを聴いて解散した。家で特訓の構想を練りながら部屋にいるとなにやら外が騒がしいので、様子を見に行くと
「ねぇカイト!何て事を勝手に宣言しちゃったのよ!」
「水臭いぞ、俺らに何の相談もなしで。」
「うん。ルナもそう思う。」
やっぱりこいつらか、それにしても今日はルナもいるのか。ルナはこの街にあるサクラが住み込みで働いている宿屋の娘でひとつ年下だ。低身長と艶のある黒髪のツインテール姿を武器に、サクラと客の人気を二分している。たまに宿で余った料理などを、スラムに持ってきている。
「いつか来るとは思っていたけど、こんなに速いとはな。それにルナも一緒だし。」
「カイト、ルナを仲間外れにする気?」
「ルナ、仲間外れ嫌。」
というルナのが潤っていたのに気づいたサクラは、
「冗談よルナ。それはそうとカイトやっぱり相談するのが筋ってもんじゃない?」
「やっぱりまずかったかな?聞かれたなら答えるつもりだったけど、ハンターにならないお前らにわざわざ言う必要があるのかなって。」
「心の準備が必要でしょ!」
「そうだぞ、カイト!」
「うん。」
こう至極真っ当な事を三連続で言われると、さすがの俺でもなにも言い返せなかった。
「それじゃ、止めはしないから理由くらい教えてもらえる?」
「強いて言えば家の名誉回復のためかな?それに、俺なら簡単に入れるはずだから。」
「やっぱりね、でも大丈夫なの?あの学園の騎士学科には貴族の子が多いのよね。お父さんの事でなんかされたりしないの?」
「ありがとな、サクラ心配してくれて。それに全員がそうとは限らないし。」
「それじゃ、明日からの特訓で手伝える事があったら言ってくれよ。」
「助かるよタケル。それじゃ角材の切れ端見繕っといて。」
「おうよ!」
「それじゃまた明日な。」
「ばいばーい。」
「うん。また明日。」
反対されると思っていたけど応援してくれるとはな・・・さっきは簡単に入れるなんて言ったけど、あの学校騎士学科なのに筆記まであるからな。数学の方はこっちの世界は全く進んでないから簡単だけと、歴史全く別物だから何とかしないといけないみたいだ。明日から思ったより忙しくなりそうだ。
~翌朝~ 統一歴495年12月26日
俺は今、雪が積もり肌に冷たく冷気が刺さり太陽も出ないなか、スラム街に向けて歩いている。こんなに早く沢山積もってくれるとは思っていなかったから嬉しい誤算だ。なぜこんな朝早くからスラムに向かっているかと言うと、この雪を使って皆にトレーニングをさせるためだ。それにこの時期の王都の雪は水分を多く含んだおかげで見かけよりも重量が有り、腕と足腰と循環器系を一度に鍛えられる。
「スズネ、ユージおはよー!」
「「カイトにぃ(兄ちゃん)おはよー!」
「早いね二人とも、昨日集まった子達を起こしてきてくれる?」
「「はーい!」」
まだ体力のついていない年少組までは面倒を観れないので、8歳以上限定にしてある。それに集まったのは男ばかり15人。なので残った女の子達が年少組の面倒を観てくれるから、こっちとしてはありがたい。
「よーし、皆起きたね。ハンターになるにはまず体力が必要。その事は分かるよね。そのために今からこの街の大通りの雪かきするぞ。」
「うん。」「りょーかい。」
「ただし!雪合戦は無しだからな!」
「「え~~」」
さっきまでの笑顔が一瞬にして凍り付いた。無理もないだろう雪合戦は冬の楽しみのひとつだからな。
「文句はなし!それじゃ、東門から貴族屋敷にかけての一本道から片付けるぞ。」
「「「おーーー!」」」
時刻はただいま6時30分あれから小一時間ほどしてようやく太陽が昇り、街の人達もちらほら見え始めた。それにしてもあんな正確な時計が存在していることが不思議でならない。
「ハルバードさんの所の坊主じゃねえか。こんな早朝から雪かきとは助かるな。」
「そんな大したことじゃないですよ。」
「本当よカイトくん。家は娘しかいないからこう言う力仕事をしてくれるあの子達には感謝してるのよ。」
ハルバードとは俺のじいちゃんのことだ。そしてこのおっさんがタケルの親父さんで、隣の女性がルナの母親であの宿の女将さんだ。
「坊主、木材使いたいなら何時でも取りに来いよ。それとハルバードさんにこの前の鋸の礼を言っといてくれ。」
「はいわかりました。伝えておきます。
あの女将さん、もしよろしければあの子達朝食にお握り作って貰えませんか?勿論お代は払います。」
「1時間ほどかかるけど良いかしら。それとお代なんて要らないはよ。こんなに頑張ってくれたんだから。」
「よーしお前ら、あと1時間ほどでルナの母さんのお握り出きるからそれまで頑張れ!」
「「「よっしゃー!米だー!」」」
それからのスピードは凄まじかった。何と言っても東門から貴族の王都屋敷街との境の検問所までの500メートルに及ぶ石畳の大通りの雪を僅か2時間30分で片付けたのだ。
「うめー!炊きたてのお握りってこんなに旨いんだ、おばさんありがと。」
「あら嬉しいわユージくん。でもね一言余計よ。」
“グリグリグリグリ”
「痛ってー!ごめんなさーい!!」
女将さんに頭をグリグリされてユージが喚いているのを見て皆が笑ってる。そう、この女将さん見た目が綺麗なだけに、自分の事をおばさんと呼ばれるのを多いに嫌う。
「女将さん、その辺で止めといて下さい。それにやっぱり仕事した後の飯は最高ですね。ご馳走さまでした。」
「お粗末さまです。」
「女将さん、何かこの子達に手伝える事ってありますか?」
「それじゃあ、薪割りを頼もうかしら。」
「「「はーい。」」」
本当にみんな人懐っこい子達だ。女将さんの手作りお握りを食べた後、女将さんに頼まれて薪割りを手伝っている。これも立派なトレーニングの一つだ。この子達が選ぶ武器が何であれ、筋力をつけることは悪くない。そして俺は起きてきたサクラとルナにあの子達の世話を任せて、ひとりこの国最大の蔵書を誇る国立図書館へ向けて歩き出す。




