12:王竜戦までの日々②
私はレインは王立ラインハルト学園の騎士学科一年の担任をしています。今年の生徒たちは粒揃いなんだけど、例年以上に仲が悪すぎます。騎士学科では貴族出身の男子と他の生徒との仲が悪いのは毎年の事なんだけど、今年は人数比が1:1と女子や平民出身の生徒の数が例年よりも多く、それに首席合格のカイト君が女子側についているため両陣営のパワーバランスが拮抗しており、先生たちが口を出してどうにか出来る状況じゃありません。その前に規則に引っ掛からない所で繰り広げられている為どうにかしたくてもどうすることも出来ません。それに私個人は身分の差から来る問題は第三者が介入すべきではないと思うのです。そう言うことは当事者の間で後に遺恨を残さないように解決すべきだと思うのです。それが対話による解決なのか、剣と剣の語り合いなのかは何でも良いけど、彼等ならしっかりと自分達だけで解決する事を私は期待してます。またもうすぐ王竜戦の決勝トーナメントです。出場する生徒には自らの実力を国内各地から来る将軍や騎士団長にアピールする場です。またその日から学校は夏期休暇に入るため他の生徒にとっては夏の実地研修前のちょっとした息抜きと言ったところでしょうか。ですが、私たち教員には王竜戦を生徒と一緒に楽しんでいる場合ではありません。予選の時は生徒会の皆が運営の大半を担っていたが、決勝トーナメントは国事である建国記念祭に合わせて行われるため、私たち教員は学園長をトップとして議会と生徒会との間を取り持たなければならないのです。まぁ、当日までは決勝トーナメントに出場する自分のクラスの生徒が実力を十分に発揮できるように担任である私は指導に当たることになり、今日もまた彼女たちの剣術指導です。
とある修練場にて私はステラさんとユーナさんの相手をしている。さすがは決勝トーナメントに進んだ実力の持ち主だが、二人がかりで私から一本も取れないでいるままでは、所詮は女子の代表に過ぎない。
「ステラさんは力みすぎです。そんなに力を入れたら取り回しに支障がでる!反対にユーナさんは押しが弱い。ただでさへレイピアは軽量なんだから、刀身の厚い男子の剣だとすぐに弾かれるよ。」
「「はい!」」
授業としてレイピアを扱うことはあってもそれは貴族の婦女子として嗜む程度に過ぎず、対人戦としての技術を習得させている。レイピアの長所はその軽量から来る取り回しの容易さであり、短所は刀身が細身ゆえ力が加わる向きによって折れやすい事である。その長所を最大限生かすためには敵の攻撃はしっかりと回避をすることであり、剣で受け止めてはならない。
「自分の動きは最小限に留めて攻撃を躱しながら、相手を沢山動き回らせて体力と気力の両方を削る。じゃないと体力で劣る男子になんて勝てないよ。そして王竜戦に時間制限なんてないんだから勝機が見えるまで勝ち急がない。それと一本は取れなくても、私が喋らなくなるまで焦らせてみなさい。」
「「はいレイン先生!」」
自分の生徒が自分を超えてくれるのはとても良いことだけれども、本格的な指導を始めてたった二日で抜かされてしまっては私の教師人生はおしまいです。まぁ卒業するときに本気でやって一本取られるくらいが教師としては最高の喜びです。そんなことを考えながら二人の相手をしていると、とうとう彼女たちが膝をついてしまった。
「二人がかりでも勝てないなんて先生は強すぎですよ。レイン先生は本当にただの教師なんですか?」
「二人がかりだから勝てないのよユーナさん。どうしてだか分かる?」
「私にはわかりません。ねぇステラは分かる?」
「さぁ、私も二人がかりの方が戦術の幅が出来るので有利だと思います。」
「うん。普通に考えればそうだけど、二人とも私と一対一で闘った昨日よりも一対二で闘った今日の方が疲れたてしょ。」
二人とも何で分かったの?っていう顔をしている。どうやら図星のようです。
「それはその分闘っている時間が長くなったからではないのですか?」
「それも少しはあるけど、一対二の場合は先生からの攻撃を躱すだけじゃなくパートナーの邪魔にならないように攻撃して、自分もパートナーの攻撃の邪魔にならないように立ち回らないといけないからその分余計に精神がすり減るの。逆に先生は二人が疲れるまで躱し続けるだけだから一対一の時と比べてそんなに疲れないの。」
「だから二人がかりで先生を相手にして動きの無駄を省くというわけですか?」
「そう言うこと。制と動の切り替えを出来るようになればちょっとは善戦出来るようになるはずよ。」
まぁ、あと一週間で完璧に無駄を省くことは不可能だけれども、それに向けて積み上げてきたものは無駄にはならないと私は思う。
「今日はあと一セットやるよ。準備は良い?」
「「はい!」」
彼女達の成長が楽しみな私である。
俺のライアン、昨日からゴドフリー教官と修行出来ると思っていたのに昨日は何かの数値を計測しただけで明日まで待てと言われて終わってしまった。
「教官、今日こそ修行つけてくださいよ!」
「俺は約束を破りはしない。昨日もそう言って解散しただろうが。」
と言う教官の後ろには昨日の計測の時に一緒にいた魔導師学科の女教師が立っていた。
「どうして魔導師学科の先生がここに?」
「君は何も教えてもらっていないようだけど、昨日は君の精霊との適性と魔力保有量を調べていたの。それで君にはあの技を習得できるだけの才能はあると言うことが分かったの。」
「それなら早く修行にいきましょうよ。」
「その前に俺と約束してほしいことがある。この技は元々ハンターが魔獣と闘う時に編み出した技であり、対人戦では騎士団長や将軍同士の一騎討ちの時にしか使われない技だ。だから君が決勝でその人と闘うまで誰が相手だろうと使わないことを守ってくれ。それが出来ないと言うのならその技の伝授は出来ない。」
「わかりました。僕もその積もりです。」
対カイト用の秘策をカイト戦の前で使ってしまっては秘策の意味がない。
「ならば彼女に師事して習得しろ。」
「と言う事だから私についてきて。」
そうして俺が名前も知らない魔導師学科の先生に連れてこられたのは薄気味悪い実験室とも言える地下室だった。
「ここなら大丈夫そうね。」
「一体ここは何処なんですか?」
「私の持ってる研究室の一つよ。・・・そう言えば自己紹介まだだったわよね。私はナタリー・アルフォード。この学園の魔導師学科の教師よ。宜しくねライアン君。」
「俺はここで何をすべきなんでしょうかアルフォード先生。」
「ナタリーで良いわよ。」
すると今まで薄暗かった部屋に明かりがついた。そこにはガラクタの山が無造作に積み上げられていた。
「ちょっとその剣を貸してちょうだい。」
「えっ、あっ、はいどうぞ。」
俺から剣を受け取ったナタリー先生が何かぶつぶつと呟いているとガラクタの山の中から人形のようなものが飛び出してきた。次の瞬間ナタリー先生はその人形のような物に向けて俺の剣を振り下ろした。すると刀身が当たったわけでも無いのにその内の一体は真っ二つになり、もう一体は剣に触れた場所が一瞬にして粉砕した。
「あの人形みたいなのは何なんですか?」
「あれは私が開発した自律制御型防衛人形の試作機よ。そして私があの人形を倒すのに使った技が今日から君が習得する剣術と風属性魔法の融合技、風刃と雷刃よ。その名のとおり風刃は斬撃を風にのせる事により剣による遠距離攻撃を可能にし、雷刃はその剣に雷を纏わせる事により敵を感電させることが出来る技よ。君にはまず風刃の方を先に習得してもらいます。」
「待ってくださいナタリー先生。俺は魔法の魔の字も知らないんですよ。普通に使ったこともないのに出来るのですか?」
「それなら昨日の計測の時の感覚を思い出しなさい。剣に魔力を流すだけなら今の君でもなんとかなるはずだから。」
「と言われましても、」
「それなら身体強化魔法の感じよ。こればっかりは自分でどうにかしないと駄目なの。じゃないと制御のコツを教えようにも教えれないの。」
そう言われて身体強化魔法の時と同じ感覚で剣に魔力を流すことが出来た。それから俺は自分の中にある昨日の記憶と対話をしながらようやく風刃らしきものを一発放つことが出来た。
「まだ風刃と呼ぶには威力が無さすぎるけど、発動出来たのだから、精霊を感じる事が出来たようね。後はその感覚を忘れないようにいること。そして精霊は友達として扱ってあげること。いいわね。」
「はい!ナタリー先生。」
こうして俺の風刃が何とか形になった。これからあと一週間かけて、それを実践で使えるようにするだけである。




